国際金融市場は2026年に、好調な出だしを切った。資産価格は複数の主要市場で上昇し、ボラティリティは抑制され、金融環境は歴史的な水準と比べ緩和的だった。この良好な環境は今、中東での戦争によって試練に直面している。
今のところ、市場は一定のレジリエンスをもってショックを吸収している。資産価格は大幅に下落したが、市場の機能は秩序を保ってきた。だが、このレジリエンスを額面通りに受け取ってはいけない。このレジリエンスは、激化と沈静化の繰り返しや、金融システムの構造的な改善、長期的な市場低迷を引き起こす決定的な状況悪化がなかった点を反映したものだ。
世界市場は、敵対行為の勃発に対して迅速に反応した。エネルギー価格の上昇とインフレの不確実性の再燃を反映して、株価は下落し、ソブリン債利回りは上昇し、資産クラスをまたいでボラティリティが上昇した。
重要なのは、この調整が適度に秩序立って起こったことだ。金融機関と投資家の間で、深刻な流動性のひっ迫や資金調達の問題の兆候は見られなかった。
実際に、こうした価格に基づくショックの吸収は、底堅い市場の主要な特徴であり、投資家間のリスク共有を円滑にするほか、効率的な資本配分に極めて重要な価格発見を維持する。これまでのところ、短期資金調達市場とコア市場インフラが、資産価格調整の円滑化に役立ってきた。
金融環境は紛争の勃発に伴いタイト化したが、過去の世界的な混乱局面に観察されたストレス水準には遠く及んでいない。以前の危機と比較すると、かなりの余裕が残っている。同時に、これまでの調整が比較的控えめである点も、市場が悪化シナリオを完全に織り込んでいないことを示している。

この紛争の影響が市場に広がる主な経路は、インフレ期待である。エネルギー価格の高騰は、先進国と新興市場国のブレークイーブンインフレ率と利回りを押し上げた。イールドカーブは、短期金利が長期金利よりも上昇したことでフラット化した。
これは、中央銀行が直面している困難な状況を示す。短期的なインフレリスクが大幅に上昇したことで、金融政策は物価安定に焦点を合わせ続ける必要が出てきた。他方で、戦争が長期化するほど、経済成長と労働市場への損害も拡大する。もしイールドカーブのフラット化が続けば、それはこうした損害の兆候である可能性がある。こうした環境のもとでは、明確なコミュニケーション、信頼性、機関の独立性、そして必要な局面での速やかな引き締めがインフレ期待を安定化させる上で欠かせない。
利回りが上昇したことで、公的債務のリスクに再び注目が集まっている。多くの先進国は、公的債務が高く、財政余地が限られるなかで今回の局面を迎えた。投資家層が中央銀行から価格に敏感なノンバンク金融仲介機関にシフトしたことに伴い、ソブリン債利回りは、インフレショックに対して以前よりも激しく反応するかもしれない。
新興国市場は、こうした変化により敏感に反応する。ショック前から資産が高めに評価され、債券投資フローとキャリートレード戦略が優勢になったことで、グローバルなリスクセンチメントに対するエクスポージャーが拡大した。過去十年間に多くの国でレジリエンスが高まったが、国外からの資金調達の必要性が大きい国や、ボラティリティの高い投資家層を抱えている国では、依然として脆弱性が目立つ。
主要な金融安定性リスクは、初期のショック自体ではなく、市場のボラティリティとセルオフを深刻なストレスに変える増幅経路にある。ノンバンク金融部門の一部で拡大しているレバレッジ、寡占度が高まっている株式市場、かつてないほどタイト化している信用スプレッドはすべて、追加証拠金や追加担保の差し入れ請求を通じて、突然の投げ売りや、急激な流動性のひっ迫を起こす可能性を高めている。

プライベートクレジットは注視すべき重要な分野である。直接融資の急成長は、全般的な経済と金融システムにおけるプライベートクレジットの重要性を高めたが、その半面で、不透明性、評価慣行、長期資産に支えられた短期資金調達、そしてデフォルトの増加が課題となっている。こうした脆弱性はまだ負のショックという試練に晒されていないが、脆弱性の存在自体がシステムのエクスポージャーの高まりを示唆している。今のところ市場の秩序が保たれていてもだ。
金融政策に加えて、他の主要政策においても行動の余地が分野に応じて異なる。財政政策は、高水準の債務や慢性的な赤字により制限されている。それとは対照的に、金融安定性政策は比較的制約が少ない。中央銀行がバランスシートを縮小したことで、必要に応じて資産買い入れを行う能力に幾分余力が確保されており、危機管理枠組みと流動性バックストップも以前より強化されている。対照を絞ったプルデンシャル措置、強固な監督、効果的なストレステスト、優れた設計の流動性ツールも実施できるだろう。
過去数か月の経験は、ストレスの欠如からレジリエンスを推し量ってはならないことを裏付けている。たとえ市場がこれまで秩序ある形で調整されてきたとしても、資産価格が高く、リスクテイクのインセンティブが健在で、増幅経路が強力になっていることは、リスクが引き続き下振れ方向に傾いていることを示している。
従って、次のショックを予見するのではなく、脆弱性を緩和し、システムにストレスを増幅させず吸収できる能力を維持させることが政策当局者の任務である。頻発する供給ショックや高まる地政学的不確実性のなかで、金融の安定性は、自明のものと考えるのではなく、積極的に保護していくべきだ。
本ブログ記事は、2026年4月「国際金融安定性報告書(GFSR)」の第1章「国際金融市場は、中東での戦争とショック増幅リスクに直面している」に基づき執筆されている。