IMF:「人民元のSDRバスケットへの採用は、中国経済を国際金融システムに組み込む画期的な出来事だ」(写真TPG/Newscom)

IMF、中国人民元を特別引出権バスケットに採用

2016年9月30日

  • 人民元、米ドル、ユーロ、日本円、スターリング・ポンドと共にSDRバスケットに採用される
  • この変更はIMF、SDR及び中国にとって重大な一里塚
  • この動きは現在継続中である中国の改革の進展を評価し、補強するもの

国際通貨基金(IMF)は10月1日付けで、中国の人民元(RMB)を特別引出権(SDR)通貨バスケットに採用する。

SDR は、加盟国の準備資産を補完する手段として、IMFが1969年に創設した国際準備資産である。IMF理事会は2015年11月にSDRバスケットの通貨構成の変更に合意 、準備期間を経て発効となる。RMBは、これまでの4主要通貨―米ドル、ユーロ、日本円及びスターリングポンド―に加えて5番目の通貨としてSDRバスケットに採用される。

以下のインタビューでは、シダート・ティワリIMF戦略政策審査局長とアンドリュー・トゥウィーディ IMF 財務局長が、今回の変更が行われた経緯、及びIMF、SDR、中国、国際通貨制度全体にとっての今回の変更の意義について解説する。

IMF ニュース:人民元がSDR バスケットに採用されたことは、中国にとってどのような意味をもちますか。

ティワリ :RMBの採用は、中国経済を国際金融制度に組み込む重要な一里塚だと言えます。RMBを自由利用可能通貨だとするIMFの判断は、国際貿易において中国の役割が拡大し、国際的なRMBの利用や取引が著しく増加したことを反映するものです。また、中国の通貨制度、為替制度、金融システムにおいて改革の進展がみられたことに加え、金融市場の自由化、統合、インフラの改善においても進展がみられます。RMBがSDRバスケットに採用されたことで、既に国際的に利用や取引が増加しているRMBを一段と支えることになると我々は予想しています。

加えて、データ公表は通貨をSDRバスケットに採用する正式基準ではありませんが、準備通貨発行国は通常高い透明性基準を満たしています。中国当局は最近、データ公表を向上させ多国間データイニシアティブへのコミットメントを強化する歓迎すべき措置を講じました。例えば、外貨準備の通貨別構成をIMFに報告しています。また、中国当局は中国の銀行セクター統計の報告に関して、引き続き国際決済銀行と協力していきます。これらの進展は、外貨準備の公的な保有者のなかでRMBの受け入れの増加につながります。

IMF ニュース:話しを少し戻すと、SDR の採用基準とは何ですか。

トゥウィーディ: 通貨をSDRバスケットに採用する主な基準は2つあります。

ひとつは、輸出基準です。バスケットに採用される通貨の発行国は、世界有数の輸出国であることが求められます。これは1970年以降SDR評価手法の一環となっており、バスケットに採用される通貨が、世界経済で中心的な役割を果たす加盟国・通貨同盟発行の通貨であることを担保するためのものです。

もうひとつは、IMFがSDRバスケットに採用する通貨がIMFが「自由利用可能」だと判断することです。これはすなわち、国際取引での支払いに広く使われ、主要な取引市場で広く取引されていることが要件となります。この基準は、世界経済における金融取引の重要性を反映させるために、2000年にSDR評価手法のひとつとなりました。

IMF ニュース:中国人民元の採用は国際通貨制度にどのような影響を及ぼすと予想していますか。

ティワリ :国際通貨制度にとっての利点はいくつかあります。

まず、RMBがSDRバスケットに採用されたことで、RMBは国際化プロセスを強固にします。通貨の国際化には、市場と制度に対して厳しい要件が課されます。経験によると、これらの要素には、例えば、深化した流動性を備えた金融市場の発展、資本勘定のある程度の開放度の達成、予測可能なマクロ経済状況の実現、強力で信頼の置ける制度、市場のインテグリティの確保があります。たとえば、信頼できる法の原則を整備することによってです。こうして、RMBの国際化プロセスを一段と強化することは、中国経済、ひいては世界経済の強化につながります。

2番目に、RMBがSDRバスケットに採用されたことで、RMBの国際準備資産としての魅力が高まり、国際通貨資産の多様化を支えます。

IMF ニュース:今回の採用は SDR 自体にはどのように影響しますか。

トゥウィーディ: RMBの採用は、中国にとってだけではなく、SDR自体にとっても重要な転機となります。新通貨がバスケットに採用されたのは、1999年にユーロがフランスフランとドイツマルクに取って代わってから初めてのことです。RMBの採用によりSDRバスケットの多様化が進み、一段と世界の主要な通貨を代表することになります。このように、RMBの採用により、SDRの国際準備資産としての魅力が高まるとみられています。

IMF ニュース:これまで、 RMB SDR バスケットへの採用が中国、 SDR 及び国際 通貨 制度にどのように影響するかについて意見を伺いました。それでは、 IMF への影響についてはどうお考えですか。

トゥウィーディ: RMBが自由利用可能通貨と判断したことで、IMFに対する中国の権利と義務が変化し、IMFの金融業務にも重要な影響があります。自国通貨がIMF取引に採用されると、自由利用可能通貨の発行国は、買入れで(IMFによる融資)自国通貨を供給し、買戻し時(IMFへの返済)に借手から自国通貨を受け取ります。これは、将来中国が採用されると、借入国は借入時にRMBを受け取り、返済時にはRMBで返済する必要があることを意味します。借入国がRMBを別の自由利用可能通貨へ交換することを中国に求めた場合、他の自由利用可能通貨の発行国と同様に、中国はRMBを別の自由利用可能通貨に交換するために 協力し、最善を尽くす義務があります。対照的に、自国通貨がIMFにより自由利用可能通貨と判断されていない加盟国がIMFの金融業務で財源を提供する場合、自国通貨を自由利用可能通貨に交換する義務があります。

加えて、SDRバスケットの通貨は、SDRを評価するための適切な為替レートと適切な参考金利を持つべきです。IMF加盟国、その政府機関、及びその他のSDR保有者は、準備高管理及びリスクヘッジのために自由利用可能通貨建ての金融商品を適切に利用できることが必要です。

SDR バスケットの通貨構成の変更の動機は?

10月1日からRMBをSDRバスケットに採用するというIMF理事会の決定は、5年毎に実施するSDR評価手法の見直しのなかで行われた。この見直しでは通常、バスケットの一部となる通貨の選定基準、通貨の選定、比重を決定するための手段、バスケットの通貨構成が評価される。国際通貨制度でのSDRの役割に関連する広範な問題やSDRの配分は、この見直しの検討事項の範囲外である。SDR評価の枠組みは、SDRを国際準備資産として支えることを目指している。

2010年のSDR評価見直しの結論、その後2011年に行われた理事会による一連の審議―SDRバスケットへの通貨の採用基準は変更しないことが承認された―及び中国経済の重要性の高まりにより、2015年の見直しでは、RMBをSDRバスケットに採用するかどうかの決定に関連する構成要素に集中すべきだということになった。

「スタッフの徹底的な分析―金融市場の発展を考慮し、複雑な問題を調査するための局横断的な意義のある取り組み―により理事会は、RMBが広く使用され広く取引されている(IMF協定に規定されている自由利用可能通貨の定義による)と判断できると結論付けた」とシダート・ティワリIMF戦略政策審査局長は述べている。