スピーチ

IMF80周年

2025年3月6日

    皆様、おはようございます。工藤さん、ご丁寧なお言葉をいただき、誠にありがとうございます。日本で皆様とお会いできることをたいへん嬉しく思っております。

    同僚の皆さん、クリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事が本日ここにいられないことを残念に思っていることをお伝えします。専務理事は東京訪問をとても楽しみにしていました。皆さんによろしくお伝えくださいと頼まれました。

    まず、主催国に深い感謝の意を表したいと思います。日本は、アジアと世界の安定における中心的な存在であり、貿易を絶えず支持しており、テクノロジーのリーダーかつイノベーターであり、誇りを持って前進している国です。IMFにとって、日本は真のパートナーであり、常にわれわれの活動に対して寛大な支援を提供して下さいます。IMFから日本の皆様へ、日本語でお伝えします:「ありがとうございます」

    このシンポジウムは、第二次世界大戦の終結から80年を迎えた世界の状況を振り返るものですが、同時に、戦後の日本の再生も祝福したいと思います。1945年に、経済の奇跡が起こり、かつての敵が仲間・同盟国となることを誰が想像できたでしょう。繁栄と友情が勝つことを示す素晴らしいお手本です。

    戦後数十年間の世界的な進歩の多くは、1944年7月に米ニューハンプシャー州ブレトンウッズで開催された40か国の会合に端を発する経済協力の壮大な試みの成果です。ブレトンウッズ体制の中心的な概念は、大胆かつシンプルなものです:地政学的な重要性だけでなく、互恵的な協力によって利益が確保されるシステムです。これがIMFの創設の背後にあるコア原則です。われわれはこれを、今日でも守っています。

    戦後、復興が急速に進み、新しい構造、新しい雇用、新しい貿易、新しい加盟国が見られました。そして1952年、日本と西ドイツがIMFファミリーに加わりました。

    IMFは、世界の復興と開発への資金提供ではなく(それは世界銀行の役割でした)、金融の安定を支援することで、役割を果たしました。一国の経済に関する見通しと政策の定期的なピアレビューのシステムは、設立時に定めたIMF協定の第4条の文言から、評価される身近な具体策へと変貌しました。

    このようにして、IMFの3つの中核的な機能が定着しました。

    • まず、マクロ経済のサーベイランス(政策監視)です。1950年代後半から多くの新興独立国が対象となり、1990年代にはロシア連邦や旧ソビエト圏の全ての国が対象となり、今日ではほぼ全ての国が対象となっています。これはIMF独自のグローバルな視点を提供します。
    • 第2に、一国が窮地に立たされた際、豊かな国にも貧しい国にも同じように、経済と金融の安定を取り戻すためのマクロ経済プログラムにおいて支援を提供します。これは、根本的な経済の脆弱性を是正するために加盟国と合意する政策措置と、IMFの融資および準備資産を組み合わせており、後者はこれもまたIMF独自の性質です。
    • そして第3に、能力開発の支援です。能力開発は、当初から日本が(その他の国々とともに)最も寛大に資金提供してきたものです。

    戦後、不信感と対立が蔓延していましたが、その間、IMFは一貫してガバナンスが機能する場所、情報と知識が自由に交換される場所、一国の政策の教訓が他の多くの国の利益のために共有される場所、効率と有効性を両立する場所、互いに対立する加盟国がひとつのテーブルを囲み落ち着いて問題を議論する場所、であり続けてきました。これが、IMFで実際に見られる日常です。

    もちろん、長年にわたり、われわれは成功も失敗もしてきましたが、成功の方が多かったと言えます。例えば、1977年の英国でのプログラム、1991年のインドでのプログラム、2002年のブラジルでのプログラム、そして今日、東アジアやユーロ圏の旧プログラム受益国が示す例を挙げられます。成功と言っても、危機が猛威を振るうと、各事例において独自の困難がありました。

    ジャマイカが困難な時期にあった際、私は同国の財務大臣として、国とIMFの協議における反対の立場からIMFの活動を見る機会がありました。当時、そして現在もそうですが、IMFチームが知識、経験、制度を兼ね備えていることは明らかでした。IMFスタッフは自分たちの専門を熟知していました。

    IMFでは、ひとつの基本的な事実をよく理解しています:国は企業とは異なります。大変な時期には、人々が直面する困難に常に対処しなければなりません。主権国家が新たなスタートを切るために必要とする枠組みに最も近いものをIMFが提供します。それは世界にとってユニーク、かつ重要な機能です。

    そして、IMFでは静かな時期がめったにありません。今日、低成長・高価格・高債務の世界に直面する中、われわれは各国に対して、インフレへの対処において気を緩めている余地はないと警告しているほか、必ずやって来る新たなショックに備えてマクロ経済のバッファーを再構築するための最善の方法について助言したり、生産性を上げ、より良い雇用を創出するための政策に綿密に関与したりしています。

    皆様、われわれは今、世界経済にとって大きな変動の新たな時期におり、多くの国は、テクノロジーや人口動態、エネルギーに関連する構造的な変革に直面する中で、それぞれのアプローチを再評価しています。世界中の有権者は、物価の高さに対する怒りや、場合によっては、エリート主義で排他的と見なす国際主義システムに対する不信感を表しています。願望と現実との間の隔たりが広がっており、それも一因となって、不確実性が漂う古いシステムへ異議を唱える姿勢が助長されています。

    世界が波立つ海を航海しているような中で、IMFがどのように 船を安定させることができるかについて、いくつかの前向きな考えを共有して、話を終えたいと思います。

    4つのポイントがあります:

    • まず、相互に連関している世界では、安定性は誰にとっても重要です。IMF活動は、国際通貨協力を促進するという使命が中心にあります。これは、80年にわたりますます統合を進めてきた時期を経て、未だかつてなく重要となっています。消防士がひとつの家の火を消し、それによって近隣の住宅街を救うように、IMFがひとつの国の安定化に寄与するとき、それは他のすべての国を助けるのです。小さなことが、いかに簡単に、大きな役割を果たせるかについて、われわれはよく理解しています。IMFは、これを実施する方法について、経験豊富な知識の宝庫であり、したがって、われわれは使命を果たし続けます。サーベイランスによる危機予防、政策助言や融資による危機管理、能力開発によるレジリエンスの構築など、安定はわれわれの中核的な使命であり続けます。これは、各国が財政再建に向け十分に段取りされ十分にコミュニケーションのとれた計画を策定し、インフレを抑制するための効果的な金融政策を維持し、対外的安定性を守り、金融システムが確実に底堅さを保つようにすることなどを助けることです。これがわれわれの本業です。
    • 第2に、成長には安定が必要であり、安定には成長が必要です。最終的に、国が国民のために雇用を創出し、債務を負担することができるようにする方法は、堅調なすう勢成長率を実現することです。ここで申し上げる成長とは、一時的な刺激策によるものではなく、生産性の向上と効率的な資源配分に基づく成長です。IMFでは、新たな「起業と成長に関する諮問委員会」の支援を受け、ポジティブな教訓を、世界のどこで見られようともそれを特定し、加盟国全体で共有するとともに、各国がAIを中心とするテクノロジーの進歩を活かせるよう支援していく意向です。政府のフットプリントを減らすことが助けとなる場合もあるでしょう。そのほか、よりスマートな税制、より効率的な公共支出とより良いインフラ、より強力な破産処理枠組み、よりシンプルで優れた規制、強力な社会的セーフティネットを備えたより柔軟な労働市場、ベンチャーキャピタルを含む厚みのある流動性の高い資本市場も追い風となるでしょう。これは、広範にわたる野心的な課題です。
    • 第3に、安定のためには、世界的にマクロ経済のバランスが取れていなければなりません。IMFの目的は、高水準の雇用と実質所得の促進・維持に貢献するための国際貿易の拡大を促すだけでなく、貿易の成長が確実にバランスの取れたものとすることでもあります。しかし、われわれは不均衡な世界に生きており、一部の国には過度の対外黒字が、他の国には過度の赤字が見られ、将来の不安定性の原因となる恐れがあります。IMFでは、対外不均衡が国内の不均衡を反映していることを理解しています。消費や投資が多過ぎる国もあれば、消費や投資が少な過ぎる国もあります。これは、完全なマクロ経済政策ツールキットを共同で展開することが求められる課題です。これらは根深い問題であり、政策が引き起こす歪み、為替レート、制度の厚み、準備通貨、人口動態、富と所得水準、テクノロジー、文化、歴史などを反映しています。われわれは、国際収支の不均衡を緩和するために、引き続き加盟国と協力していきます。
    • 第4に、そして最後に、グローバルシステムが再構成されるにつれて、俊敏性が鍵となります。近年、地経学的な分断が見られる中、多くの国が共通の関心を持つグループを作りました。現在、この傾向は続いており、地域貿易と地域レベルの金融取極めにますます重点が置かれています。可変翼方式を採用する世界では、IMFは、地域のニーズに応えたり、全ての国の利益のために国際金融セーフティネットを強化する方法を模索したりすることを含め、必要に応じて柔軟に対応していきます。金本位制から変動型為替相場制、先進国との取り組み、新興市場国の救済、低所得国への支援まで、80年にわたり、IMFは変化する状況に対応し、時代とともに進化してきました。われわれはこの伝統を守ります。

    これら4つの点をもって、191か国のIMF協定に定められた中核的な目的に忠実であり続け、協定に導かれながらも、必要に応じて変化する環境に機敏に対応し、加盟国に引き続き優れた形で貢献できるIMFのビジョンを提示しました。それでは、私の4つのテーマ(安定、成長、バランス、俊敏性)について、そして、状況が変化する時代に合わせてIMFを形成するためにどのようにこれらを組み合わせることができるかについて、皆様に考えていただきたいと思います。

    本日の議論を楽しみにしています。特に、地域と世界の経済協力における秀でた支持国として、この新しい世界での日本の役割について、ご意見をお聞かせ下さい。

    ご清聴ありがとうございました。

    IMFコミュニケーション局
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