2018年 対4条協議終了に当たっての記者会見

2018年10月4日

 

ありがとう。皆さまこんにちは。東京にまた戻ってくることができて本当に光栄に存じています。今回は、4条協議終了のときということで伺っています。幾つか私から、所見にて、チームが行ったものですが、日本の経済についての見解等について述べる前に、まずIMFを代表して、また私から、今年、自然災害で被災された方々に心よりお見舞いを、お亡くなりになった方にお悔やみを申し上げます。地震も含めて自然災害が日本を襲いましたが、日本の方は常に素晴らしい、強靱な精神を持って、強さを持って窮状に対応され、世界中が感銘しています。本当に素晴らしい力を集団としてお示しになっておられます。敬意を表します。

私はこの2日間本当にラッキーで、安倍総理、麻生副総理、黒田日銀総裁ともお会いする機会を得ました。皆さまのお手元に声明のコピーがわたっていると思います。これがチームが、当局との討議を終えた結果出したものです。いろいろな分野の当局と討議させていただいた結果で、まとめという形で所見が載っています。本当はより長いバージョンですが、私からはかいつまんで申し上げます。

まず、今年の4条協議の中心テーマは日本の人口構造の変化でした。特に高齢化関連の問題、就労者の減少等です。特にフォーカスしたのは、この状況が日本経済にどのような課題になるのか、財政の影響、もちろん金融システムへの影響について探ってまいりました。いかにこのチャレンジに日本は立ち向かっていくのか、どういう対応策を示すのかということが、今後、他国が学ぶべきスタンダードになるのです。既に、もしくはこれから日本と同じような状況になる、高齢化問題に直面する、就労人口の縮小に直面する国が他にもあるからです。

それでは、日本の成長見通しはどうでしょうか。まず、今年は1.1%と推計しています。来年は0.9%です。これは大幅にポテンシャルを上回っている数字です。短期的な成長の基調は堅調です。来年10月に消費増税が2ポイント予定されているにもかかわらずです。しかし、もちろんこの策によって2020年の成長は抑えられるのではないかと思っています。インフレは今後ともゆっくりめに上昇していく、しかし、向こう数年間は2%の目標を下回ると見ています。

金融部門は全体として安定を続けています。しかし、低金利環境と高齢化と相まって、金融機関の収益性は悪化しています。ということで、彼らも高い利回り追求を促されるでしょう。その結果としてのリスクは続くと思われます。特に地方の金融機関がチャレンジに直面するのではないかと思われます。

以上、背景として申し上げた上で、私から四つの要素について述べてみたいと思います。この数週間での作業を受けての結果です。

まず、アベノミクスが始まって6年目に入り、相当な成果が上がっています。三本の矢のおかげです。第一に、デフレリスクは後退しました。第二に、財政赤字は大幅に減っています。第三に、失業率もとても低いです。第四に、かなりの女性が就業するようになっています。しかし、インフレは日銀の目標2%をまだ大幅に下回っており、公的債務もまだ持続可能なところまで戻っていません。家計の所得も低迷中です。われわれの見解によると、こういった課題はさらに肥大化するのではないかと思っています。というのは、日本は高齢化および人口減少を続けるからです。われわれの評価としては、人口と経済の規模は、向こう40年間で約25%減るのではないかと思っています。これが第1点です。

ということは、新鮮な目でアベノミクスを見る必要があります。そのためには力強い政策が必要だと思っています。基本的なわれわれの見解によると、アベノミクスの原則は有効であると思います。でも、これをもっと拡大し、持続可能にし、加速化する必要があります。より重要なことは、三本の矢をパッケージとして総動員するということです。それができれば、お互いに強化し合うことができるからです。

3点目、フォーカスは今後、日本のマクロ経済政策の余地を再生していくということになります。現状によると、財政政策も金融政策もぎりぎりのところまで広げてきて、ショック対応の余地が限定的になっています。短期的な財政政策は成長を守るべきです。成長志向にならなくてはなりません。この脈絡では、消費増税がその一助となります。医療、年金などの経費充当の一助となり、財政再建を後押ししてくれるからです。しかし、われわれのリコメンデーションとしては、2019年の消費税引き上げは慎重にデザインされた緩和政策とセットであるべきと思っています。短期的なリフレを守る、成長のはずみを守るためです。少なくとも向こう2年間、フィスカルスタンスは中立であるべきだと思っています。

短期を超えるということになると、今回の引き上げに次いで、漸進的な小幅な引き上げがあるべきと思っています。中長期的には、信頼できる、具体的な財政戦略を取ることが必要かと思います。公的債務を管理するため、高齢化関連のコストに応えるためです。日銀が堅持なさっている金融緩和をわれわれは支持しています。2%のインフレ目標を達成するという日銀のイニシアティブを、金融政策を持続可能にするという点で歓迎します。

4点目、アベノミクスを再活性化することは、第三の矢、すなわち構造改革をさらにやることができるかに多分にかかっています。構造改革はいろいろとやることができます。その中でも、労働市場改革が最重点策ではないかと思っています。そして、これによって最大限の便益が得られると思います。労働者の生産性が高まり、デマンドの刺激も、賃金および物価につながる、そしてインフレに役立つからです。これが最重点策と思っているのですが、これに加えて、製品市場の改革、コーポレートガバナンス改革、貿易の自由化も進めるということだと思います。既に日本は後者においてはリーダーです。こういった改革は法制化する必要があり、実施しなくてはいけない、深さを持たなくてはいけない、そして信頼できるものでなくてはいけません。日本および日本国民がアベノミクスのメリットを最大限享受し、それを促進するために。

申し上げましたように、進展のためには、もちろん今後たくさんの課題が日本にありますが、強化し、加速化し、パッケージディールをやっていくことだと思います。お互いに再強化し合うような役目を持ってやっていただければと思います。私も当局と昨日、今日を通して協議させていただきましたが、まさにこれが当局の持っておられる意図でもあるのです。内閣を改造されて、組閣されたばかりです。必ずこの政策を実施してくださると思います。

以上です。それでは質疑応答としたいと思います。アジア太平洋担当の副局長のブレックさんもご一緒していただいているので、ブレックからも必要に応じて答えさせていただきます。どうもありがとうございました。

質問:こんばんは、NHKのヤマダナナです。また東京でお目にかかれてうれしく思います。消費増税に関して質問させてください。ステートメントには、経済全体の見通しとしては下振れリスクが増えてきていると書いてありましたが、この増税のタイミングは望ましいと思いますか。一般論として、国民は増税にセンシティブです。今が増税を考えるいいタイミングなのでしょうか。そして、国民としては増税によるマイナスの影響にどう備えればいいでしょうか。

ラガルド氏:どんな時期でもリスクがない時期はありません。リスクはどんなときでも必ずあります。しかし、日本経済は成長が堅調な局面にあり、ポテンシャルを上回る成長を遂げており、現在が恐らくベストな状況で、必要な策を取り得るときだと思っています。われわれは一貫して、税収を増やすために、消費税は引き上げなければならないと申し上げてきました。医療ニーズ、年金給付、教育資金などいろいろな課題への対応もありますし、また、債務負担を減らすために、増収分の幾らかは債務返済にも充てなければなりません。われわれとしては、適切に補うことができれば、そしてわれわれがレコメンドしているように、向こう数年間、財政のスタンスが中立であることが守られれば、適切な状況であり、国として十分チャレンジに立ち向かえると思っています。

質問:専務理事、ありがとうございます。日経CNBCのサトウユカです。日本政府はプライマリーバランスの黒字化を5年間後ろ倒しにしました。今、2025年ということになっていますが、これについての見解はいかがですか。

ラガルド氏:日本当局、特に財務省がプライマリーバランスの黒字化の時期を、2020年から2025年に延ばす決定をされました。これは常識的なアプローチだと思っています。というのは、成長見通しと提案されている財政経路から判断すると、より実態と整合性を持っているからです。目標を設定し、それにフォーカスしてコミットするということであれば、ありそうもない結果を約束するよりも、守れそうなものを設定する方がいいわけです。ですから、2025年への先延ばしはリアリズムの結果だと思います。

質問:AFPのレガード・リッチカートです。アベノミクスを再活性化する必要があるとおっしゃいましたが、ウーマノミクス、女性の活躍促進がその柱の一つにあると思います。もっと女性を労働参加させなければならない、ジェンダーギャップを解消しなければならないと、専務理事はずっとおっしゃっています。新しい内閣には25人の中で1人しか女性がいません。政治家は、政治の場でもっと範を垂れるべきでしょうか。ウーマノミクスについても再活性化する必要があるでしょうか。

ラガルド氏:私の理解では、閣僚では女性は1人と伺っていますが、副大臣級は5名の女性が任命を受けられたと聞いています。私は一般論として、増えれば増えるほどいいと思っています。特に内閣の構成については、全ての国について一様にそうです。私がかなり注目している点として、安倍総理はずっとチャンピオン的存在として、先頭に立ってウーマノミクスを実行し、女性活躍・就業をプッシュしてこられました。そして、既に目に見える成果が出ています。でも、もっともっとやれます。そうすれば、さらに生産性を上げることができます。より堅調で持続可能な、良い賃金を見いだすこともできますし、女性の力の質をさらに引き上げ、女性に対して長期的な雇用を拡充できれば、マンパワー不足や生産性の不足といった課題の解決につながります。いろいろな対策がありますが、私の持論としては、もっと託児所を整備するなどいろいろな策を講じることで、女性も男性も、両親ともに育児と就労を両立できるはずだと思っているので、それがうまくいけば、より女性の長期雇用がかなうと思います。

質問:共同通信のイデソウヘイです。今日のステートメントを伺っておりますと、単一税率を支持していらっしゃるようですが、ご存じのように、東京は既に来年10月から複数税率の導入を決めています。専務理事としてのご経験から、また、フランスの財務大臣であったご経験から、今回の複数税率導入という決定については考え直す必要があると思われますか。

ラガルド氏:単一税率は最も効率の良い構造、デザイン、やり方です。消費税の増税もしやすいです。しかし、財務大臣も務めていた経験から言うと、時によっては複数税率を並立させることもあるでしょう。税務行政の中で徴税はとても重要ですが、一定の配慮をして、社会問題にも応える、低所得者層の悩みに応えることも重要です。食料・飲料は8%の消費税率をキープし、その他については10%まで上げるといったアプローチは、十分その背後の事情は分かります。純粋に経済の観点から見れば、もちろんそれがパーフェクトな解決策ではありませんが。少し変わったお答えになってしまいましたが、最初のお答えはIMFとして、2番目は元財務大臣としてのお答えでした。

質問:NNA ASIAのマイク・サトウです。長期化している日本の金融緩和と、アメリカにおけるクレジットのタイト化は、アジアの金融市場や経済にどのようなプラス・マイナスの効果がありますか。

ラガルド氏:申し上げましたとおり、われわれは日銀の緩和政策を100%支持しています。そして、この金融政策を持続可能にしていくのだという決意、姿勢を歓迎しています。われわれとしては、クリアなコミュニケーションを奨励し、サポートしていきたいと思います。市場参加者に随時公報していくということです。アメリカの金融政策は、もちろん、アジアも含めてマーケットに影響を与えます。既にインパクトが出ていると思います。かなりの新興市場のマーケットが、資本の流出という形で影響を受けており、一部の国においては既に流出が起きています。全体ではもちろんネットで流入が続いていますが、国によっては既にネットで流出になっているところもあります。これが第1点です。第2点として、今後、特にソブリンや法人の分野で、米ドル建てで借り入れをしているようなところでは、ファイナンシングコストがかさんできます。それが経済、金融に影響を及ぼすことは必至です。

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