(写真:iStock/Satoshi-K)

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日本:人口構造の変化が改革への扉を開く

2020年2月10日

日本では少子高齢化が急速に進んでいる。日本の年齢中央値は48.4歳であり、日本は世界で最も高齢化が進んだ国である。日本政府は、2060年までに労働年齢の人1人に対して高齢者が約1人存在することになると予測している。

同じ2060年までの40年間に、現在1億2,700万人である日本の人口は4分の1以上減少することになる。つまり、マレーシアやペルーの全人口に等しい数の人口喪失が起こることになる。このように急速な少子高齢化が進む日本は、世界の人口構造変化の最先端に立っており、経済面などで課題に直面している。

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IMFは、日本経済の最新評価において、日本経済が2020年も堅調に成長し、0.7%の成長率を実現するだろうと予測している。近年、女性の労働参加が大きく増えているものの、少子高齢化に伴って今後、労働者の数が減る一方でその年齢も上がることになり、成長と生産性が押し下げられることになるだろう。最新のIMF スタッフペーパー の試算によると、日本の人口動態はそれだけで今後40年間、日本経済の成長率を毎年平均で0.8%ポイント押し下げていくことになる。

幅広い分野への影響

日本では少子高齢化に伴い、医療や年金といった高齢化関連支出が増加する一方で課税ベースが縮小し、公共財政に制約が課されるだろう。人口動態のトレンドが 低金利とも密接に結びついている。日本のような高齢化社会では、定年を控えた人々が退職後に備えて貯蓄を増やす一方で、見通しに力強さが欠けるため、投資は抑制的な状態が続くことになり、金利が下がる方向に圧力がかかる。低金利によって金融機関の収益性が下がり、より高いリターンを求め続ける結果、よりリスクの高い資産への投資を行うインセンティブが生じる。

急速な人口減少に伴い、日本では供給過剰のために空き家が生じ、農村地域を中心に住宅価格が低下する現象が同時に見られている。こうした住宅市場への影響が生じることで、日本の家計や銀行の財務的な健全性にとってのリスクが高まることになる。その結果、日本では人口転換が続く中、金融セクターの脆弱性が高まることになるだろう。

正しい政策ミックス

大きくなり続ける課題の結果、金融緩和、柔軟な財政政策、構造改革(特に労働市場改革)といったアベノミクスの互いに高めあう政策を日本は強化する必要がある。経済の潜在成長率を高め、物価上昇率を日本銀行の目標を達成できるように押し上げ、公的債務を安定させるために、こうした政策の包括的な組み合わせが必要になっている。優先事項には次の内容が含まれる。

  • 金融政策 :成長と物価上昇を支えるために、日銀の短期金利目標と長期金利目標を据え置くことを含めて、緩和的な金融政策スタンスを維持する。
  • 金融セクター政策 :金融安定性を守る。
  • 財政政策 :支えとなる刺激策を短期的に維持する一方で、財政の持続可能性を確実化する。

重要な点だが、人口動態の逆風が吹く中を日本が進んでいく上で、構造的な性質の政策改革が不可欠である。労働市場改革は、成長、また、物価上昇率押し上げの点で、最も大きな効果をもたらすため、最優先事項となる。終身雇用ではない労働者(大半が女性)の能力開発や職業機会を増やすことは、労働生産性と賃金を高める点で貢献するだろう。

くわえて、女性・高齢者・外国人の労働参加を増やすことで、労働力を拡大するための改革が必要である。例えば、保育の利用可能性を高めることは、女性の労働参加を支えるだろう。一方、企業が義務的な定年年齢を設定する権利を廃止することで、高齢者を支えられるだろう。

製品部門とサービス部門の規制緩和、中小企業改革、企業統治改革が生産性と投資を引き上げるために重要である。貿易のさらなる自由化と対内直接投資促進のための改革は、投資と成長をさらに後押しするだろう。上記にまとめた 改革を信頼できる形で実行すれば、人口動態が原因で起こると予測される成長減速の最大60%を埋め合わせることができるかもしれない。 さらには、機械による自動化も少子高齢化がもたらす問題の緩和に貢献できる。この点は医療、輸送、インフラ、フィンテックの分野の自動化に顕著である。

人口構造の変化がもたらす経済的な影響について、さらに詳しく知りたいですか?IMF季刊誌ファイナンス&ディベロップメント(F&D)2020年3月号では、このテーマを重点的に取り上げます。F&Dのニュースレターに登録されたい方は、こちらをクリックして、2020年3月号公開のお知らせをお待ちください。