日本とIMF—力を合わせ、包摂的かつ持続的な経済成長を促進

2017年11月7日

演説原稿

 

I. はじめに

淺川財務官、ご来賓、ご列席の皆さま、おはようございます。

IMFアジア太平洋地域事務所の鷲見所長、温かい言葉でご紹介くださり、ありがとうございました。そして、この重要な会議の運営を担ってくださっている地域事務所の皆さまにも、御礼を申し上げます。

1年の中でも特別なこの季節に、議論の場を持てたことを素晴らしく感じております。空気の中に秋を感じられるのであれば、高い人気を集める学園祭に大学生たちが取り組む季節に違いありません。

学園祭では最先端の学問の成果が展示されており、その点で「先進的」です。また、ダンスのパフォーマンスから、美味しい伝統的な食べ物を売る屋台まで「共通体験」を確たる土台としています。

「先進性」としっかりとした「共通体験」の礎は、過去65年間にわたり育まれてきた日本とIMFのパートナーシップを表現する上でしっくりくる言葉です。

日本は一貫して、分析や政策助言、融資の提供、そして加盟国が経済のガバナンスや諸制度を強化する上での支援にいたるまで、IMFの取り組みを常に支援してきました。

このように、日本はIMF加盟国として積極的に関与し続けてきました。これまで世界経済のあり方に関する議論は常に変遷を遂げてきましたが、こうした積極的な姿勢の結果、日本の声はそうした議論の中で力を持ち、影響力を発揮することができてきました。

共に手を携えることで、ここ日本で、アジア太平洋地域で、そして世界全体において、私たちは経済の転換に貢献してきました。

日本とIMFはこれまでの道のりを一緒に歩んできました。共に変化を遂げ、適応してきました。一方で、基盤となる原則には忠実であり続けてきました。

1964年に東京で開催されたIMFの年次総会で、池田勇人首相は「国内・国際を問わず、我々全員が直面している課題は、安定した経済成長を実現し、富める者と貧しき者の格差を改善することである」と述べられました。

より最近について申し上げますと、女性の経済的なエンパワーメントにさらに注力されることなど広範にわたる改革を通じて、安倍首相がこのアプローチを一層強化されています。

包摂性と経済の安定が私たちの「共通体験」の中心にあります。私たちはこの2点を主に今後も優先し続けるべきです。

ですから、本日は、経済成長をより持続可能なものにし、その恩恵を全ての人に届けられるようにするために、どのように日本とIMFが協力関係を強化でき、お互いの経験を組み合わせて活かすことができるかについて、お話したいと思います。

 

II. アジア太平洋地域の将来を形作る

では、まず世界で最も活力に満ちた地域に焦点を合わせることから始めたいとい思います。

過去30年間にわたって、アジアの貢献によって、世界はその姿を変えてきました。アジアは世界最大の中産階級を生み出し、人類史最大の貧困削減を牽引してきました。

ここ10年においては、世界の他の場所で経済回復の足取りが鈍い中、アジアの発展が世界の経済成長の3分の2を担い、世界に活力を吹き込んできました。

良い知らせとしては、今年と来年、世界経済の成長が加速し、それぞれ3.6%3.7%に達することが見込まれています。好ましい勢いがアジアで経済成長をさらに加速させています。

結果、政策当局には大きなチャンスが生まれています。これまで積み重ねた実績をもとにさらに前進し、その一方で現在の課題に取り組む上で絶好の機会が到来しています。これには人口動態と生産性に関する点が含まれます。この地域にある国々・地域のどの経済にとっても、長期的に見て非常に重要な問題の2つです。

インドやインドネシアといった若年人口が占める割合が高く、かつ人口が増加中の国々は人口ボーナスを手にするためにこの機会を活かすことができます。

一方で、中国や日本、韓国といった国々では、急速に進む高齢化の経済的な影響を緩和する施策をとることができます。

そして、未来の生活水準を高められるように、アジア全域で生産性を再び刺激する余地があるでしょう。

第一線を走る日本

それでは、アジアはこうした課題にどう取り組むことができるのでしょうか。多様性に富むこの地域では、同じ処方箋を各国の政策に対して一律に用いることはできませんが、それぞれの国の体験を分かち合うことで、全ての国がその恩恵を受けることができるでしょう。

もちろん、日本は政策面で世界でも有数の豊かな経験を持っています。日本はアジアで最初の新興市場国であり、また、人口動態と生産性の動きに合わせた対策を行うために政策面でイノベーションの最前線を走っています。

良い事例としては、日本が科学技術のイノベーションに力を注いでいることが挙げられます。人工知能からビッグデータ、ロボット工学やバイオテクノロジーまで、政府が「第4次産業革命」を推進するべく取り組まれていることも、ここには含まれます。

また、私は2020年の東京オリンピックを心待ちにしています。この五輪の舞台で、日本の素晴らしい技術が紹介されることが予定されています。そこでの計画例としては、宙を自由に駆ける大規模なホログラムや、オリンピックの聖火点灯に間に合うように空飛ぶ車を開発することが挙げられます。

政策のイノベーションに関する他の好事例としては、労働者に占める女性の割合を高めようと日本が尽力していることです。

過去5年間で、女性の労働者の数は160万人増加しました。この背景には、促進政策の力も少なからずあったことでしょう。現時点では、保育をより利用しやすくすること、長い労働時間を減らしていくこと、そして「同一労働同一賃金」を推進していくことに、さらに注力する余地があります。

こうした施策によって、日本が本当に大きく変わっていく可能性があります。潜在成長率を押し上げ、包摂性を高められるようになります。

女性のエンパワーメントに取り組み、経済成長の恩恵が届く範囲を広げようと努力することは、倫理的にも、経済的にも、その両方の側面から正しいことです。この点は格差がすでに大きく深刻化しつつある国において、特にあてはまります。

例えば昨年、アジアの億万長者637人が持つ資産の総額は33%近く増え、2兆ドル規模に達しています[1]が、これは13人の人口を抱えるインドのGDPにほぼ相当する金額なのです。

簡単に申し上げると、IMFの調査からもわかっていますが、経済成長の恩恵が届く範囲が広ければ広いほど、成長は力強く、持続的で、さらに強靭なものになるのです。

アジアの多くの国々にとって、これは税制と支出政策を改革することを意味します。低所得世帯向けに行う条件付の所得移転や、保健医療や質の高い教育を受ける機会の拡大などの政策にさらに注力することを意味しているのです。

こうした経験や、どの政策が効果をあげたかについての知識を、アジアや世界中で国境を超えて共有することがとても重要になります。

 

III. 一層の国際協力を促進する

a) アジア、日本とIMF

こうした理由から、IMFは政策に関するアイディアやベストプラクティスの共有に深く関与しています。そして、加盟国が健全な経済運営を行う能力を伸ばせるよう支援することにも、深く関わっています。

例えば、カンボジア中央銀行と協力して、その金融制度の近代化に取り組みました。また、国々が歳入確保を効率化できるよう支援しました。さらには、経済学のオンラインコースを無償で提供し、3万人近い人々が学習しました。こうした取り組みにIMFは国際的な経験を役立てました。

こうした事例は、国々がより包摂的で持続的な経済を築けるようにIMFが行っている能力開発支援の一部にすぎません。

こうした活動は、日本とのパートナーシップの中核をなしています。日本とIMFの「共通体験」の重要な構成要素なのです。

これは日本とIMFにとって、両者の絆を深める「学園祭」そのものです。そして、この学園祭は日本の美味しい食べ物だけを目的に行っているわけではありません。

過去30年間で日本は、IMFの能力開発活動のために、およそ6億ドルを拠出し、こうした資金は130か国を対象に利用されてきました。そして、アジアを中心とした国々が経済の転換を遂げる手助けをしてきたのです。

IMFに加盟する189か国を代表して、日本国政府に、そして日本国民の皆さまに、心からの感謝をお伝えしたいと思います。格別なご支援を賜りましたことに御礼を申し上げます。

日本からのご支援には、能力開発活動に対して直接頂戴しているものに加えて、IMFの業務全般をより広く対象としたものもあります。

ここ東京にIMFが設置したアジア太平洋地域事務所はアジアにおけるIMFの活動を支えてきました。本事務所は今年、設立20周年を迎えております。この期間、日本がこの地域事務所を一貫して応援してくださっていることを、私たちは特にありがたく感じております。

b) 世界経済とIMF

もちろん、IMFと日本の協力関係はアジアだけにとどまるものではありません。世界経済をも対象にしています。

持続可能な開発目標を達成するために一緒に進めている取り組みについて考えてみましょう。これは、低所得国を支援するために日本が行ってきた長年の取り組みを土台としています。もしくは、国際課税や資金洗浄、テロ資金供与との闘いに関する協力、または、気候変動対策を行う共通の責任について考えてみてください。

気候変動について言えば、バングラデシュやハイチ、ガボンのような年間平均気温が25℃の国で気温が1℃上昇すると、1人あたりのGDP1.5%近く減りかねないという試算をIMFは出しています。[2]

こうした問題も含めて、世界的な課題に取り組むためには、一層の国際協力が必要になります。私たちの共通体験から、国際協力が役に立つとわかっています。しかし、過去70年以上にわたり世界経済を支えてきた多国間制度をさらに強固なものにするために、私たちに何ができるでしょうか。

ひとつの方法としては、より優れた貿易協定を推進していくことです。例えば、日本と欧州連合の間で協定が予定されていますが、その協定では反トラストや企業統治、持続可能な開発に関する規定について、斬新なアプローチがとられるだろうと示されています。

私たちはまた、国際金融のセーフティネットを強化できるよう、取り組みにさらに力を入れています。これも日本とのパートナーシップのもとに進めています。

  • 金融危機の中で、日本は2009年にIMFの融資プログラムに1,000億ドルの拠出を行うことを確約し、他の国々もIMFの財源強化に協力するよう促されました。
  • 今、私たちは日本と一緒に、地域レベルの金融取極とのかかわりを深められるように取り組んでいます。これは、折り重なった国際的なセーフティネットが互いに切れ目なく確実に機能するように進めていくためです。

何よりも、私たちは国境を越えて手を差し伸べあうように、互いから学びあうように努力していますし、また加盟国にもそうするよう働きかけています。そして、こうした協力や学びあいは、国際会議やベストプラクティスの共有によってだけではなく、個人的な関係を通じても起こります。

例えば、IMFの同僚が日本の政府機関を訪問すると、必ずIMFで勤めた経験がある人々に出会います。なぜでしょうか。これは、過去10年間だけに限ってみても、150人ほどの日本人エコノミストIMFで勤務してきたからです。

そして、私自身が個人的にも日本とIMFの「共通体験」を一緒に積み重ねていることを誇りに思っています。

日本人の同僚の皆さんから私はたくさんのことを学びました。IMF職員のエコノミストや、貝塚正彰日本理事、マネジメントチームの同僚である古澤満宏副専務理事、また古澤氏の前任者の方々から多くのことを学んできました。

別の言葉で表現するならば、このパートナーシップは「心から心のコミュニケーション」のもとに、つまり「以心伝心」の関係の中で、築かれていると言えるでしょう。


IV. 終わりに

最後に、日本の古代からの道徳規範のひとつである「和を以て貴しとなす」[3]に触れて、締めくくりたいと思います。

この精神は日本社会や文化の中に深く根ざしており、また、日本とIMFの協力関係について、その本質を表すものでもあります。日本とIMFが築いた友人としての絆は、世界中の国々が互いに理解と信頼を深める上で、力となるでしょう。

私たちが一緒に手を携え、お互いを信頼することで、調和のある経済、つまり、全ての人々が恩恵を享受できる経済を生み出すことに貢献できるでしょう。

 

ご清聴、誠にありがとうございました。



[1] UBS/PwCビリオネアに関する報告 (UBS/PwC Billionaires Report) 2017

[2] IMF世界経済見通し3 (20179月、ワシントン)

[3] 1400年前に書かれた道徳規範より。

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