グリーンな復興の実現 気候変動対策の経済的利益

2021年4月15日

1. はじめに 見通し

皆さま、こんばんは。晚上好。易綱 総裁、本日はお招きくださり、ありがとうございます。また、今回の重要な催しを共催してくださった中国人民銀行の皆さまにも御礼申し上げます。

現在の重要局面において私たちが直面している課題を踏まえ、中国のことわざ 3点から発想を得たいと思います。

ひとつ目 は「雲を払いのけて太陽を見る」です。

昨年、世界は過去100年で最悪の感染症大流行と戦後最悪の景気後退の雲に覆われました。

現在、見通しは明るくなり始めています。景気回復が進む中、IMFは最近、世界経済の成長予測を今年は6.0% 、2022年は4.4%へと引き上げました。

私たちの置かれている状況は大きく改善しています。並外れた努力がなされたからです。世界中の科学者が協力して史上最速でワクチンを開発したことを思い起こしてみてください。

また、異例の政策措置もとられました。例えば、16兆ドルに上る財政措置や、 中国人民銀行を含む各国の中央銀行が行った大規模な流動性供給などです。

こうした協調的な措置がとられなければ、昨年の世界経済の収縮は3倍深刻 なものになったと考えられます。そうなれば、大恐慌の再来となりかねませんでした。

現在、アジア太平洋地域では景気回復が見られ、今年の成長率は7.6%に達すると予測されています。

今年、中国経済は純輸出の伸びを主な理由として8.4% の成長を遂げると見られています。そして、2026年にかけての世界GDPの推移を見ると、平均でその伸び幅の4 分の1以上を中国が生み出す ことになると私たちは予測しています。

しかし、米国と中国を筆頭に少数の国が力強く前進しつつある一方で、他の国は依然として危機の影から抜け出すのに苦労しています。

私たちは、マルチスピードの(速度の異なる)景気回復 に直面しており、より脆弱で貧しい国々が取り残されつつあります。そうした国々では、ワクチンへのアクセスがより限定的で、危機に対応し復興を確実なものとするための予算上の余地が非常に少ないからです。

各国内でも景気回復のスピードに差があるのが見て取れます。若者や女性、低技能の労働者、対人接触の多い部門の小規模企業などが最も大きな打撃を受けており、こうした層により多くの支援が必要となるでしょう。

この点は、コロナ禍の経済的な爪痕を癒す上で非常に重要となります。ただし、それだけでは限界があります。

2. グリーンな復興の実現

より持続可能で包摂的な復興を実現しようとするのであれば、よりグリーンで気候耐性のある経済を構築する ことを通じて今回の危機を機会に変える必要があります。

気候変動は人類存続を脅かしており、私たちにとって最重要課題のひとつです。この問題を放置すれば、計り知れない混乱が生じることになるでしょう。気候リスクを減らし、未来において災難を避けるという目標を達成するためには、この10年間における行動が非常に重要となるでしょう。

この点を踏まえて、ふたつ目の中国のことわざ「 ある世代が木を植える。別の世代が木陰を得られる」を申し上げたいと思います。

アジア太平洋地域は、以前から他の地域に比べて気温上昇ペースが速く、気象関連の自然災害も多くなっており、沿岸地域や小島嶼国が特に影響を受けています。

低所得国では、すでに気候変動が貧困の拡大や病気流行の加速、食料不安の深刻化の主要因のひとつになっています。

幸い、今すぐに気候変動に対する行動を起こせば、将来的に災害を回避する以上のことにつながります。よりグリーンな経済への歴史的な転換を加速することによって、復興を大きく後押しすることも可能となるのです。

私たちの研究 [i] では、どうすれば各種の経済政策ツールによって経済成長や雇用、所得の平等を下支えするようなかたちで2050年までの実質ゼロ排出実現に向けた道筋をつけられるか分析を行っています。例えば、炭素税とグリーン投資促進を組み合わせた政策ミックスがあれば、世界GDPの水準を今後15年間に約0.7%押し上げ、2027年にかけて約1,200 万人の新規雇用を創出できる可能性があるのです。

気候変動緩和にとって鍵となる経済政策ツールのうち、いくつかについて詳しく見てみましょう。

a )カーボンプライシング

どの国の政策にもあてはまる万能策はありませんが、排出を抑制する上ではカーボンプライシング が最も効率的で費用対効果の高い手法であるという意見の一致がますます見られるようになっています [ii]

カーボンプライシングはエネルギー価格を全体的に引き上げることで、世帯や企業がよりグリーンなエネルギーを利用するインセンティブを作り出し、エネルギー効率性を促進します。さらに、グリーン投資を後押しするほか、再生可能エネルギーと化石燃料の間で競争条件を平等にすることでイノベーションを促すことにもなります。

アジアは世界人口の過半数を擁しており、この数十年間、世界の経済成長の主な牽引役となってきました。ですので、同地域が世界の炭素排出のほぼ半分を占めているというのも驚きではありません。しかし、IMF の新しい研究 では、穏当で漸進的な炭素価格が、つまり炭素価格を低い水準で始めて着実に引き上げることが、今後10年間に域内の国々がパリ気候協定の下での目標を達成する上で役に立ちうることが示されています [iii]

さらに、炭素税は大きな税収をもたらす可能性があります。こうした税収は、低炭素社会への移行に伴って悪影響を受ける世帯を支援することと、医療や教育、そして職を失った労働者の再訓練や技能再教育への公共投資を拡大することに活用できます。

国々は他の手段を用いて同様の成果を達成することもできます。中国で現在導入されている石炭税が良い例です。ゆくゆくはCO2排出を抑制するためにこの石炭税を拡大できるでしょう。

中国は、全国レベルで電力産業を対象とした炭素排出量取引制度 も導入しつつ、大きな一歩を踏み出しています。他の国の制度とは若干異なった仕組みとなっており、各企業の総排出量に上限を課すのではなく、企業ごとのエネルギー出力に応じて相対的な上限が設定されています。

長期的には、この制度の包括性を高めていくことができるでしょう。そのためには、(1)総排出量の上限に重点を置きなおす、(2)さらに意欲的な目標を段階的に取り入れる、(3)遵守の徹底を確実にする、(4)電力業界以外にも対象を広げる、(5)現在は無償の排出枠に対価を設定し収入を得るといった施策を講じることができます。

他の様々なツールも、一部の部門におけるCO2排出削減に寄与します。例えば、効率的な実践を報奨し炭素排出の多い活動を阻害する「フィーベート」制度です。場合によっては、グリーン技術政策の改善と合わせて、排出とエネルギー効率に関する規制を強化することが必要となるでしょう。

中国では質が高く持続可能でバランスのとれた成長に向けた改革が継続されており、それも炭素排出の削減につながるものです。最近採択された「第14次五カ年計画」で目指されているとおり、投資重視型の成長から消費主導型の成長へと移行し、サービス部門とハイテク部門の拡大が下支えされれば、エネルギー需要と成長の炭素集約度が低下し、中国は気候目標を達成しやすくなるでしょう。

こうした取り組みは、排出の大幅な削減につながると考えられます。そして、各市場で一斉に行われれば、その効果は増幅することになるでしょう。だからこそ、IMFは気候変動緩和をより実質的なものとするために、世界の主要排出国が 最低炭素価格を設定するよう提唱しています [iv]

b )グリーンファイナンス

今後の課題はきわめて大きく、グリーン投資に数兆ドルを費やすことが必要となります。このことは、中国でもどこでも、 「ブラウン」な投資からグリーンな投資へと効率的に資本を誘導する ことによって、民間部門のグリーンファイナンスを一層育成する余地があることを示唆しています。これは、例えば価格シグナルや規制上のインセンティブなどを通じて行うことができます。

国内においては、各国は民間部門による投資を動員すべく、環境に関する情報開示やグリーンファイナンス基準制度、その他の支援政策を確立する必要があります。

データにも重要な役割があります。合計で最大25兆ドルの資産を運用する425の投資家 [v] を対象に行われた最近の調査では、ESGデータ・分析の質と利用可能性の低さ が持続可能な投資を深化・範囲拡大させる上で最大の障壁になっていると53% の投資家が答えています。

気候変動はそれ自体、金融安定性にとって脅威となるものです。各国や企業は、異常気象事象や低炭素経済への移行に伴うリスクの高まりに直面しており、したがってそうした国や企業を相手にする銀行にとってもリスクが高まっています。気候関連リスクを評価し、金融安定性を守るために、リスク管理を改善する必要があります。

グリーンファイナンスを促進することは、貧困国に対する国際的な支援を強化することも意味します。貧困国では気候変動への耐性が生死にかかわる問題になることもあり、また、その代償もさらに高額になりかねません。

世界全体で見ると、気候変動への適応のための公共投資は平均で毎年対GDP比約3% ずつ増加しています。しかし、トンガを例にとると、今後10年間に、毎年GDPの14%に相当する額が必要となります。

脆弱国は国内でより多くの歳入を確保することが求められますが、国外からのさらなる譲許的融資や債務問題への対応支援も必要となるでしょう。こうした課題は、パンデミック下において緊急性が高まっています。

この点に関して、中国は最近延長されたG20の債務支払猶予イニシアティブ(DSSI)や秩序ある債務再編のための共通枠組みに参加したり、IMFの大災害抑制・救済基金を支援したりするなど、重要な役割を果たしています。

3. 国際協調の強化

それでは3つ目 のことわざを申し上げたいと思います。それは「1本の梁は、どれだけ大きくても、それだけで家全体を支えることはできない」というものです [vi]

世界は、地球温暖化による気温上昇幅について2℃を十分に下回る程度に抑えるという同じ目標を共有しています。ですので、私たちは協力しなければなりません。先ほど炭素価格の下限について申し上げましたが、下限に差を設けることも可能性としてあるでしょう。この仕組みに国際的な合意ができれば協力の重要な一例となるでしょう。

また、国際社会は、発展途上国が気候面における自らの取り組みを強化する上で必要な気候金融と技術移転を提供できるように一層の努力を行うべきでしょう。

この他にも、当面の優先事項としては、あらゆる場所において、気候変動関連の情報開示の質を高め、 グローバルなグリーンファイナンス基準の調和 を図ることが挙げられます。そして、ベストプラクティスを各国間で共有する必要があります。これは地球のためにも、金融の安定性のためにも不可欠です。

中国人民銀行は中国におけるこうした取り組みを主導しており、今後も重要な役割を果たすことになります。

IMFでは、「金融システムグリーン化のための中央銀行・監督機構ネットワーク」および金融安定理事会、その他の基準設定機関とともに、こうした問題等に取り組んでいます。IMFの新しいダッシュボードは、マクロ経済・金融政策分析のためのデータを提供する上で役に立つものです。

これは、気候変動のマクロ経済上重要な側面におけるIMFの関与を強化する方法のひとつです。こうした関与は、現在ではIMFの任務の中核に位置づけられています。

11月に予定されているCOP26首脳会議は、各国が一致団結し気候行動を加速させる重要な機会となります。そしてその前に、中国は5月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の議長国を務めます。

ひとつはっきりしているのは、私たちは協力してはじめてグリーンな復興とパンデミック後の強靭な世界を実現できるということです。このテーマに関して議論できるのを楽しみにしています。

ご清聴ありがとうございました。謝謝。



[i] 2020年10月版「世界経済見通し(WEO)」

[ii] 2019年10月版IMF「財政モニター」

[iii] IMF Departmental Paper (2021): Fiscal Policies to Address Climate Change in Asia and the Pacific: Opportunities and Challenges

[iv] Parry and others (2021): A Proposal for an International Carbon Price Floor Among Large Emitters (IMF Working Paper, forthcoming).

[v] Blackrock, February 2021

[vi] 独木难支

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