2019年対日4条協議終了にあたっての声明
IMF News, November 25, 2019
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- Published: November 25, 2019
ミッション終了にあたっての総括
- IMF職員による初期評価を示す声明。各国当局は公表に同意している。
- 日本経済は潜在成長率を上回るペースで成長を続けているが、外的環境の悪化で下振れリスクが増大。人口動態による逆風が強まり、マクロ経済上の課題が増加している。
- アベノミクスの戦略は適切だが、潜在成長率引上げ、経済のリフレーション、公的債務の持続可能化のためにさらに力強い政策が必要。
- 包括的かつ連携した取り組みとして以下の3点が必要とされる:
- 高まる金融安定性リスクを緩和し、金融政策の持続可能性を高めうる金融セクター政策と連携した緩和的金融政策の継続。
- 歳入・歳出の施策が特定され、しっかりと具体化された中期的な財政枠組み。
- 労働、製品市場、企業改革に向けた意欲的な取り組み。
最近の経済動向と政策
- 2019年上半期は民間消費と政府支出が成長を支えた。輸出と輸出に牽引される投資は外的条件の悪化で弱含み。
- 2019年10月の消費税率引上げは2%ポイント。2019年の実質GDP成長率は潜在成長率を上回る0.8%と予測。
- 失業率は1993年以来で最低水準だが、総労働時間は減少、GDPギャップは依然マイナス。コア・コア指数は約0.5%で安定。
- 日本銀行は2016年以降、短期金利をマイナス(マイナス0.1%)で、10年物日本国債の利回り目標を0%で維持。イールドカーブ・コントロールの下で国債買入れを減らし、利回りが低下、満期10年以下の国債はマイナス圏に沈んでいる。
- 金融環境は緩和的であり、金融安定性リスクが高まっている。
- 構造改革の進展は緩やか。2019年4月の残業時間上限規制や同年4月の新在留資格導入、2015年のコーポレートガバナンス・コード改訂等があるが、効果発現には時間を要する。
見通しとリスク
- 中期的に物価上昇率は日銀の2%目標を下回り続ける見込み。民間消費は2021年末までに消費増税前の水準へ回復すると見込まれる。
- 2020年から2021年の成長は国内需要が牽引し、純輸出の落ち込みを部分的に相殺する見込み。非製造業投資は省人化技術への投資で堅調推移が想定される。
- 短期リスク:消費増税後の消費の急激な落ち込み・長期化、2019年度の補正予算、世界経済成長の下振れ、脱グローバル化、マーケット心理の悪化による円高や株式市場変動、米ドル調達市場の乱れで銀行の資金調達コスト上昇の可能性。
- 中期リスク:高齢化・人口減少による金融機関の高リスク資産配分、バランスシート悪化、資本制約、年金・保険会社の損失、社会保障支出増加による財政持続可能性への懸念と債券市場のストレス、リスクプレミアム上昇による債務返済コストと借り換えリスクの増大。
高齢化・人口減少に対する経済政策
- 公式予測では今後40年間に人口が25%以上減少する見込み。人口減少は成長と生産性を抑制し、課税ベースの縮小と支出増で財政課題を悪化させる。
- 現行政策下では、公的債務が2020年代半ば以降に上昇すると予測。潜在成長率・期待物価上昇率を高め、債務安定化のため包括的で相互に補強する政策が必要。
金融政策と金融セクター政策(具体策)
- 日銀の緩和的金融政策スタンスは維持すべきだが、インフレ期待を恒久的に押し上げるため政策の信頼性をさらに高める施策を検討すべき。長短金利目標の維持を提唱。
- 提案される具体策:
- 物価安定目標をレビューし、インフレ目標を幅で提示することを検討。
- 現行の「二つの柱」戦略をインフレ予測ターゲティング(IFT)導入で強化することを検討。
- 金融市場と国民とのコミュニケーションを改善(国債買入量の量的ガイダンス停止、マネタリーベースからの切離し、展望レポートの構成見直し等)。
- マクロプルーデンスと規制強化の具体案:
- イールドカーブ・コントロール枠組みの調整(10年物からより短い国債へ目標を変更し、イールドカーブをスティープ化)。
- カウンターシクリカル資本バッファーの引上げ(現状の0%水準より引上げ検討)、適用範囲を国内銀行すべての国内与信エクスポージャーへ拡大。
- プルーデンス監督・規制の強化(リスク評価プロセスの密度向上、マクロプルーデンス・ツールキットの完成、ミクロプルーデンス監督による個別資本要件設定やフォワードルッキングな貸倒引当金の奨励)。
- 地域金融機関の事業モデル調整支援(収入源多様化、IT・フィンテック活用、再編促進)。
- 危機管理・破綻処理枠組み強化(D-SIB全行へのTLAC適用拡大等)、保険業界の経済価値ベースのソルベンシー導入継続。
財政政策(短期対応と中期枠組み)
- 2020年、場合によっては2021年も中立的な財政スタンスを維持し、金融緩和と連携すべき。2019年の消費税率引上げによる税収増は影響緩和策で概ね相殺され、2019年の財政スタンスは概ね中立的と評価。
- 2020年と2021年は、現行の景気刺激策を考慮しなければ緊縮的になる見通し。明白な下振れリスクを踏まえ、中立的スタンスを維持する必要がある。
- 短期的追加施策の例:
- 2020年において消費増税対策を延長する。
- 保育、医療、介護部門の労働者の賃金を更に引上げる。
- 所得政策強化と貧困層保護(法人税優遇の効果増強、最低賃金引上げ、行政管理給付の増額、低所得世帯保護)。
- 構造改革支援(保育利用容易化、企業の保育・介護資金手当増強、非正規労働者の生産性向上、研究開発投資のインセンティブ強化)。
- 中期的財政枠組み:財政の持続可能性を確保するため、基礎的財政収支(プライマリーバランス)均衡目標を2025年度に設定しているが、前提の現実性と政策の具体性が信頼性向上に必要。
- 重要な取り組みとして:現実的な成長・財政予測の採用、高齢化コストの継続評価とマクロ財政予測への反映。IMFスタッフのシナリオでは、老齢化コストをまかなうために消費税率を2030年までに15%に、2050年までに20%に段階的に引き上げる必要があると提示。
- 再分配と税制改革の提案:キャピタルゲイン課税は一律20%であるが、キャピタルゲイン税率を2022年以降、段階的に30%に引上げることを提案。あるいは新たな富裕税導入の検討を示唆。
- 炭素税引上げの検討と脆弱世帯への支援策の同時検討を提唱。
- 予算枠組みの透明性改善(補正予算の頻度と規模を制限)。
社会保障制度改革(年金・医療・介護)
- 社会保障改革は財政健全化の第2の柱。政府の2020年半ばまでの包括的改革案は歓迎されるべき。改革要素:
- 年金:所得代替率50%を維持すると慎重シナリオで資金ギャップが生じ得る。年金制度の持続可能性と世代間公平性の改善(受給柔軟化、保険料負担層の拡大等)。
- 医療・介護:後発医薬品使用拡大、診療合理化、75歳以上や富裕高齢者の自己負担割合引上げ、公的保険対象の範囲縮小を含む効率化策。介護は要介護度の低い利用者へのサービス合理化等でコスト抑制を検討。
構造改革(成長維持と人口動態への対応)
- 現行政策を続ければ、40年後に実質GDPが25%低下する可能性があるとの分析。構造改革を実施し、金融緩和と公的債務の安定化を実現すれば、同期間に実質GDPを最大15%押し上げる可能性がある。
- 改革の主要テーマ:
- 労働市場改革:2018年の働き方改革を改善し生産性・賃金を高め、労働供給を増やす施策導入。
- 規制改革・企業改革:財部門・サービス部門の規制緩和、中小企業改革、コーポレートガバナンス改革、機械化・AI導入促進と分配上の配慮。
- 貿易自由化と海外直接投資促進:高水準の多国間貿易合意を通じた障壁撤廃で投資と成長を後押し。
対外ポジションと波及効果
- 2018年の対外経常黒字は対GDP比で0.6%ポイント低下して3.5%。所得収支黒字は巨額の対外純資産と純リターンの高さによる。
- 2019年9月までで実質実効為替レートで5%の円高。2019年の経常収支見通しは暫定的に中期的ファンダメンタルズと整合的と評価。実質為替レートも暫定的に整合的と評価。
- IMF推計では日本のGDPが1%減少すると、他のアジア諸国の産出量は1年後平均で約0.2%減少する。日本の成長鈍化や金融タイト化は国外へ負の波及効果を及ぼす可能性がある。
- 多国間主義の進展は貿易紛争や円高の負の影響を緩和し得るが、世界的な不確実性の高まりは円高を誘発し、日銀のリフレーションを損なうリスクがある。
出典: ミッション終了にあたっての声明(2019年11月25日、IMFコミュニケーション局)