東京・新宿の繁華街。写真:(iStock/Nikada)

東京・新宿の繁華街。写真:(iStock/Nikada)

日本のデジタル化が経済回復に拍車をかける可能性

2022年6月1日

日本経済は、感染症の世界的大流行にまつわる不確実性や供給制約の影響が和らぎ、消費が徐々に戻るにつれ、新型コロナの打撃から回復しつつある。

4月に発表した最新の経済見通しでは、今年の成長率が加速し、過去12年間で最速の2.4%で伸びると見込んでおり、来年もほぼ同水準を維持すると予測している。

IMFの 最新のアセスメント は、世界第3位の経済大国である日本が講じた強力な政策支援と高いワクチン接種率を評価している。また、繰り延べ需要が景気拡大を後押しすると見ている。

しかしながら、パンデミックが終息を見ない中で勃発したウクライナでの戦争は、短期的な見通しに重大なリスクをもたらした。さらに、日本経済は少子高齢化、生産性の伸び悩み、そして深刻な気候変動リスクに起因する、より長期的な逆風にもさらされている。

日本が抱える多くの課題は、包摂性を高め、格差を是正し、持続可能な未来を保証する経済成長の強化に取り組むことの重要性を浮き彫りにしている。 IMFの研究 によると、デジタル投資を増やすとともに成長を促す改革を全面的に実行することで労働供給と生産性が増大し、国内総生産を押し上げる効果が期待できる。

なによりも、デジタル化は成長に拍車をかける可能性を持つ。パンデミックによって、日本におけるテクノロジーの普及にばらつきがあることが明らかになった。日本は世界有数の産業用ロボット使用国であり、主要なエレクトロニクス産業の拠点であるにも関わらず、いまだITのレガシーシステムに依存している企業、政府、金融セクターにおけるデジタル化の導入が他の経済圏と比べて遅れを取っている。

パンデミックが始まった際、非常に多くの従業員が在宅勤務への移行に苦慮したことにより重大な局面で経済生産高が縮小し、生産性が落ち込んだ。このことは、日本の構造的な弱点をさらに露呈する結果を招いた。紙ベースの行政手続きにより、政府は感染拡大に対して迅速な対応を取ることができず、消費者を支えるための2020年特別定額給付金の支給に遅延が生じた。また、キャッシュレス決済や電子商取引の導入も遅れている。

ゆえに政府の支援に基づく急速なデジタル改革は、生産性と成長を引き上げるであろう。例えば、国会議員は昨年、はんこによる文書の承認をほぼ廃止した。はんこは個人がそれぞれに当事者であることを示す印で、日本では何世紀にもわたり、また、近隣のアジア諸国でも類似のものが用いられてきた。

従来のはんこから電子署名への方向転換は行政手続きのデジタル化を進め、政府が効率化を図るうえで大きな意味を持つ。

また、デジタル改革には2021年9月に内閣に設置されたデジタル庁の発足も含まれる。デジタル庁は中央政府、地方自治体、そして民間部門のデジタル化を促進させるための組織である。

改革に伴う移行を包摂的に進めるため、政府は政策支援を慎重に設計し、未熟練労働者が被るかもしれない不利益を軽減する必要がある。その他、デジタル金融サービスの導入を加速する際に優先すべき事項には、金融およびデジタルリテラシーを高め、異なるキャッシュレス決済プラットフォーム間の接続性を改善し、データプライバシー、消費者保護、サイバーセキュリティを強化して国民の信頼を高める施策が含まれる。

だが、デジタル化の促進は、日本に吹く人口動態の逆風を解消するために重要な、他の成長拡大の改革とも組み合わせることで、最大限の効果を発揮する。

より多くの 女性 、高齢者、外国人を労働力に取り込む施策も優先されるべきである。終身雇用に守られていない労働者、主に女性労働者に向けた研修やキャリア機会の強化は、生産性および賃金の上昇につながるであろう。また、コーポレートガバナンス(企業統治)の改善と規制の緩和は生産性や投資を高める可能性がある。

今後、日本は力強い成長のみならず、環境的に持続可能な成長を遂げる必要がある。大幅なグリーン投資とカーボンプライシングに支えられた大規模な経済変革は、パンデミックからの脱却をさらに後押しするだけでなく、未来に向けた新しくクリーンな経済エンジンをも生み出す可能性があることをIMFの研究は示している。したがって、日本が 2050年までにカーボンニュートラル(排出量実質ゼロ) の達成を約束したことは、重要かつ前向きな一歩と言える。

これらの政策目標を総合すると、日本はパンデミックが引き起こした混乱を最大限に活かし、生産性と経済成長を高める改革を推し進める用意があることを示している。