Credit pawel.gaul/iStock by Getty Images

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解説:ノンバンク金融の台頭が形作る5つのメガトレンド

今日では、銀行に分類されず銀行規制の対象とならない企業によって、世界の金融資産全体の半分が保有・仲介されている。

2008年の世界金融危機は、金融システムの麻痺を引き起こした。銀行は融資を引き揚げ、消費者は財布のひもを締め、企業は従業員を解雇した。誰にとっても恐ろしい時期であり、金融サービス業にとっては非常に困難な局面となった。

今日、金融の状況はかなり変わった。企業と政府は恩恵を享受している。さまざまな種類の投資家や企業が事業者や消費者、政府に信用と流動性を提供している。主にテクノロジーベースの新興の貸し手のおかげで、新たに10億人以上が融資にアクセスできるようになった。消費者も、購入の資金を工面したり、老後資金のポートフォリオを多様化したりする上で、選択肢が増えた。株式も債券もデリバティブも、すべて大幅に伸びた。

しかし、こうした動きは銀行がけん引したわけではない。それよりむしろ、「ノンバンク」金融機関の伸長が見られる。われわれの最新のデータによれば、世界の与信に占めるノンバンク金融機関のシェアは、2008年危機下の43%から2023年には約50%へと拡大している。

これは重大な分岐点である。世界全体の金融サービスの半分が、銀行に分類されず銀行規制の対象とならない企業によって提供されるようになったのだ。

ノンバンク金融機関には非常に多様な種類の企業が含まれ、正確な定義はさまざまである。大まかに言うと、この業界に属するのは、信用や取り引き、投資のサービスを提供するが、一般の人から預金を受け入れず、中央銀行に口座を持たない金融会社である。つまり、銀行が包括的な健全性規制と引き換えにアクセスを有している預金保険や流動性支援といったセーフティネットの対象から外れている。金融システムのどこかでストレスが生じると、多くの場合、過小な担保を求めていたノンバンクの借入先機関が、今度は過大な担保を要求するようになり、全員にとってリスクが高まることになる。

メガトレンド

ノンバンクの規模や重要性を踏まえると、その成長を促しているメガトレンドについて検討してみる価値がある。

  • 各国政府にとって新たな貸し手が登場し、流動性が高まり金利が押し下げてられている。米国債などの債券を新たに購入するノンバンクによって、追加の流動性がもたらされている。それは市場の効率的な機能を助け、納税者が最終的に支払うことになる国債金利を低く抑えられることになる。米国では、シタデル・セキュリティーズやジェーン・ストリート・キャピタルといった主要なトレーディング会社がテクノロジー主導型の高頻度アルゴリズム取引を軸とするビジネスモデルを開発し、こうした傾向に拍車をかけている。
  • 中規模企業の資金調達アクセスが拡大し、景気や雇用、金融の強靭性を下支えしている。プライベート・クレジット・ファンドは、銀行が貸付を行うには規模やリスクが大きすぎる一方、自ら債券を発行するには小さすぎる企業に対して資金を提供することができる。そうしたファンドの多くはプライベートエクイティ企業によって運営されており、プライベートエクイティ企業は銀行や他のノンバンクから資金を調達している。ここでのノンバンクは、主として保険会社や年金基金、ソブリン・ウェルス・ファンド、寄付基金などであり、銀行と比較してレバレッジが低く、より長期的かつより安定した資金を確保している傾向がある。そのため、ストレス時でも早急に資金を引き揚げることがなく、金融システムの強靭性を高めている。
  • 消費者と小規模企業にとって借入の選択肢が広がっている。長期の自動車ローンや、米国で見られる平均わずか142ドルの後払い決済(BNPL)、あるいはケニアのような国におけるもっと少額のモバイルローンなど、額と期間の点でより多様な融資が利用可能になっている。フィンテック融資業者は、与信のために新たなデータソースを開拓し、自動化でサービス提供コストを下げることによって、こうした傾向をけん引してきた。新興市場国・発展途上国では、より多くの人がモバイル決済を利用できるようにし、続いてより広範な金融サービスを提供している。
  • あらゆる規模の投資家にとってポートフォリオを多様化する方法が増えている。投資ファンドや特にパッシブ投資商品は、個人投資家向けに資本市場へのアクセスを拡大している。最も安全な資産のリターンが低下する中、運用資産残高に占めるインデックスファンドの割合が急速に拡大しており、米国では2010年の19%から2023年には48%へと増えている。さらに、ノンバンクは商業用不動産や貴金属などの新たな資産クラスをより多くの投資家に提供している。資産の多様化はあらゆる投資家にとってリスク管理の助けとなるが、投機的な資産は固有のリスクも伴っている。
  • 多様化の利点以外にも、パッシブ投資の持つもうひとつの特性が注目に値する。一部の種類のファンドが市場にとって新たな安定化要因をもたらすという点だ。そうしたファンドの特徴のひとつとして、最終投資家に約束した株式の保有比率を維持するために、定期的かつ予見可能な形で、値下がりした株をより多く買い、値上がりした株をより多く売るということがある。例えば、個別株が十分に値上がりしてベンチマーク株式指数に組み入れられる時や、値下がりして指数から除外される時だ。そのようなファンドが大きな規模に達したことで、こうした確実な効果が市場の安定化に役立っている。

以上のトレンドは、ノンバンクのイノベーションがもたらす利点を示している。しかし、ノンバンクの拡大はリスクも伴う。

問題になりかねない点

古典的な「(ノンバンクの)取り付け騒ぎ」のシナリオ。銀行と同様に、オープンエンド型ファンドやマネー・マーケット・ファンドは長期投資を行うが、顧客はいつでも資金を引き出すことができる。そのため、2020年のコロナ禍初期に「キャッシュへの駆け込み」が起こった時には、現金が枯渇し(流動性危機)、米連邦準備制度を含む中央銀行による支援が必要になった。各国政府は損失を出すことはなかったものの、そうしたノンバンクのためにリスクを負うことになった。

マージンコールと伝播」のシナリオ。信用取引で資金を借りてより大きな賭けをすれば、収益は増えるが、リスクも高まる。ひとつまたは複数の資産家一族に特化している一部のヘッジファンドやファミリーオフィス、ウェルスマネジャーは、わずかな担保で多額の資金を借り入れ、株式・債券価格の変動といった事象に賭けている。金融システムのどこかでストレスが生じると、多くの場合、過小な担保を求めていたノンバンクの借入先機関が、今度は過大な担保を要求するようになり、全員にとってリスクが高まることになる。

そうした賭けが裏目に出れば、ノンバンクは破綻し、債権者に損失と流動性不足をもたらし、より広範な市場ストレスを引き起こす恐れがある。2021年にファミリーオフィスのアルケゴス・キャピタル・マネジメントが破綻した際にそうした伝播が起こり、主要なグローバル銀行に甚大な損害を与えた。

一般の人々を守る

  • より多く、より質の高いデータを入手する。ノンバンクは金融システムの中で銀行などから多額の借入を行っているが、情報開示や報告の義務はかなり軽い。市場参加者も金融規制当局も、ノンバンク部門に由来するマクロ金融安定性リスクに関して全体像を把握していない。納税者はストレス時に助けを求められることが多いため、ノンバンクがとるリスクについてより詳しく知る権利がある。競争上の理由で取引情報を公開できない場合には、規制当局には見えるようにして、それを国境を越えて共有する必要がある。金融安定理事会(FSB)のノンバンクデータタスクフォースは、可視性を高めることに役立っている。
  • リスク分析の向上のためにデータを活用する。規制当局は、銀行とノンバンク間、あるいはノンバンクどうしのつながりをマッピングするために、すでに手元にあるデータを活用してもっと多くのことができる。新しいモデルや技術を利用することは、規制当局が国際金融リスクをより良く理解する助けとなる。2023年に最初に実施されたイングランド銀行の金融システム全体を対象とするストレステスト(SWES)や、ユーロ圏のシステム全体にわたる金融安定性リスクに関するIMFの最近の研究などはその代表例である。
  • 監督を強化するためにリスク分析を活用する。リスクの理解が深まれば、各国および国際的な規制当局は、ショックに対する国際金融の脆弱性を低減させるために、より早く問題を察知して強力に介入できるようになる。

結論

ノンバンクは多様な集団である。その業務をより良く理解し、リスクを軽減すべく規制をかけ、家庭や企業、政府が必要な金融サービスにアクセスできるようにする必要がある。

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