テクノロジーの変化は、何世紀にもわたって労働市場を再形成してきた。しかし、その恩恵は必ずしも広く共有されてきたわけではない。AIとデジタルテクノロジーが、今日の職を変革する中、イノベーションの最前線にいる人々でさえ、混乱の影響を受け得る。主要なテクノロジー企業で最近見られる人員削減がそれを示す。
しかし特定の職業がなくなるにつれて、新しい職業も出てきている。自動化と並行して、新しいスキル、新しい作業、まったく新しい仕事が生まれ、繁栄への別の道筋が見えている。
労働者にとって、仕事を見つけたり維持したりすることは、スキルを磨いたり、新しいスキルを習得したりする能力にますますかかってくる。数百万件のオンライン求人に関するIMFの最新の分析では、新しいスキルに対する需要の規模が明らかになった。先進国では求人の10件にひとつ、新興市場国の求人では20件にひとつが、少なくともひとつの新しいスキルを求めている。
専門職と技術職、管理職は、新しいスキルに対する需要が最も高い。この需要の半分以上を占めるIT部門では特に顕著な傾向だ。部門固有のスキルも注目される。例えば、ヘルスケアでは、テレケアとデジタルヘルスのスキルへの需要が急増しており、マーケティングでは、ソーシャルメディアの専門知識がますます求められている。
労働市場の状況の変化は、当然のことながら、労働者の間で不安が広がる要素となっている。世界の雇用の40%近くがAIによる変化にさらされており、一部の労働者においては失業と機会の減少に関する懸念が特に深刻だ。これは、労働人口が将来の職に備え、AIの恩恵が広く共有されるようにするための、積極的かつ包括的な政策立案の必要性を強調する。
賃金は上昇、雇用効果はまちまち
雇用主は、新しいスキルを習得した労働者への報酬を増やす。英国と米国では、新しいスキルを含む職は、報酬が約3%高い傾向がある。4つ以上の新しいスキルを要する職は報酬がさらに高い。こうした職の報酬は、英国では最大15%、米国では8.5%高いこともある。

IMFの研究によると、こうした賃上げは、地域経済を活性化することができる。報酬が増えた労働者は地元企業にもっとお金を費やし、それによって地元企業は需要を満たすためにより多くの人を雇う。例えば、米国では過去10年間、新しいスキルの採用が進んでいる地域では、新たなスキルを必要とする求人が1%ポイント増えるごとに、雇用が1.3%増えた。
しかし、高技能と低技能の労働者が最も恩恵を受ける傾向があり、定型的な事務職のような中技能職は圧迫されている。
AI関連のスキルに関する全体像はさらに複雑だ。こうしたスキルは賃金を押し上げる要素ではあるものの、他の新たなスキルと比べ、今のところ雇用増加に寄与していない。実際、AIに左右されやすい職種の雇用水準は、AIスキルの需要が高い地域では低く、AIスキルの需要が少ない地域よりも5年間で3.6%低い。エントリーレベルの仕事はAIの影響を受けやすいため、キャリアを築き始める若者にとっての課題である。これらの分析結果は、生成AIの導入が、特に自動化できる職において、エントリーレベルの採用を減らしているという米国での最近の調査結果と一致している。
グローバルな準備体制
こうした傾向は回避し得る。今日の政策の選択次第で、混乱を機会に変えることができる。政策当局者にとっての大きな問いは、どのように機会に変えるかだ。それを答えるために、IMFは、複数の国の雇用データを用いて「スキル不均衡指数」を開発した。この指標は、米国をベンチマークとして、新しいスキルに対する将来の潜在的な需要と供給の、相対的な比重を反映する。これは、AIの円滑な導入に関連する4つの分野における各国の準備体制に焦点を当てた既存のIMF「AI準備指数」を補完する。
「スキル不均衡指数」では、各国が大きくふたつのカテゴリーに分類される。ブラジルやメキシコ、スウェーデンのように、新しいスキルに対する需要が高い一方で供給が比較的少ない国は、科学、技術、工学、数学の訓練に投資し、教育を改善する必要がある。また、スキルを持つ外国人労働者に外部委託したり仕事を与えたりする必要があるかもしれない。
オーストラリアやアイルランド、ポーランドなどの他の国は、労働力が豊富な一方で、需要が控えめだ。こうした国々の課題は、イノベーションを刺激し、企業が人材を採用するのを支援することだ。新企業の設立やイノベーションを促進し、企業が資金にアクセスしやすくするような改革が役立つだろう。
需要と供給の両方が相対的に限られている新興市場国と低所得国では、両方の政策が必要になる。

より広義には、各国は、労働者が市場に適応し、新たなスキルを習得して、労働力であり続けるための支援をするほか、手頃な価格の住宅や、柔軟な勤務形態を通じて労働移動を容易にするための政策を展開すべきだ。これは、労働者を新しい機会に導き、新しいスキルをより迅速に広めるのに役立つだろう。競争政策や、新規企業の参入を促進する措置も重要だ。企業が希少な人材を獲得するために競合を買収すると、市場支配力が集中し、最終的にイノベーションと機会が制限される恐れがある。転職で困難な状況に直面する人々をより良く支援し、職場復帰を促進するために、社会的保護も改善されるべきである。
最後に、AI主導の経済に向けて、政府は教育制度を再設計しなければならない。新しいITスキルに対する需要の高さは、多くのIT作業がAIによって徐々に自動化される可能性があるため、必ずしもITおよびAIの専門職の同等の需要につながるとは限らない。したがって、今日の学生は、AIと競争するのではなく、AIを補完し、AIを活用するために役立つ認知的、創造的、技術的なスキルを身に付けなければならない。同時に、職を失うリスクのある労働者は、労働市場の急速な変化に適応するために再訓練へアクセスできなければならない。
こうした取り組みにおいて、一部の国は世界をリードしている。IMFの「スキル準備指数」によると、フィンランドとアイルランド、デンマークは、将来に必要なスキルと機敏性を労働者に身に付けさせる体制が整っている。これらの国は何が違うのか。テクノロジーの進化に労働者が適応できるよう支援する高等教育や生涯学習プログラムへの強力な投資だ。

準備と措置
AIが経済をどの程度活性化するかは、われわれが労働者や企業を移行に向けてどれだけ適切に準備できるかにかかっている。しかし、これは経済だけの問題ではない。人々は、仕事を通して、自尊心と目的意識を持つ。AI変革の影響力が大きい理由はここにある。
成功するかどうかは、万人がイノベーションの恩恵を享受できるよう、スキルへの投資と、転職期における労働者支援、市場の競争力維持など、今とる大胆な措置にかかっている。



