(写真:IMF Photos/Cyril Marcilhacy) (写真:IMF Photos/Cyril Marcilhacy)

重い債務を負う企業に対し、政府は支援または再編の選択を迫られている

セイラ・パザルバシオグ、ローダ・ウィークス・ブラウン著

回復に向けてのリスクを回避するため、政策当局者は生き残れる企業にサポートを集中し、そうでない企業の再編または清算に向けた準備を進めるべきである。

企業は、世界金融危機後の低金利時代に積み上げた記録的な債務を抱えたままコロナ禍を迎えた。社債は83兆ドルに上り、世界の国内総生産の98%に達した(2020年末時点)。2020年の増加額8.9兆ドルのうち、先進国や中国が90%を占める。中央銀行がインフレ阻止のために利上げに動く中、企業の債務返済費用は増加することが予想される。コロナ禍の最中に深刻な打撃を受けた企業に対する財政支援を政府が縮小するにつれ、企業の脆弱さが露呈されるだろう。

政府は、経済回復に向けてこれらのリスクを管理するに当たって、難しい選択を迫られている。立ち直れる企業(だが回復のための民間融資を受けられない)に対しては財政支援を続け、再編や清算が必要となるほどのダメージを受けた企業に対しては支援を止める必要があるかもしれない。財政出動の余地が小さくなる中、財政支援はいっそう選択・集中する必要がある。支払不能に関する効率的な制度が経済の強靭性、生産性や競争力を高める。これら制度の補強は欠かせないものである。というのも、現在は多くの重要な分野に欠点があり、各国は一度に多くのケースへの対処を迫られる可能性があるからだ。準備のために残された時間は長くない。

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IMFの新しい調査では、 企業の脆弱性を吟味し、大規模な再編に向けて、各国がどれほど準備できているかについて評価している。同調査では、回復可能な企業に対する政策支援の策定をガイドし、立ち直ることのできない企業の再編を促進するための原則が提案されている。


準備の度合いについての評価

IMFでは、支払不能および再編に関する各国の制度が危機に対してどの程度備えが出来ているかについて評価するための新しい指標を使用する。この指標は、全ての大陸と発展段階を網羅し、世界GDPの91%、世界人口の84%を占める60か国において、大規模な企業危機に対し各国がどれほど準備できているかについての代表的な視点を示す。下記のチャートでは、先進国、途上国および低所得国について、5つのサブ指標が示されている。全体のデータセットは こちら から参照可能。

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企業の脆弱性は、IMFの指標が危機に対する準備度に欠陥があると示す経済においてより顕著である。経済情勢が悪化した時に社債が平均的な国よりも脆弱性の高い新興国経済の3分の2では、危機管理制度も平均より弱い。また、脆弱な社債を持つ先進国の約40%は、危機下における支払不能に関する制度が平均よりも劣っている。そのような制度では、再編が多数発生した時に難局を迎える可能性がある。これらの国では、支払不能に関する制度を改善するために一層の努力を傾けるべきである。危機に対する準備の改善は、すべての国に出来ることである。

多くの国が支払不能に関する制度の強化を続けてきた。例えば、ブラジルやフランス、インド、韓国、トルコ、米国では対象を絞った改革を行い、ドイツやオランダ、英国では制度の重要要素に影響を及ぼす広範な改革を実施してきた。

政策の原則

政府は、生存可能な企業をサポートするためにどのような戦略を用い、経営不振企業の債務再編、清算、組織再編を促進するためにどのような法改革を行うべきだろうか。

パンデミックの最悪時に企業に金融支援を提供するという政府の判断は間違っていない。正確性よりスピードを重要視し、救済できる企業とそうでない企業の区別を行わずに迅速な支援を提供した。政策当局者は金融支援の正確性を高め、本当に支援を必要としている企業に対して効率的に提供すべきである。深刻な打撃を受けた企業に対し、再編や清算を行う準備も進めるべきだ。

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セイラ・パザルバシオグ はIMFの戦略政策審査局長として、IMFの戦略的な方向性と、機関としての方針の設計・実行・評価に関する業務を主導している。また、G20や、国際連合など国際機関とIMFの関係を統括している。

ローダ・ウィークス・ブラウン はIMFの法律顧問兼法律局長。融資、規制、提言機能を含めIMF業務の法務的側面に関して、IMFの理事会、マネジメント、職員と加盟国政府に助言する。IMFでのキャリアを通じて、広範にわたる重要な業務方針や各国の問題について法律局の業務を統括してきた。また、IMFの法律の全側面について講義し、記事や理事会向けペーパーを執筆する。

過去にはIMFコミュニケーション局の副局長も務めた。アフリカ、アジア、欧州での広報活動を主導しながらIMFの広報戦略の変革において重要な役割を果たし、重要な法律や政策のトピックに関するIMFの戦略的コミュニケーションを統括した。

ハワード大学で経済学士号(最優等)、ハーバード大学ロースクールで法務博士号を取得。IMFでの勤務を開始する前は、スキャデン・アープス・スレート・マー・アンド・フロム法律事務所のワシントンDCオフィスに勤務。ニューヨーク州弁護士、マサチューセッツ州弁護士、ワシントンDC弁護士、最高裁弁護士。また、世界の女性リーダー育成に注力する非営利団体TalentNomics, Inc.の理事を務めている。

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