テクノロジーの潜在能力の恩恵を受けるには、スマートな政策が不可欠

2016年10月19日

  • テクノロジーは、今後10年間世界経済に著しい成長をもたらす可能性がある
  • 労働者をテクノロジーに適応させるには、新しい教育モデルが必要
  • 技術の変化に遅れないようにするには、文化的、組織的な変化が要求される

「議論の対象がビッグデータ、モノのインターネット、デジタル化、あるいは3Dプリンティングかどうかに関係なく、技術革新は加盟国のどのセクターにも深く浸透している」と、 「 テクノロジー、イノベーション及び包摂的成長」セミナーの開会の挨拶でクリスティーヌ・ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事は強調した。 

ラガルド氏は、「テクノロジーは、我々の生き方、学び方、稼ぎ方、そして消費の仕方に大きな影響を与えるだろう」と述べた。

IMFはテクノロジー専門家と連携し、全世界の加盟国における技術変化の影響を一段と深く理解する必要がある、と同氏は付け加えた。本セミナーでは、テクノロジーに関する世界のソート・リーダー(実践的先駆者)との議論が行われた。これは、この問題に関連する対話を開始する重要な一歩となった。

好ましい変革

新たなデジタル時代はあらゆる人々の生活を変える、とシスコシステムズの最高経営責任者、ジョン・チェンバーズ氏は強調した。

今後10年間で世界で経済成長が約19兆ドル増える、言い換えれば全世界のどの国もGDPが1~3パーセント成長するとみている、と同氏は述べた。こうした成長により、総じて平均所得も上がるだろう―ただし、世界の諸国がこの公式を正しく理解した場合だが、と同氏は付け加えた。

ただし、多くの人々が大きなプラスを手にする一方で、社会の低所得者層では経済の停滞が生じ、それが社会不安につながった、とパネリストの一人で非営利団体「Sama」の創業者兼最高経営責任者レイラ・ジャナ氏は警告した。「こうした人々がどのような問題に直面しているのかを理解するために我々がやるべきことをやらなかったら、高い代償を支払うことになるだろう」。

シリコンバレーにあるジャナ氏の組織は、開発途上国の貧困ラインより低い生活を送っている労働者を雇用している。彼らは現地のコンピュータの中心地のハイテク企業で働いている。大規模プロジェクトを小さなユニットの作業に分けることで、企業はほとんどトレーニングを受けていない人材でも雇用できる。

ジャナ氏によると、変革の最も強力な力のひとつは、低コストの高速インターネットアクセスである。

もう一人のパネリスト、ケニアの新興企業「Weza Tele」の創業者ヒルダ・モッラ氏にとって、モバイルテクノロジーは「状況を一変させた」ものだった。携帯電話はアフリカにおける融資を一変させ、かつてない規模で融資の利用が可能となった、とモッラ氏は語った。

破壊するか、されるか

しかし、テクノロジーが経済発展の力であっても、それに取り残された人々にとって見通しの暗い側面も存在する、とパネリストたちは意見を述べた。

今後到来するデジタル時代は「破壊するか、されるかの時代となる」と、チェンバーズ氏は述べ、今後10年間で米国、アジア、欧州の企業のうち40%が消滅するかもしれないと警告した。

人員の削減は不可避であることから、人々はその状況に適応するために何をすべきか、とラガルド氏が質問した。

教育が鍵となることで、パネリストの意見が一致した。「我々は、新しい教育モデルを必要としている―現在の教育システムは破綻している」と、パネリストの一人であり、発明家、著者及びフューチャリストのレイ・カーツワイル氏が述べた。この分野において独創的なアイディアが不可欠である。一刻も無駄にできない。「我々は、古いモデルの直線的思考と異なるやり方で、教育面で早急に対処しなければならない」と同氏は警告した。

容易な要素

デジタル時代の最も困難な面のひとつは、政府が現在実施している政策及びインセンティブを適応させていくことである。テクノロジーはこれまでになく加速して生活を変えているが、公共政策は対応が遅くなる可能性がある。

「テクノロジーは容易な要素である。困難な要素は、企業や国が文化、組織及び報酬メカニズムを変えていくことにある」とチェンバーズ氏は述べた。

新しい経済では、さまざまなレベルで政策の再考が求められる、とジャナ氏は述べた。「コンピュータはこれまでよりはるかに多くの作業をこなしていることから、史上初めて働かなくても生計を立てられる人々が大量に現れるだろう」。これは好ましいことだが、政府は失業したり、新しい仕事への移行に苦労している人々のために普遍的なベーシックインカムの制度化を検討すべきだ、とジャナ氏は述べた。

セミナーの終盤で、パネリストたちはIMFに助言をし、モッラ氏の次の言葉で締めくくった。「若者への投資はIMFのビジョンの一部となる。若者たちは、今後の世代のためにこの経済を牽引する必要がある」 。