抑制された回復、保護主義的政策の増加も、世界貿易の弱さの一因である (写真: Issei Kato/Reuters/Newscom)

IMF、世界経済の成長は抑制されており、経済のスタグネーションにより 保護主義的措置への支持が高まる可能性に警鐘を鳴らす

2016年10月4日

  • 2016年の世界経済成長率は基準以下の3.1%を予測。来年は3.4%に回復
  • 先進国・地域でのスタグネーションの長期化は、反貿易センチメントをさらに刺激し、成長を抑制する可能性も
  • 各国は、成長見通しの改善のため、金融・財政・構造と全ての政策手段に頼る必要がある

国際通貨基金(IMF)は本日発表した2016年10月の世界経済見通し のなかで、米国の減速と英国の欧州離脱支持という国民投票結果を受け、世界経済成長は、今年は引き続き抑制された状態が続くとの見通しを示した。2017年以降は、主に力強い新興市場国・地域により牽引され、若干の改善が見込まれるとしている。

モーリス・オブストフェルドIMFチーフエコノミスト兼経済顧問は「全体としては世界経済は横ばいだ」と述べた。「先進国・地域の2016年の成長見通しを若干下方修正したが、他については上方修正した」と説明した。

同報告書は、世界金融危機から8年が経過した世界経済の回復の不安定な性質を浮かび上がらせた。特に先進国・地域でのスタグネーションの長期化が、貿易と移民への制限を求めるポピュリスト的な要請をさらに刺激する可能性があると警鐘を鳴らした。オブストフェルド氏は、そうした制限は、生産性、成長、イノベーションを妨げるだろうと述べた。

同氏は「貿易統合が前進するという見通しを保護することが極めて重要である」と述べた。「貿易の時計の針を戻すことは、世界経済の現在の低迷を悪化させ長期化させるだけである」。

短期的に成長を支えるため、先進国・地域の中央銀行は緩和的金融政策を継続すべである。しかし金融政策のみでは、生産性の伸びの減速と高齢化に悩まされている経済の活力は回復できない。可能なところでは、政府は教育、テクノロジー、インフラへの支出を増やし生産能力の拡大を図るとともに、格差是正のための措置を講じるべきである。また多くの国が、労働参加の促進や雇用とスキルのマッチングの改善、市場参入への障壁の是正のための構造改革を通し、潜在成長率の低下に対処しなければならない。

世界経済の今年の成長率は、7月の見通しと変わらず僅か3.1%と予測している。来年は、ロシアとブラジルを含む主要な新興市場国・地域で回復を理由に、3.4%まで加速するだろう(表参照)。

先進国・地域:米国の減速、ブレグジット

2016年の先進国・地域の成長率は1.6%と、昨年の2.1%というペースから減速するだろう。またこれは、7月の1.8%という見通しからの下方修正である。

IMFは米国の今年の成長率見通しを7月の2.2%から1.6%へ引き下げた。これは、弱い企業投資と在庫蓄積のペースの減速を理由とした今年前半の期待未満の結果を反映している。来年はエネルギー価格の低下とドル高の影響が落ち着くことから、2.2%まで回復する可能性が高い。

IMFは、連邦準備制度理事会の政策金利の更なる引き上げは「段階的に行い、さらに、賃金と物価が持続的に徐々に上昇し安定するという明らかなサインとリンクしているべきだ」としている。

6月の「ブレグジット」を受けた不確実性が、投資家の信認に大きな影響を及ぼすだろう。英国の成長率は昨年の2.2%から、今年は1.8%、2017年には1.1%まで減速するだろう。

ユーロ圏の成長率は今年は1.7%、来年は1.5%と予測される。2015年の成長率は2.0%だった。

IMFは「欧州中央銀行は、現在の適切な緩和的スタンスを維持すべきである」と述べた。「インフレ率が上昇しない場合、資産買い入れの拡大を通した追加的緩和が必要になるかもしれない」。

世界第3位の経済大国である日本の成長率は、今年、来年それぞれ0.5%、0.6%と抑制された状態が続くだろう。短期的には、政府の支出と緩和的な金融政策が、成長を支えるだろう。中期的には、人口の減少が日本経済の妨げとなろう。

新興市場国・地域は加速する見込み

新興市場及び途上国・地域では6年間ではじめて成長が加速し4.2%に達するだろう。これは、7月の4.1%という見通しを若干上回っている。来年は、新興市場国・地域は4.6%の成長率を見込んでいる。

しかし、見通しは国・地域で大きく異なっている。

中国では、経済を投資と産業中心から消費とサービス中心への経済のシフトが続く。こうした政策は、短期的に成長の減速を引き起こすと考えられるが、一方でより持続可能な長期的な成長のための土台を築くだろう。それでも中国政府は、「ますます危険なペースで増加する」与信を抑制するための措置をとり、生存不可能な国営企業への支援を打ち切るべきである。「関連するGDP成長の減速を受け入れることだ」。

世界第2位の中国経済は、今年は6.6%、2017年は6.2%の成長が見込まれている。昨年の6.9%からの減速である。

アジア新興国、特にインドの成長は引き続き力強い。インドの国内総生産は今年・来年ともに7.6%拡大するだろう。これは、世界の主要国のなかで最速のスピードだ。IMFは、インドに対し、税制改革を継続し、助成金を廃止しインフラ、教育、医療への投資により多くの資源を割くべきだとしている。

サブサハラアフリカの主要経済国は、引き続き一次産品による収入の低下への対応で苦心しており、これが同地域の成長にのしかかっている。ナイジェリアは、2016年は1.7%縮小し、南アフリカはほぼゼロ成長だろう。対照的に、域内のコートジボワール、エチオピア、ケニア、セネガルなど非資源輸出国の一部は、今年も5%を越える力強いペースで成長を続けるだろう。

ラテンアメリカでは、一部の国が景気後退局面から抜け出せないなか経済活動が鈍化した。2017年に回復は根付くだろう。ベネズエラの産出量は、今年は10%落ち込み2017年はさらに4.5%縮小するだろう。ブラジルは、今年は3.3%縮小するが、2017年は0.5%の成長率が期待できよう。これは、政治・政策の不確実性、そして過去の経済ショックの影響が減少するという想定を土台としている。

中東の国々は、引き続き抑制された原油価格と内戦やテロといった難しい状況下にある。

全体にかかる政策課題

世界経済の回復が依然として弱く不安定でありこれが直面する脅威を踏まえ、IMFは、成長の再活性化と、その恩恵がより公平に分配され持続可能性を高めるため、 包括的で一貫した政策アプローチを連携してとる ことが急務だと強調している。金融、財政、構造の各政策を、国内、そして次第に一貫性を高め各国間で協調して行うことで、「それぞれの成果を足したものを上回る結果を残すことになろう」とオブストフェルド氏は述べた。