産業政策への回帰
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- Authors: DOUGLAS IRWIN
- Published: June 13, 2023
地政学と貿易環境の変化
- 地政学が国際貿易の景色を一変させている。
- 1990年代から2000年代の改革期は、発展途上国や過渡期の経済国が市場を開放し、グローバル化を受け入れ、世界貿易機関(WTO)によるルールに基づく非差別的な貿易システムが確立された時期であった。
- 現在は世界経済の分断と国際貿易ルールの軽視が懸案となり、産業政策や補助金、国家安全保障・環境を理由とする輸入規制、制裁や輸出規制による国内供給確保など貿易への介入が増大している。
歴史認識の誤りと輸入代替政策の限界
- 一部の主張は「富裕国が製造業を保護したから成功した」という解釈に基づくが、これは歴史の読み違いであると指摘される。
- 例示された事実:
- 高い関税下でもアメリカは移民、資本、科学技術に開かれた経済で成長した。
- 19世紀後半にアメリカが英国を追い抜いた要因は、製造業よりもサービス業の労働生産性向上によるものである(Broadberry、1998)。
- 西ヨーロッパの成長は農業から工業・サービスへの資源移動と関連。ドイツなどでは農業保護が移行を遅らせた可能性がある。
東アジア(韓国)の経験と産業政策のタイミング
- 韓国の事例:
- 1960年、過大評価された通貨と、GDPのたった1%しかない輸出が問題であった。
- 1960年代初頭から半ばの平価切り下げ後、輸出は増加し、1970年代初頭にはGDPの20%に達した。
- 初期の主要政策は特定産業への支援に限らず、すべての輸出企業への低利信用の供与や現実的な為替レートの設定であった(Irwin、2021)。
- 本格的な産業政策は1973年から1979年にかけての重化学工業振興策であり、その後、過大なコストと非効率性で打ち切られた。
- 韓国の急成長は、産業政策以前にすでに解き放たれていた要因が大きいことが指摘される。
産業政策の効果に関する学術的検討
- 産業政策は生産性向上と構造変革に寄与するとの見方と、汚職や非効率を招くとの見方が対立している。
- 定量的モデルでは、最適に設計された産業政策からでも得られる利益は小さく、改革をもたらす可能性は低いとする研究結果がある(Bartelmeほか、2021)。
米中欧の最近の産業政策動向とその意味
- 中国:
- 習近平体制以降、経済の国家管理を強化。
- 「中国製造2025」は特定産業向けに巨額補助金を投入。
- 現在は「双循環」に移行し、国内調達強化と主要技術の自給自足に焦点。
- アメリカ:
- トランプ政権期に鉄鋼・アルミニウム保護を開始。
- 「CHIPS法」と「インフレ抑制法」により半導体製造のリショアリングための補助金を開始し、電気自動車の国内生産を保証する自国調達規制を採用。
- EU:
- 伝統的に産業政策を採用しており、2020年に「開かれた戦略的自律性」を強化する産業戦略を発表。
発展途上国が直面する選択と推奨される方針
- リスク:
- 他国(米・中・EU)と同様に補助金や貿易規制で国内産業を育成することは危険な戦略である。
- 補助金は費用が高く、恩恵を受けられない可能性がある。
- 貿易規制は保護貿易主義への内向きの危険を含み、輸出収入を減少させ、必要な輸入の縮小を招く。
- 財政制約のある発展途上国における優先順位:
- 財政がひっ迫している国は国内生産者への補助金を多用すべきではない。
- 政府支出が乏しい場合は、国内産業への直接的な補助よりも、医療や教育の改善、貧しい国民の救済を優先すべきである(リカルド・ハウスマンの警告を引用)。
- 結論的助言:
- 産業補助金は富裕国が享受できるぜいたく品に似ており、他国が無条件に模倣する必要はない。
- 発展途上国は世界経済への関与を維持すべきであり、輸出と国際的な技術・投資の受け入れを通じて得られる利益を重視すべきである。
中国の造船業と補助金の具体例
- 2006年、中国は造船業を「戦略産業」と位置づけ、主に低利融資による大量生産・投資補助を開始。
- 観察された効果:
- 大きな利益は生まれておらず、過剰生産能力や市場の歪みを生じさせた(Panel、Kalouptsidi、Bin Zahur、2019)。
- 補助金は効率性の低い生産者の参入・拡大に散逸し、産業分断を増大させた。
- 援助の大半は国有企業に流れ、資金融資は政治的性格を帯びた。
- 造船業は経済の他分野に大きな波及効果をもたらさず、産業全体の学習は確認されなかった。
貿易参加の利益と事例
- 多くの国は市場を開放し世界経済に関与することで発展してきた。
- 事例:
- 中国の豊かさ形成は、産業政策よりも農業生産性向上、製造業への外国投資受入れ、民間部門開放が主要因。
- インドは1991年の改革で「ライセンス・ラージ」を解除し経済を開放、成長を継続。
- バングラデシュは外国投資を開放して恩恵を受け、いまやインドよりも1人当たりの国民所得は高い。
- エチオピアやベトナムも経済的孤立ではなく経済的関与から成果を得ている。
- 1990年前後以降、発展途上国は先進国に追いつき始め、「新たな無条件的収束」が起きているという研究が提示されている(Patel、Sandefur、Subramanian、2021)。
出典: ダグラス・アーウィン, 産業政策への回帰, 2023年6月, ファイナンス&ディベロップメント(日本語訳)