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写真:Gopixa/iStock by Getty Images

IMF サーベイ・マガジン : 革命ではなく発展: IMF政策を再考する

2016年6月2日

  • 政策についての考え方を継続的に検証することはIMFにとり重要
  • 財政政策は長期的な成長と公正を支援すべし―政策アドバイスは国や状況により変化する
  • 資本フローと貿易は今後のリサーチ課題

界金融危機は、世界各地のアカデミアと政策関係者によるマクロ経済及び金融部門の政策に関する幅広い見直しにつながった。就任して8カ月目を迎えたモーリー・オブストフェルド国際通貨基金(IMF)チーフ・エコノミストは、この見直しと、経済・金融安定の促進におけるIMFの役割について自らの考えを明らかにした。

モーリス・オブストフェルド:「IMFは加盟国での経験を基盤に、経済サーベイランスや技術支援、危機対応でのIMFの有効性を向上させるための新たなリサーチに取り組んできている」(写真: IMF)

モーリス・オブストフェルド:「IMFは加盟国での経験を基盤に、経済サーベイランスや技術支援、危機対応でのIMFの有効性を向上させるための新たなリサーチに取り組んできている」(写真: IMF)

チーフ・エコノミストインタビュー

IMF サーベイ: IMFはここ数年、自らのマクロ経済の考え方と政策アプローチを点検する意欲を明確にしてきました。一部にはこれは革命的だとの見方が出ています。その通りと思われますか。

オブストフェルド: 私の考えではそれは「革命」ではなく、むしろ「発展」だと思います。 IMFは長い間、加盟国での経験を基盤に、経済サーベイランスや技術支援、危機対応でのIMFの有効性を向上させるための新たなリサーチに取り組んできています。

世界金融危機のショックが 世界各地のアカデミアと政策関係者によるマクロ経済及び金融部門の政策に関する幅広い見直しにつながった、と言っていいでしょう。IMFもその一翼を担ってきました。しかし加盟各国や世界経済システムに対するIMFの決断のインパクトを踏まえると、我々が新たな事実に照らしながら、我々の思考を恒常的に再検証していくことは特に重要なことと考えています。

このプロセスが我々のアプローチの核心部分を根源的に変えたということはありません。それは開かれた競争のある市場、頑健なマクロ政策枠組み、金融安定性、そして確固とした制度に基づくものです。しかしこのプロセスはこうした結果をいかに持続的に達成するかについての重要な知見を増やすものです。

IMF サーベイ: IMFの直近の「ファイナンス&デベロップメント」に掲載された「新自由主義は過大評価か」の記事はIMFの考え方の大きな変化を象徴するとの見方が出ていますが、それに賛同されますか。例えば、IMFは、財政緊縮はもはや機能せず、実際にも格差を悪化させている、と考えていると思われますか。

オブストフェルド: あの記事は広く誤解されています。これは、IMFのアプローチの大きな変化を表しているものではありません。

IMFが緊縮に対して賛成なのか反対なのかとの疑問の立て方は誤解を生むと考えています。誰もが不要な緊縮など望みません。我々は長期にわたり成長と公正を支える財政政策を支持しています。そうした政策は国によって、また、状況によって変わり得ます。

いかなる政府も、長期的なベースでその国の歳入の限度の中でやりくりせざるを得ません 。そうでなければ何らかの形のデフォルト(債務不履行)に陥り、それは通常国民にとって大変高いコストにつき、特に最貧層に負担となります。これは事実であり、思想的な解釈の違いによるものではありません。 

我々の仕事は各国政府に望ましくない結果を回避できるよう、いかに上手に財政政策を運営するかのアドバイスを与えることです。時にこれは、過度な財政支出削減が成長や公正さ、そして財政の維持可能性の目標に対してさえ、阻害的になり得るような状況があることを我々が認識しなくてはならないことを求めています。

IMF サーベイ: この考え方の再検証は、IMFの実務にはどのように反映されていきますか。

オブストフェルド: 各国は非常に高率のインフレを起こすことなく公的債務が返済されると市場が確信できるような信頼性ある中期的な財政枠組みを持つ必要があります。そのような財政枠組みを持つ国は、経済的停滞を緩和するために、ビルト・イン・スタビライザーを含む財政手段の余地を通常持っているものです。

残念なことに、一部の国は市場へのアクセスを失うリスクを抱えるほどに公的債務を膨らませてしまい、経済が不調になっている時でさえ、財政を緊縮せざる得なくなっています。IMFの調査によりますと、そうした場合では貧困層へのしわ寄せがしばしば不釣り合いに大きくなることが示唆されています。つまり、財政調整を計画する際には、最弱者への影響を常に考慮することが大事であるということです。もちろん国や地域が許容できるあるいはすべき痛みには限度がありますので、特に困難なケースではIMFは債権者に調整のコストの一部負担が必要となる債務の再構築や削減を勧めることになります。 そして、これが現在ギリシャについてIMFが勧告しているアプローチです。

IMF サーベイ: IMFはこの再検証の一環として資本フローを注視しています。これは来年どのような方向に進んでいくとお考えですか。

オブストフェルド: 世界金融危機もそれ以前の危機も、資本流入の急増は、特にその国で与信ブームと金融不安定性をあおることを通じて、不安定化させる作用を持ち得ることを示しました。資本フローが逆転して、資金が国外へ向かいだすと、その国は大変脆弱な状況に追い込まれました。

2012年にIMFは、調査局の実施した重要なリサーチにも基づき、資本フローの規制策が有用となりうる条件についての「 インスティテューショナル・ビュー(IMFとしての見解) 」を採用しました。IMFは現在、近年実施した資本フロー措置の経験を分析中で、「インスティテューショナル・ビュー」を修正すべき、あるいは修正するのならいかにすべきかについて調べています。一つの試練は、時に補完的役割を果たすマクロプルデンシャル政策をどう組み入れるかです。これはIMFの、経験から学び、それに応じて我々の考え方を発展させていこうとする素晴らしい事例と言えるでしょう。

IMF サーベイ: 最近の世界貿易の動向はどう見られていますか。貿易活動の低下は考え方にどう影響していますか。

オブストフェルド: 第二次世界大戦後は貿易が世界成長の素晴らしいエンジンとなってきましたし、今後もそうあり続け得ます。

最近の貿易の伸びの鈍化理由についてはまだ完全に解明されていませんが、世界的な投資の低調や一時産品価格の下落、世界のバリューチェーンの縮小可能性などが指摘されています。ただ、貿易減速が新興市場国に集中しているのが見て取れます。

今秋発行する2016年10月の世界経済見通しでより十全な原因分析をする予定です。しかし、貿易について我々が学んだ一つは、その結果は複雑で、多くの国が不十分にしか対応していない所得と雇用の分配の変化を含んでいるということです。この失敗が保護主義ムードをあおっています。

しかし、私はこのような結論を導き出したいと思います。つまり、最近の貿易の伸びの鈍化は多かれ少なかれ懸念事項であり、どの人にとっても良いニュースではなさそうだということです。