地経学的分断になぜ立ち向かうべきなのか、そして、その方法とは
IMF Blog, May 23, 2022
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- Authors: Kristalina Georgieva, Gita Gopinath, Ceyla Pazarbasioglu
- Published: May 23, 2022
現状認識:複数の危機の同時発生と地経学的分断のリスク
- 新型コロナウイルス感染症パンデミックとロシアによるウクライナ侵攻が重なり、人命喪失、経済成長の押し下げ、インフレ圧力の上昇を招いている。
- 食糧とエネルギーの価格高騰が世界中の家計を圧迫している。金融環境のタイト化は、重い債務を抱えた国や企業、家計をさらに圧迫している。
- サプライチェーンの見直しが進む中で、地経学的分断リスクが急激に高まっている。
- 過去30年間で資本、財、サービス、人々のフローが拡大し、新技術・アイディアの普及が進んだ結果、世界経済規模は3倍に成長し、13億人が極度の貧困から抜け出した。
- 一方で、所得、富、機会の格差が多くの国で進行し、国際競争と産業変化が一部の人々を置き去りにしてきた。
- IMFの研究結果・モニタリングに関する数値:
- 貿易政策をめぐる不確実性だけで2019年の世界GDPは約1%抑えられた。
- ウクライナ侵攻後、約30か国が食糧、エネルギー、その他主要一次産品の輸出を制限している。
- 技術的分断だけで、多くの国がGDPの5%を失う可能性があると推計される。
- 国際送金コストは平均で6.3%に上り、これは毎年およそ450億ドルが何百万もの低所得世帯から仲介業者へ流れていることを意味する。
分断がもたらす影響(被害の広がりと特定のメカニズム)
- 脱統合化の影響は高所得専門職者から輸出関連の中所得工場労働者、食糧輸入に依存する低所得労働者まで所得水準を問わず及ぶ。
- サプライチェーン再構築と投資障壁の上昇により、発展途上国が富裕国にモノを売ったりノウハウを習得したりする機会が減少する可能性がある。
- 先進国は同一のモノに対してこれまで以上に多くを支払わざるを得ず、インフレが加速する可能性がある。
- 潜在的な経済制裁リスクへの対策として切り離された決済システムを並行整備する動きが出れば、人々と企業に新たな取引コストが発生する。
世界経済システムの信頼回復に向けた4つの優先事項(具体的提言)
- いずれも国際的な協力が前提である。
1) 貿易を強化し強靭性を向上させる
- 貿易障壁の低減により食糧やモノの不足を軽減し、価格を下げる。
- 国と企業は輸入先の多様化を進め、サプライチェーンの確保と世界的統合の利点を維持する。
- IMFの最新研究では、サプライチェーンの混乱に起因する潜在的GDP損失を多様化によって半分に削減可能。自動車業界などでは代用可能部品・より入手しやすい部品を使った設計により損失を80%削減可能とされる。
- 輸出先の多様化による強靭性向上のため、インフラ強化、ブロードバンド促進、ビジネス環境改善などの政策を提案。
- WTOは予見可能性と透明性が高い貿易政策策定に包括的支援を提供可能。
2) 共同の取り組みを強化して債務問題に対処する
- 低所得国のおよそ60%で債務の脆弱性が顕著であり、一部の国では債務再編が必要となる。
- 効果的な救済には思い切った協力措置が不可欠。債務の持続可能性を回復すれば新たな投資を呼び込み、包摂的成長を促進できる。
- 具体策として、G20の債務処理のための共通枠組みを直ちに強化し、手続きとタイムラインを明確化した上で他の高債務脆弱国にも拡大することを提案。
3) 国際決済システムを現代化する
- 非効率な決済システムは包摂的成長の障壁。国際送金コストが平均6.3%という水準は問題の一例。
- 解決策として、各国が協力して世界規模の公共デジタルプラットフォーム(明確なルールに基づく新たな決済インフラ)を構築し、誰もが最小限のコストで最大限のスピードと安全性で送金できるようにする。
- このプラットフォームでは中央銀行デジタル通貨を含む様々な形態のマネーを接続することも可能。
4) 気候変動への対処を最重要課題として推進する
- COP26では世界の温室効果ガス排出量の80%超を占める130の国が今世紀半ばまでにカーボンニュートラル達成を表明した。
- IM Fはグリーントランジション加速に向け、カーボンプライシング、再生可能エネルギー投資、悪影響を受ける地域や人への支援措置を組み合わせた包括的取り組みを主張。
包摂的な発展のための追加的措置と制度的役割
- 「人々のためになる政策」を基本原則として提示。グローバリゼーションで取り残されたコミュニティには保健医療と教育への投資、労働者に対する需要のあるスキル習得支援や成長産業への転職支援(平均賃金が比較的高い輸出関連企業やグリーン産業への転職を例示)。
- 多国間制度のガバナンス強化と世界経済ダイナミクスの反映が必要。IMFレビューでの拠出資金と議決権割合の見直しを一機会とする。
- IMFの最近の国際協力例:
- IMF加盟国は前年に6,500億ドルの特別引出権(SDR)配分を承認(IMF史上最大)。
- 強靭性・持続可能性トラスト(RST)の新設にも合意。目的は脆弱国に長期的で低コストの融資を提供し、気候変動や将来のパンデミックに対処できるよう支援すること。
結論:対立か協調かという選択と行動の呼びかけ
- 世界は「さらに貧しくし、危険に陥れる地経学的分断」に屈するか、「世界の課題への取り組みを進展させるために互いに協力する術を再構築する」かの選択を迫られている。
- 分断に対する特効薬は存在しないが、すべてのステークホルダーと協働して喫緊の共通課題に取り組めば、より強力で包摂的な世界経済の構築に向けて前進できる。
- いくつかの明るい兆しとして、パンデミック時の各国協調、ワクチン開発の迅速化、国際法人課税制度で137の国が改革に合意したことなどが挙げられる。
出典:クリスタリナ・ゲオルギエバ、ギータ・ゴピナート、セイラ・パザルバシオグル(2022年5月23日)