Typical street scene in Santa Ana, El Salvador. (Photo: iStock)

写真:Gopixa/iStock by Getty Images

IMF サーベイ・マガジン : トップエコノミスト、アジア経済、今後は減速の可能性も

2015年4月17日

  • 著名なエコノミストのラジャン、サマーズの両氏が、アジアの成長トレンドで討論
  • サマーズ氏、アジア諸国は平均成長率に回帰する可能性が高い
  • アジアは、今後の成長のために内需を重視する必要があろう

ーバード大学名誉学長である、ローレンスH.サマーズ氏は、ラント・プリチェット氏と共同で発表した直近の論文について語った。同論文で両氏は、ここ数十年の中国の爆発的な成長は、その将来を予言するものではないと述べている。

パネリストのサマーズ、ラジャン両氏。アジアは今後の成長に向け内需を重視する必要がある点でパネリストは合意した(写真:IMF)

パネリストのサマーズ、ラジャン両氏。アジアは今後の成長に向け内需を重視する必要がある点でパネリストは合意した(写真:IMF)

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サマーズ氏は「中国のみならずアジアに関する議論では継続性を仮定する傾向にある。つまり、アジアの国々はそれまでの異常ともいえる急速なペースで今後も成長するだろうというものだ」と述べた。

しかし両氏はこの論文のなかでこうした仮定を否定、異常な成長を長期にわたり遂げてきたアジアの国々は、約2%という長期的な世界の平均に近いペースに-「平均への逆戻り」-回帰するだろうと述べた。

サマーズ氏のこの発言は、インド準備銀行のラグラム・ラジャン総裁とのアジア経済の見通しに関する討論のなかで行われた。

アジアの内需への依存

ラジャン氏は、アジア新興市場国・地域は大幅に減速したと指摘した。同氏は、長期的に見ると、アジアは先進国・地域からの需要に現在ほど依存しない可能性が高いとの予測を示した。

「先進国の減速に伴い、需要を内部、すなわち域内に求めなければならない」と述べた同氏は「内需こそが前進のための道である」と続けた。

さらに輸出主導型の成長モデルの今後についても触れた同氏は、日本の例を挙げ、このモデルは「終焉を迎えた」のではないかとの推測を示した。

「ステロイド剤を使った輸出部門があり製造部門があることで、相対的に他の部門の発展が進んでいない」

代わりとなる成長モデル?

サマーズ氏も輸出主導型の成長は「ほぼ終わったに等しい」と合意した。同氏は、技術の開発と収斂が進むことで「我々が今まで目にすることがなかった、内需主導型の成長が生まれるだろう」と述べた。

サマーズ氏は、スマートフォンの普及の利点を挙げた。スマートフォンの普及は「それまでありえなかった、接続度合いと収斂を達成する能力を示すものだ」。

一方で、「代わりとなる成長モデル、GDPが10年で2倍の成長を遂げる、従来の輸出と異なる方法を見つけることができるのだろうか」と疑問を提起した同氏は、「インドが『重要なテストケース』となるだろう」と述べた。

ラジャン氏はインドの短期的見通しについて「インドがそれを現実のものにする日が近づいていると願っている。この10年間十分なインフラ投資を行ってきたと思う」と述べ、楽観視していることを明らかにした。

一方で同氏は、インドの多くの非熟練労働者が苦境にあるという問題を指摘した。同士は、こうした人々の雇用をどのように確保するかということが、インドの政策担当者の課題だと述べた。

高等教育への投資の拡大が必要であるとの認識を示したラジャン氏は「貧困から脱出するためには多くの方法が必要だ」と述べた。

アジアインフラ投資銀行

サマーズ氏は、中国主導で設立されるアジアインフラ投資銀行について、これまで5年間、米国がIMFのガバナンス改革を承認せず、開発銀行に規制をかけたことで「アジアの国々が借り入れをし易い方法で大々的なインフラプロジェクトを行うことがほとんど不可能だった」という「失敗」を象徴していると述べた。

しかし同時に、サマーズ氏は、融資機関で平等なパワーを求める人々の「理想を求める傾向」を一掃した。同氏は、貸し手と借り手の間にコントロールの面である程度の差があるのは当然であると述べた。

これに対しラジャン氏は、コントロールのレベルにおいて差があるだろうと合意したものの、「懸念事項は、新興市場国・地域にも資金はあるが、そうした融資を行う制度的構造を我々はまだ備えていないことだ」と述べた。