ASEANとIMF 包摂的な経済成長を促進するための協力

2018年2月27日

1. はじめに

スラマッパギ。おはようございます。

ジョコ大統領、マルトワルドジョ総裁、インドラワティ財務大臣、私どもをあたたかくお迎えくださいまして、ありがとうございます。

また、この会議の共催者であるインドネシア銀行の皆さまに、御礼申し上げます。また、皆さまに、10月に行われるIMFと世界銀行の年次総会の開催国を務めてくださることについて、感謝の言葉をお伝えしたいと思います。

この素晴らしい「旅路」を私たちは一緒に歩み始めています。

インドネシアで私たちの年次総会が開催されるのは初めて のことです。インドネシアは、健全な経済政策を実行し、人々の創意工夫と多様性を活かして、ここ数十年でその姿を大きく変えてきました。

これからの数日間、インドネシアの活力と美しさを直接体験できることを私は楽しみにしております。市民社会の皆さまや女性、学生やその他の方々にお会いする予定でおりますが、これに加えて、バリやボロブドゥール寺院遺跡も訪問させていただくことになっています

インドネシアやそのパートナーの ASEAN諸国は、活力ある中間層を生み出すことに成功し、何百万人もの人々に対して、生活水準の向上が可能になるよう、扉を開きました。過去20年間、こうした国々は力強い経済成長を実現し、 世界経済の成長を牽引する大きな原動力ともなりました。

こうした国々の成功は偶然ではありません。強力な政策枠組みを実行し、過去の教訓に学び、変化や開放性を進んで取り入れてきたからなのです。こうした取り組みの全てが、成果をもたらしました。

世界はこの地域から多くのことを学ぶことができるでしょう。例えば「 ASEANウェイ」と呼ばれる国境を超えて連携する方法がありますが、インドネシアの「ゴトン・ロヨン」 という表現がこのあり方をうまく表しているのではないかと私は思っています。この言葉は 「共通の目標を実現するために力を合わせる」という意味です。

これと同じ精神がIMFにも本質的なものとして流れています。この地域をはじめとした世界中で、IMFは加盟国と手を携え、未来の世界に合った経済を構築するという「共通」の目標を達成できるように取り組んでいます。

今日、私たちが行う議論では、持続可能かつ、同時に包摂的な経済成長の新モデル を生み出す方法に焦点を当てます。これは私たちに「共通」の責任です。

2. 移り変わる経済環境

まずは世界経済の状態を確認しましょう。良い知らせですが、ようやく世界の広範囲で景気が拡大するようになり、世界の国々・地域の4分の3で景気が上昇局面にあります。私たちの予測では、世界経済の成長はさらに加速し、今年と来年の成長率はともに 3.9%に達すると見込んでいます。

インドネシアにも良い知らせがあります。インドネシアの経済成長率は2018年に5.3% に達すると予測されており、また中期的には経済成長が徐々に加速することが見込まれています。こうした経済成長の勢いは、人々が経済的・社会的にさらに幸せな生活を送ることにつながる可能性があります。

インドネシアはこれまでの進歩を誇りに思うことができるでしょう。過去 20年間で、貧困の度合は40%近く下がりました。平均余命には6% 超の上昇がありました。そして、高等教育を受けた人の数はこれまでに250%増加したのです。

こうした進歩は、ASEAN諸国全体に共通してみられる好ましい傾向をよく示しています。

同時に経済環境が変化 しています。金融市場で増すボラティリティについて、考えてみてください。貿易摩擦のリスクの高まりについて、考えてみてください。そして、デジタル化、ロボット工学や人工知能といった急速な技術進歩がもたらす大きな影響についても、想像してみてください。

ASEAN諸国は次の3つの課題に取り組むことで、この険しい道のりを進むことができるでしょう。

  • 不確実性に対処する
  • 経済をより包摂的なものにする
  • デジタル革命に向けて準備を行う

a) 不確実性に対処する

まずは不確実性から始めましょう。繰り返しますが、良い知らせはASEAN諸国がよりしっかりとした経済基盤を作り上げたことです。こうした基盤は、ASEANの国々が世界金融危機と2013年の「テーパー癇癪」を切り抜ける支えとなりました。

事実、この地域では大半の国々が政策枠組みを改善してきています。

この事例としては、インドネシアやフィリピン、そしてタイで採用されたインフレ・ターゲットや、インドネシアやマレーシア、ベトナムでの財政ルールが事例として挙げられます。また、より一般的に言うと、この地域全体で金融面の政策を強化したり、為替レートの柔軟性を高めたりすることも含むでしょう。

しかし、金融市場で最近見られるボラティリティは根本的な変化が経済に起こりつつあることを思い出させます。ASEAN諸国をはじめ世界中で政策立案を担う人々は、先進国・地域での段階的な 金融政策の正常化に向けて準備を行っています。

金融政策の正常化が始まるだろうことはある程度前からわかっていました。しかし、企業や雇用、そして所得に具体的にどのような影響があるかはまだはっきりとしていません。

金融の安定性に対して発生しうる影響について、政策担当者が注意を怠ってはいけないことは明確です。例えば、資本の流れが不安定になる可能性に警戒すべきです。また、経済の耐性を高めるために、大胆な改革を行う余地も残されています。

私が最近申し上げているように「屋根を直すとしたら、雨が降り出す前に限る」のです。この言葉の意味は何でしょうか。

私がこの言葉を使うのは、各国政府にとって経済成長が加速している今この時が政策枠組みを強化するチャンスだとお伝えするためです。例えば、金融市場を改革したり、労働法を改善したり、過剰に保護されている産業への参入障壁を下げたりするために、さらなる取り組みを行うことができるでしょう。

屋根を直すことはまた、政府の歳入を高めるために、必要な場合には財政改革を行うことや、支出を改善することも意味します。政府財政を改善することで、国々はインフラ投資を増やし、開発のための支出を強化できるでしょう。最も脆弱な立場にある人々を対象にした社会的なセーフティネットへの支出がとりわけ重要です。

b) 経済をより包摂的なものにする

不確実性に対処しつつ、ASEAN諸国は長期的な成長可能性を改善する必要があります。

ASEAN諸国は内需や域内貿易、そして経済的多様化にさらに重きを置いた新たな成長モデルの必要性を認識しています。

この点では、IMFの分析によると、ある国が輸出の幅を広げ、品質を改善すると、経済成長が著しく加速し、経済がさらに安定する可能性があることがわかっています。 例えば、輸出多様化がわずかに [1] 進むだけで、GDP成長率が1%ポイント増加する可能性があるのです。

こうした利点は実現可能です。理由は何でしょうか。域内の多くの国々が、自国資源の大半を生産性が高い分野に配分しなおすことに成功してきたからです。例えば、資源の配分が農業から工業生産、そして先進的な製造業やサービス業へと移行してきました。

しかし、まだ十分ではないのです。新たな成長モデルが持続可能なものとなるには、包摂性がより高い モデルでなければなりません。最近のIMFの調査からは、経済成長の恩恵が広く共有されていればいるほど、経済成長はより力強いものになり、また、より持続的で耐性も高いものになることがわかっています。

例えば、ジニ係数が 5ポイント減少すると、経済成長率が5年間で0.5%上昇する可能性があるのです。

ほとんどのASEAN諸国はすでに比較的良好な状態にありますが、これは過去30年間、所得格差を緩和するために具体的な施策を用いたからです。

例えば、タイでは2001年に国民皆保険制度が導入されました。一方、フィリピンでは2008年に条件付現金給付が開始されました。そして、インドネシアではEカードの利用など、低所得者層に支援を届ける方法が改善されました。

次世代の暮らしがより良いものになるように、全てのASEAN加盟国はこれまでに積み重ねた実績をもとに、さらに前進することができるでしょう。

人口動態の変化 への対処が重要な要素です。

若者が多く人口が拡大するインドネシアやマレーシアといった国々は、このチャンスを活かして質の高い雇用を拡大することで「人口ボーナス」の恩恵を享受することができます。

同時に、タイやベトナムといった国々は、労働者の生産性を高める技術を用いることで、急速な高齢化に伴う影響の緩和策をとることができます。

もちろん、これらは用いることができる施策のごく一部にすぎません。非常に多様なこの地域では、ひとつの政策が万能薬になることはありませんが、経験の共有からは全ての国々があまねく恩恵を受けることができます。包摂的な経済成長を促進するために、協力することができるのです。

これまでに学んだことは何でしょうか。

優先的に取り組むべき重要事項は、人々への投資です 。ASEAN諸国のほとんどに、教育支出を増やす余地があります。「インドネシア・ピンタール」と呼ばれる貯蓄プログラムについて考えてみてください。このプログラムによって 2,000万人を超える子どもたちが学校に通い続けることが可能になる予定です。

また、労働力に占める女性の割合を高める余地もあります。そのための施策例としては、利用しやすい価格で保育サービスを提供することや、女性が融資を受けやすくすることがあります。

ここインドネシアでは、労働市場における女性の参加率が近年、51% まで上昇しました。この勢いをさらに加速させることが、男女格差 [2] を解消する上で非常に重要です。

これによって、経済の状況は大きく変わりえます。そして、これはインドネシアに限りません。試算の中には、労働市場の男女格差を解消することで、GDPを日本で9%、韓国で10%、インドで27%高める可能性があるとするものがあります。

政策面でもうひとつの優先事項となるのが事業環境の改善です 。行政手続きを効率化し、腐敗撲滅に向けた取り組みを強化することで、事業環境を改善することができます。これによって、革新的な新しい企業が事業を始め、発展することがより簡単になり、活力あふれる産業で雇用が創出されることになります。

また、品質の高いインフラへの投資は重要です 。例えば、インドネシアでは250を超えるプロジェクト が目下計画されており、この費用総額は3,230億ドル です。フィリピンでは、鉄道や道路、空港に1,800億ドルが支出される予定でいます。

こうした投資は、その効率性と費用対効果が高いことが条件ではありますが、生産性や所得を高め、さらなる雇用を創出するでしょう。

こうした点は全て重要です。しかし、これらだけでは、ある程度しか前進できません。

c) デジタル革命に向けて準備を行う

また、この地域をはじめとした世界中で、職場や経済構造を変え始めつつあるデジタル革命に向けて準備を行わなければなりません。

最近のマッキンゼーの調査からは、今日の仕事の60%に今後すぐに自動化される作業が含まれていることがわかっています。

ですから、仕事の未来 について私たちは皆、考えなければいけません。この変化に対応することが、あらゆる人々全員に機会を創り出すことに対する答えの重要な要素となります。

新たな成長モデルが、人工知能からロボット工学、バイオテクノロジーやフィンテックまで一連の技術革新に依存するだろうと私たちは理解しています。

そして、この地域が多くの点でこうした分野における先駆者になるだろうことも私たちは理解しています。最近、私はシンガポールのフィンテック・フェスティバルに参加し、世界でも最も元気な起業家やイノベーターの何人かにお会いする機会を持ちました。

インドネシアは、1,700 を超えるスタートアップ企業が活躍し、活力あふれるデジタルエコシステムを持ち、新しい企業の集積地として世界有数の場所になっています。良い例が「 Go-Jek (ゴジェク)」です。配車アプリだったGo-Jekは、モバイル決済など数多くのサービスを利用できるプラットフォームへと生まれ変わっています。

目標は、できる限り最善の方法で革新的なデジタル技術を駆使する ことであるべきです。デジタルインフラを改善し、未来に適した教育システムを作ることでこれは実現されるべきです。

私は、今起こりつつある変化を「デジタル経済」と表すのではなく、単なる「経済」として表すようになる日がとても近いと私は信じています。

この新しい経済は、生産性を向上させ、経済成長を加速させるだけではなく、人々に恩恵をもたらす基盤にならなければなりません。年齢に関係なく、貧富も問わず、住んでいる場所が都市であれ、人里離れた農村であれ、人々のためになる基盤である必要があります。

私たちに共通の責任は、よりスマートで公平な経済、人間の顔をした経済が誕生するよう支えることです。

IMF は、皆さまがこの大きなチャレンジに取り組む際のパートナーです。

こうした理由から、私たちは皆さまと、つまり、あらゆる全ての加盟国の皆さまと、マクロ経済的に重要な喫緊の課題に対処するために、協力を行っています。例えば、格差是正や男女平等の推進、気候変動がもたらす影響の緩和などです。

そして、私たちは経済分析や財源、さらには能力開発支援に至るまで、活用できるツールを全て用いています。

また、189か国 が加盟するIMFは、他にはない協力のためのプラットフォームを提供できます。

3. 域内協力や世界的な協力を強化する

この点を踏まえて、ASEAN諸国が先駆者である別の重要分野についてお話しをさせてください。

お話ししたいのは、地域統合 の継続的なプロセスについてです。全ての国々にとって経済のパイが拡大するように、力を合わせることです。

ASEANは、域内関税の撤廃など、これまでに実現した進歩を誇りに思うことができるでしょう。

今は、これまでに積み重ねた実績を元に、次の点に取り組むことで、さらなる前進を行うべき時です。

  • ASEAN域内の貿易をさらに刺激するために、非関税障壁を撤廃する
  • 労働力の国境を超えた移動をさらに可能にする
  • 腐敗撲滅の枠組みを強化する

例えば資金洗浄対策ですが、これは資金が闇のルートに流れることを避け、かわりに然るべき場所に投資が行われるようにするためです。地元企業に、そして学校や病院に投資がなされるようにすべきです。つまりは人々に対する投資がなされるようにしなければいけません。

繰り返しになりますが、IMFが加盟国の力になりえます。新しい時代の新たなIMFです。 加盟国の皆さまを支えられるよう、さらに優れた新手法を模索しています。

これには、インドネシアやASEAN、さらには世界中のパートナーの皆さまに耳を傾け、皆さまから学ぶことが含まれます。

4. 終わりに

「ASEANウェイ」に話を戻して、締めくくらせてください。

私の意見では、これはインドネシアの国是である「ビネカ・トゥンガル・イカ」、つまり「多様性の中の統一」という言葉に美しく表されていると思っています。

ともに力を合わせ、非常に大きな言語的多様性や地理的多様性、さらには経済的な多様性を活かすことで、全ての人々に恩恵をもたらす新たな経済モデルを生み出せるチャンスが到来しています。

本日の議論を、そして10月の年次総会を楽しみにしております。

トゥリマカシ。ご静聴、ありがとうございました。



[1] 輸出品目多様化の標準偏差に1の上昇がある場合。

[2] 女性の労働参加率は51%。一方で、男性の労働参加率は83%

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