2020年代の金融セクター より包摂的なシステムを築く新たな10年
IMF News, January 17, 2020
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- 2020年代の金融セクター より包摂的なシステムを築く新たな10年
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- Published: January 17, 2020
- DOI: https://doi.org/10.1787/7e1bf673-en
I. はじめに
- スピーチ発表者: クリスタリナ・ゲオルギエバ(国際通貨基金 専務理事)
- 開催地・日時: ワシントンDC ピーターソン国際経済研究所、2020年1月17日
- キーメッセージ:
- 新しい10年のテーマは「高まる不確実性」。
- 一般的な不確実性(地政学、貿易、公共政策)に加え、人々が直面する生活の不確実性(家計の支払能力、将来の幸福、安全)が重要。
- 本スピーチでは「格差」と金融セクターが果たせる役割に焦点を当て、IMFの最新研究成果を紹介。
II. 拡大する格差とそれに対処するためのツール
- 国際的な傾向:
- 過去20年で国家間の所得格差は激減。アジアの主要な新興市場国の台頭が寄与。[1]
- 同一期間に多くの国で国内格差は拡大。例: イギリスでは上位10%の富が下位50%の富とほぼ同等。[2]
- OECD加盟国の大半で所得格差や貧富の差はかつてないレベルに達しているか達しつつある。[3]
- 気候変動の影響:
- 世界銀行の試算では、現在の気候変動の軌道を変えなければ、極度の貧困の下に暮らす人々が2030年までに1億人増える可能性がある。
- 政策ツール:
- 財政政策は重要であり続けるが、金融セクター政策も重大かつ永続的な影響を持ち得る。
- IMF職員の新研究は、適切に機能する金融セクターが新たな機会を創出し得る一方、統制が不十分な場合は格差を増幅させる可能性を示す。[5][6]
III. 金融セクターは格差にどう影響するか — 3つの側面
- 全体観:
- 金融深化、金融安定性、金融包摂という3つの側面が中心的テーマ。
- a) 金融深化
- 定義: 金融深化とは、ある国の経済全体に対する金融セクターの相対的な規模。
- 事例と効果:
- 中国とインドでは1990年代の金融セクター成長が2000年代の大きな経済成長への道を開き、10億人を超える人々が貧困を脱した。[4]
- しかしIMFの新研究は、金融深化がある点に達すると格差の増大と包摂的成長の減少につながると指摘。[5]
- 米国の例:
- 2006年に金融サービス企業はS&P500指数の25%近くを構成し、全利益のおよそ40%を生み出していた。[7]
- 要因:
- 過度な金融深化は複雑な金融商品、影響力あるロビイスト、過剰な報酬などを通じて富裕層を主に利する構造を生み得る。
- b) 金融安定性
- 影響の大きさ:
- 金融危機の結果、GDPが平均で10%恒久的に失われることがわかっている。[8]
- 座礁資産の価値下落が4兆ドルから20兆ドルの損害をもたらす可能性があるとの試算がある。[9]
- 格差との関係:
- IMFの研究は、金融危機の前に格差が拡大する傾向があり、格差が金融安定性のリスクを高めると示唆。[10]
- 2000年代の米国住宅市場の事例: 住宅所有促進の政治圧力と融資規制の緩みがバブルとその後の世界金融危機を助長し、長期的に格差を深刻化させた。
- 結果の一例: 世界金融危機の結果、現在欧州の若者の4人に1人は貧困に陥るリスクに瀕している。[11]
- 教訓:
- 金融サービスは本来有益だが、「過ぎたるは及ばざるが如し」。適切なバランスが必要。
- c) 金融包摂
- 定義と効果:
- 金融包摂 = より多くの人や企業がより安価かつ容易に金融サービスへアクセスすること。
- 銀行口座の利用拡大と所得格差削減には強い関連がある。女性の金融アクセス向上は所得格差減少効果が特に大きい。[12]
- 実例:
- スウェーデン: 銀行口座保有率は富裕層と貧困層で差がない。
- インドネシア: 所得格差が大きく、上位20%の銀行口座保有率は下位20%のほぼ倍。
- カンボジア: モバイル・ファイナンスにより過去10年に新たに200万人が融資を受けられるようになり、これは成年人口のおよそ20%に相当。[14]
- マクロ効果:
- IMF職員による研究は、金融包摂が進んでいる国とそうでない国では長期的に見るとGDP成長に2 ~3%ポイントの差があると示す。[15]
- 結論:
- 金融包摂はジェンダー、人種、地理的条件などによる障壁を打ち破る可能性がある。
IV. 今後 10 年でより包摂的なシステムを構築するための政策
- 全体方針: 「安全性、安定性、スマートさ」を高めることが必要。金融深化、安定性、包摂に対する政策分野は3つ。
- 1) より安全なシステム
- 実施策:
- 質の高い規制と監督を維持・強化すること。
- 銀行の資本要件や流動性要件の厳格化、問題銀行の破綻処理の簡素化、透明性・説明責任の向上は既に進展しているがまだ不十分。
- 金融リテラシー向上により、消費者が商品やサービスの意味を理解できるようにする。
- 2) より安定したシステム
- 民間部門と銀行業界の役割が重要。
- 気候関連リスク:
- IMFは当該分野の新研究を公表予定。金融セクターは炭素排出量正味ゼロ達成に重要な役割を果たし得る。
- 企業は融資において気候変動の影響に適切に価格を設定する必要がある。長期視点(今後10年)が重要。
- 例: 昨年、気候変動の影響により初めてS&P500指数構成企業が破産する事例が発生。[16]
- より厳格な情報開示基準は、リスクのあるプロジェクトへの融資コスト上昇を通じて資金配分を改善し得る。
- 融資判断の改善:
- 金融機関は将来のキャッシュフローに基づく融資判断を増やし、過度の担保要求に依存しない方向へ転換すべき。
- IMFの研究は、小規模企業への融資は大企業への融資と比較して金融の安定性を高めリスクを減少させることを示す。[17]
- リスク分散が進むことでより包摂的で健全な経済が期待される。
- 3) よりスマートなシステム
- 目標: 低所得世帯や小規模企業が金融サービスを利用しやすくすること。
- フィンテックの役割:
- フィンテックは融資提供拡大を促しつつ固有のリスクを生む。政府は企業と連携し、リスク管理とポテンシャルの活用を両立させる必要がある。
- 2018年のバリ・フィンテック・アジェンダは、競争促進、消費者保護強化、資金洗浄防止などを主要原則として提示している。
- エビデンス:
- 世界銀行の調査(140か国、13万5,000社対象)では、小規模企業への融資が所得格差縮小に直接つながっている。[18]
- エムペサの例: ケニアでのモバイル決済サービスが金融アクセスを大幅に拡大し、2020年からアフリカ全土で金融プラットフォームとしての展開が進む。
V. 終わりに(結論と行動喚起)
- 主張の要約:
- 格差拡大は放置すれば悪化する問題であり、財政政策だけでなく金融セクター政策も不可欠。
- 過去の教訓(1920年代の過ち)を繰り返さないために、金融セクターの安全性・安定性・スマート化を推進することが必要。
- 行動の呼びかけ:
- 今年を行動の年とし、2020年代を誰もが繁栄する時代にすることを目指す。
- 引用: F・スコット・フィッツジェラルドの言葉「人格は行動にあらわれる」。
出典: 国際通貨基金 専務理事 クリスタリナ・ゲオルギエバ、ワシントンDC ピーターソン国際経済研究所、2020年1月17日
References
- https://www.imf.org/ja/about/senior-officials/bios/kristalina-georgieva
- ニュース
- 中華人民共和国 とIMF
- 危機と不況が経済に残す傷跡
- Inequality and Poverty Across Generations in the European Union
- Women in Finance: A Case for Closing Gaps
- [Belt and Road Initiative: Two Key Channels to Achieving
Financial Connectivity](https://www.imf.org/en/News/Articles/2019/04/24/sp042519-belt-and-road-initiative-two-key-channels-to-achieving-financial-connectivity)