金利の上昇と市場の乱高下に見る金融安定性リスク増大の兆候
IMF Blog, October 11, 2022
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- Authors: Tobias Adrian
- Published: October 11, 2022
世界的な金融環境のタイト化とリスクの概観
- 中央銀行が金融政策の正常化を加速している影響で、世界金融環境がタイト化している。
- 金融環境は中央銀行の利上げ継続を受けてタイト化しており、世界中で不確実性が高まる中で、金融安定性へのリスクが著しく上昇した。
- IMFの「国際金融安定性報告書(GFSR)」が指摘する主要課題:
- 数十年来の高インフレ
- 多くの地域で悪化し続ける経済的展望
- 絶え間ない地政学的リスク
- 中央銀行は「高インフレと闘う」ために金融政策の引き締めを加速しており、先進国と新興国の双方で部門や地域を跨いだリスクと脆弱性に直面している。
債務・ノンバンク・バランスシートの脆弱性
- 政府部門の脆弱性が高まっており、多くの政府で債務が増加している。
- 保険会社、年金基金、ヘッジファンド、ミューチュアル・ファンド等のノンバンク金融機関も脆弱性が増している。
- 金利上昇はバランスシートが逼迫している事業体をさらに圧迫している。
- 債券利回りは信用格付を問わず広範に上昇しており、多くの国と企業にとって借入コストが既に過去10年で、あるいはそれ以上の期間で最高の水準まで上昇している。
市場流動性と価格変動の増幅リスク
- 金利と資産価格のボラティリティが高いことにより、一部の重要な資産クラスでは「所定の価格で取引を行える手軽さやスピード」が失われている。
- 市場流動性の低さは既存の脆弱性と相まって、今後数か月に急速かつ無秩序なリスクの価格調整(リプライシング)が起きた場合に、そのリプライシングを増幅する可能性がある。
- 投資家は経済的・政策的な不確実性の高まりを受けリスク回避的態度を強めており、世界市場は切迫した状況にある。
- 金融資産価格下落の要因には以下が含まれる:
- 金融政策の引き締め
- 経済的展望の悪化
- 景気後退に関する懸念の高まり
- ハードカレンシーの借入コストの増加
- 一部のノンバンク金融機関でのストレス悪化
不動産部門の懸念
- 多くの国の不動産部門の低迷がリスク懸念を高めており、銀行やマクロ経済へ波及しうる。
- 住宅市場リスクの拡大要因:
- 住宅ローン金利の上昇
- 融資基準の厳格化により潜在的な借り手が市場から締め出されている
- 一部の市場セグメントで過熱した住宅評価額が急激に是正される可能性がある。
新興市場国およびフロンティア市場の圧力
- 新興市場国は次の複数のリスクに直面している:
- 高水準の対外借入コスト
- インフレの高止まり
- 変動の激しい一次産品市場
- フロンティア市場は特に深刻な圧力:
- 金融環境の引き締まり
- ファンダメンタルズの悪化
- 乱高下する一次産品価格への高いエクスポージャー
- 投資家は国毎に区別して対応しているが、外国人投資家の動きは「今年度前半から一転し、再び資金を引き揚げている」。
- 新興市場国・フロンティア市場による主要通貨建て債券発行は「2015年以降最低のペースにまで鈍化している」。
- 外貨建て資金調達へのアクセスが改善されない場合、多くのフロンティア市場の発行体は代替の資金調達源や債務の返済期限延長・再編を模索する必要がある。
銀行部門と企業部門への影響
- 世界の銀行部門は高水準の資本基盤と潤沢な流動性バッファーによって下支えされている。
- IMFのグローバル銀行のストレステストは警鐘を鳴らしており、一部の銀行ではバッファーが不足している可能性を示唆している。
- 仮定:来年、金融環境の急速な引き締めが高インフレの中で世界的な景気後退を引き起こす場合の影響:
- 29%の新興市場国の銀行(資産ベース)が資本要件に違反するだろう。
- 先進国の銀行については、その大半が遥かに良好な状態であることが示唆されている。
- 企業部門に対する影響:
- 厳しいマクロ経済環境で信用スプレッドは大幅に拡大している。
- コスト高が企業の利益を圧迫している。
- 小規模企業の間では、借入コスト上昇や財政支援の削減により倒産が増加し始めている。
政策助言と対応
- 中央銀行に対する助言:
- インフレ期待の不安定化を回避しつつ、インフレを目標に戻すために断固として行動すること。
- 政策決定や価格安定性へのコミットメント、政策引き締めの必要性に関する明確なコミュニケーションが不可欠であり、信頼性維持と市場ボラティリティ回避に資する。
- 為替政策について:
- 金融政策の引き締めペースが各国で異なることに対応するためには為替相場が柔軟であることが重要。
- 為替変動が中央銀行の政策伝播メカニズムを妨げたり、より広範な金融安定性リスクにつながる場合には、外国為替市場介入が検討できる。
- こうした介入はIMFの統合的な政策枠組み(IPF)で示すように統合的なアプローチの一環として位置付けるべきである。
- 新興市場国・フロンティア市場に対する助言:
- 債権者を早期に関与させ、多国間協調や国際支援を通じて債務リスクを軽減すべきである。
- 過剰債務に陥っている国は、二国間債権国や民間部門と協働で予防的な債務編成に着手し、犠牲の大きい債務不履行(デフォルト)や長期的な市場アクセス喪失を回避する必要がある。
- 妥当な場合には、G20の共通枠組みを活用すべきである。
- マクロプルーデンスと金融安定性:
- 政策当局は脆弱性が集中する分野に取り組むため、採用したマクロプルーデンス施策を調整して対処し、さらなる脆弱性の蓄積を抑制すべきである。
- 不確実性が高い現状においては、潜在的な脅威の抑止と金融環境の無秩序な引き締めの回避を両立させることが極めて重要である。
— 本ブログ記事は、2022年10月「国際金融安定性報告書(GFSR)」の第1章「高インフレの新環境における金融の安定性」に基づき執筆されている。