IMF に つ い て

アジア太平洋地域事務所

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IMFの金融セクター評価プログラムについて(要旨)
日本経済研究センター
2001年12月3日
斉藤 国雄 
(IMFアジア太平洋地域事務所)

はじめに
-IMF の金融セクター評価 ( Financial Sector Assessment Program = FSAP)は

IMFの業務の中では比較的新しいものである。一般によく知られていないこともあって、FSAPへの関心は高まりつつあるのに、誤解もある。

· FSAPはIMFの全加盟国が対象。特定国をシングルアウトするものではない。

· 金融セクター全体(銀行、証券、保険)をカバー。

· 簡単に言えば、"金融セクター全体の総合的な健康診断"。

個々の金融機関の経営内容を"検査、監査"するものではない。

· 以上から、FSAPの日本語訳は"金融セクター評価あるいは審査"が妥当。

  

FSAP作業の実際-FSAPは既に30数カ国で実施。既に公表された報告書(特にフィンランド、メキシコ)によれば、一般的な作業の進め方は次のとおり。

· FSAP実施チーム(ミッション)にはIMF、世界銀行の職員がそれぞれ

5~6人参加(ただし先進国の場合は世銀職員の参加は限られたものになる)。それに、他の国の金融庁、中央銀行、あるいは国際標準設定機関等の職員が5~6人IMFのエキスパートとして加わる。

· ミッションは対象国を数回訪問。主要なものは、ミッション全員が参加して本格的な作業を実施するための訪問と、報告書のドラフトを当局と協議するための訪問である(後者は、通常、その国との年次協議の際に行われる)。その他に、作業の準備、下調べ、特定部門の調査等のために、小人数で訪問することもある。

· 最終報告書はIMF理事会に提出、審議される。

· 当該国の同意があれば、最終報告書および理事会審議の概略は公表。

· 以上のプロセスは、通常、7~8カ月で終了。しかし、大きな国の場合には、もっと時間がかかると考えられる。

FSAP評価の目的と対象

· FSAP導入の背景はアジア危機等の通貨危機の反省-すなわち、危機の主要原因は金融セクターの脆弱性であり、また危機は伝染するという教訓-にある。従って、危機回避のためには、各国とも国際標準の実施等により脆弱性に対応することが肝要。

· 金融セクターの安定性、健全性を評価し、ショックに対する抵抗力の弱い部分、脆弱な部分を確認することによって、金融セクター強化のための諸施策に繋げて行く。

· これは、国際金融システム全体の強化、将来の国際金融危機の回避にもつながる。

· そのために、FSAPでは"金融セクターの安定性の総合的評価"と"金融セクターに関する国際基準、標準の実施状況の評価"が行われる。

金融セクター安定性の評価の手法―これまでに、各国の監督当局や民間の金融機関で使われてきたものをベースとする手法で、大きく次の3つにわけられる。

· 第一に、金融関係の法令、制度、仕組みが適切であるか、有効に運営されているかの検討。これは後ほど述べる金融セクターに関する国際基準の実施状況の評価と密接に結びついていて、同時並行的におこなわれる。

· 第二に、複数のマクロ状況指標( Macro Prudential Indicators)の測定、評価。主要な指標は英語の頭文字をとってCAMELSと呼ばれる次の5つの指標である-Capital adequacy, Asset quality, Management quality, Earnings, Liquidity, Sensitivity to market risks.

· 第三に、不況による資産の劣化(信用リスク)、金利、為替レートの変動(市場リスク)等の外部からのショックに自己資本でどこまで対応できるかを見る、いわゆる耐久性テスト(Stress test)。

· 総合的判断

国際基準の実施状況の評価手法―金融セクター関係の国際基準、標準には既に注釈書、説明書等が用意されている。評価作業はこれらの膨大な文書に照らして実施状況を見ていく訳である。通常、次の5つの基準がカバーされる。

· BIS(バーゼル委員会)の銀行監督基準

· IMFの金融政策および金融監督の透明性向上のための国際基準

· IOSCOの証券取引規制等に関する国際基準

· IAISの保険業務監督基準

· CPSSの決済制度に関する国際標準

評価結果に基づく勧告およびその報告

· 最終報告書では、"金融セクターの安定性評価"、および "国際基準の実施状況評価"の結果が明示的に示される。

· FSAPに関する理事会審議の概要は、当該国の同意があれば、PIN (Public Information Notice)で公表される。

· フィンランドの例について、公表された報告書、理事会審議概要の構成、内容を簡単に説明。

おわりに

繰り返しになるが、FSAPは金融セクター全体の総合的な健康診断のようなものである。その対象は、金融セクター全体の安定性および脆弱性の評価であり、不良債権問題はその一部にすぎない。FSAPを不良債権問題だけに結びつけ、その評価結果を極端にネガティブな形で予断する論調が一部に見られるが、これは、あまりに狭い解釈であるといえる。