Typical street scene in Santa Ana, El Salvador. (Photo: iStock)

写真:Gopixa/iStock by Getty Images

IMF サーベイ・マガジン : IMFワークアジェンダ、世界経済の成長の押し上げと新規リスクへの対応を目指す

2015年6月25日

  • 世界の経済成長(実際・潜在的)の促進が、最重要課題
  • 金融の安定性リスクへの対処が、引き続き重要課題
  • アジェンダ、分野横断的な課題で多国間協力を強調

際通貨基金(IMF)は、リスクを軽減するとともに、実際の成長率と潜在的成長率の改善を支えるため新たな世界的課題に挑戦することを掲げた、最新のワークプログラムを発表した。

マリの村民:新たなIMFのワークプログラムは、ポスト2015年開発アジェンダをはじめとする世界的問題に関する研究を重視する(写真: Mauricio Abreu/Corbis)

マリの村民:新たなIMFのワークプログラムは、ポスト2015年開発アジェンダをはじめとする世界的問題に関する研究を重視する(写真: Mauricio Abreu/Corbis)

IMFワークプログラム

1年に2回作成されIMF理事会が協議を行うワークプログラムは、4月の春季会合でクリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事が提示した、グローバル政策アジェンダが示した政策優先事項を基盤としている。ポスト2015年開発アジェンダや国際通貨制度強化で考え得る方途など、多国間的な側面をもつ課題が複数重視されている。

シダート・ティワリ戦略政策審査局長が、今後のIMFの主な優先事項について説明した。

IMFサーベイ: IMFは世界経済の成長を押し上げることが重要だと強調しています。成長を支える財政政策の策定に取り組む加盟国を支援する努力を、どのように拡大していきますか。

ティワリ: 世界経済の成長にはばらつきがあり依然として弱く、世界金融危機から7年経過した今も職を失ったままの、2億以上の人々の雇用を創出するには十分ではありません。我々には、財政の中期的持続可能性を確保するための措置を採りつつ、信頼できる政策枠組みの中で、持続可能な回復を支えるための成長志向の財政政策が必要です。

これを支えるべくIMFは、政策助言、技術支援及び研修を組み合わせて活用し、短期的成長・長期的成長の双方に資する財政政策の形成で、加盟国を支援していくことになります。

そのひとつの例が、今度発表する研究、「財政政策と長期的成長(Fiscal Policy and Long-Term Growth )」です。ここでは、支出、歳入改革、及び長期的成長の関連性を研究しています。またもうひとつの例は、最新のペーパー「公共投資の効率性を高める(Making Public Investment More Efficient)」で、ここでは、公的資源の効率的な活用を担保しつつ、投資の成長へのインパクトを最大限に引き上げるための公共投資の枠組みの改革手段を検証しています。

10月には、OECD、国連、そして世界銀行と合同ペーパーを発表する予定です。ここでは、低所得国における投資税のインセンティブの効果的な活用について研究します。さらに来年には、公務員給与のための支出と雇用のトレンドを評価し政策面の教訓を引き出すとともに、財政のメカニズムと財政政策枠組みをより詳細に分析する予定です。

IMFサーベイ: 極めて重要な構造改革を実施する加盟国を支援するために、さらにどのような活動を予定していますか。

ティワリ: 経済の機能の度合いに影響を及ぼす政策や制度の改革である構造改革が重要であることは、多くの国が述べていることであり共通のテーマです。危機の後、成長を元の軌道に乗せる必要がある国がある一方で、潜在GDPの落ち込みの回避に集中して取り組む国もあるでしょう。簡単に言うならば、誰もが「新たな凡庸」を回避したいのです。

我々は、加盟国により良い支援を行うために、構造的問題に関する分析を強化してきましたが、今後はさらに力を入れ、我々の各国との関係にこれをより一層組み込んで行く予定です。9月に発表予定の我々のペーパー「加盟国に見る構造改革(Structural Reforms Across the Membership )」は、この方面でのIMFの活動を深化させる様々な手段を追求することになります。

一方で、地域に特化した研究も行います。中東や中央アジアの潜在成長率を強化する政策を検証するペーパーを発表するとともに、欧州連合のガバナンス枠組みの構造改革を集中的に研究する予定です。

また、貿易や海外直接投資の自由化が成長に及ぼす影響や、金融包摂と経済成長の相関性など、特定の改革についても分析を進めていく予定です。

以上に加え、不平等、ジェンダー、エネルギーの価格設定、気候変動といった問題の我々の理解を深めるとともに、こうしたトピックについて、関連している国や地域と行う我々の年次評価で議論していきたいと思っています。

IMFサーベイ: 金融の安定性リスクがここ数カ月で上昇しています。ワークプログラムではこの問題にどのように対応しますか。

ティワリ: 加盟国の多くが抱える課題が、金融の深化つまり、銀行による与信と金融市場の拡大の管理です。金融の深化が成長のプラスであることは明白ですが、金融の安定性リスクも伴う可能性があります。加盟国がこれを上手く管理できるよう支援することが、我々の最優先事項です。金融部門とより広く経済の連関の分析を深め、金融の深化と金融包摂に関する我々の理解を高めるとともに、我々の政策助言を改善します。こうした取り組みは、加盟国経済の定期健康診断に組み込まれるようになっています。

マクロプルーデンス政策に関する助言、つまり金融システムリスクの軽減を狙った金融規制に関するガイダンスも、加盟国にとり引き続き重要となっています。


IMFサーベイ: 債務水準が高い加盟国を支援する枠組みを、IMFはどのように強化していきますか。

ティワリ: 公的債務を管理可能なレベルに抑えるといった健全な財政ポジションの維持は、マクロ経済の安定性を確保し経済サイクルを通して政策を行う余地を構築するうえで、不可欠です。債務の持続可能性を評価し過剰債務に対処するためにいくつか計画されていることがあります。「低所得国における債務の持続可能性-変わり続ける状況(Debt Vulnerabilities in Low-Income Countries—The Evolving Landscape )」では、低所得国の債務の変化を見直し、債務の持続可能性リスクを引き起こす脆弱性の特定に努めます。

現在進めているソブリン債務再編に関する分析では、例外的なアクセスを伴う融資、つまり我々の通常の制限を越える融資を行う際の枠組みの修正を提案するペーパーを作成しました。年内にIMF理事会がこのペーパーについて議論することになっています。また2~3カ月後には、ソブリン債券 の契約条項の改善を含めこれまでの進捗状況を振り返る予定です。

同時に我々は、最近の経験と公的な債権者構成の多様化に鑑み、延滞債務になる融資、つまりある国が債務の支払いを債権者に対して行っていない場合についての我々の政策の実効性を評価する予定です。

IMFサーベイ: ポスト2015年開発アジェンダの策定でIMFはどのような役割を果たすと考えていますか。

ティワリ: 今年は、国際社会が今後の国際開発のアジェンダを策定するまたとない機会です。IMFは、自らのマンデート(責務及び権限)に関連する範囲内で貢献していきます。また専務理事が国連の3会議に出席する予定です。

IMF理事会は7月に「モンテレー合意再考(Revisiting the Monterrey Consensus )」というタイトルのペーパーについて意見を交わします。同ペーパーは、加盟国が開発目標を達成するために、持続可能な資金調達枠組みを策定するにあたり中核となる政策事項に関するIMFの立場を示すことになります。また、同ペーパーは途上国と我々の関係の強化が可能な分野の特定も目指します。

さらには、「途上国の金融セーフティネットを強化する(Enhancing the Financial Safety Net for Developing Countries )」と題したペーパーも発表します。ここでは、「貧困削減・成長トラスト」の現行の財政枠内で、最も貧しい国々の譲許的融資へのアクセスを拡大する手法、及び自然災害や紛争の影響を受ける国々への支援を強化するための手段を提案することになります。

IMFサーベイ: 国際通貨制度の強化ではどのような活動を行いますか。

ティワリ: 現在転換期にある国際通貨制度を、今日の問題に合わせ変化させるためには課題が多く残っています。世界危機から前進はしたものの、制度の頑健性については依然疑問が残ります。このことから、我々は「国際通貨制度の強化:これまでと今後(Strengthening the International Monetary System: Taking Stock and Looking Ahead )」という研究を2015年10月の発表に向け進めています。ここでは、さらなる作業が必要となる可能性がある分野を特定する予定です。

11月には、特別引出権(SDR)の評価の見直しを行います。SDRはIMFの 会計単位で加盟国が有する準備資産です。5年に1回行われるレビューでは、SDRバスケットの通貨構成を評価します(現在は、ユーロ、円、スターリング・ポンド、米ドルで構成されています)。このレビューは、中国の元がSDRバスケットに含まれる基準を満たしているかどうかを評価することから、特に重要です。