2019年対日4条協議の記者会見:クリスタリナ・ゲオルギエバIMF専務理事による冒頭挨拶

2019年11月25日

皆さんこんにちは。日本に来ると、いつも学ぶべき経験も楽しみも多いのですが、今回はIMFの専務理事としての新たな立場で来日しており、この場を借りて、関係各局の皆様のご支援とすばらしいおもてなしに感謝申し上げたいと思います。

日本は多国間主義の旗手であるとともに、マクロ経済および金融に関する世界的な懸念に対する取り組みにおいてのみならず、IMFが行っている加盟国の能力開発における主要な支援国として、IMFのかけがえのないパートナーとなっています。私たちは世界経済の現在と将来の課題に協力して取り組む中で、日本のリーダーシップに引き続き期待を寄せており、今後も緊密な協力を続けていきたいと強く望んでいます。

今回の来日の主な目的は、例年行っている対日4条協議への参加です。また、10月に起きた台風19号によってその深刻さを改めて実感したばかりですが、気候変動の危機に対する日本の取り組みについて直接学ぶ機会もありました。この場をお借りして、台風によって亡くなられた方々、被災された方々に心よりお悔やみを申し上げます。私たちの思いは日本の皆様とともにあり、日本政府の災害対応、そして最も重要な点として、国土強靭化をさらに促進する断固とした取り組みに私たちは勇気づけられました。また、昨日、首都圏の洪水対策システムを見学し、そこで私は、気候変動対策について世界は日本から多くのことを学ぶことができると実感いたしました。

それでは、本日のブリーフィングの主題である対日4条協議の結果に移ります。私はすでに麻生副総理、黒田日銀総裁、西村内閣府特命大臣との協議を終え、本日後ほど、安倍総理との会談を予定しています。お手元に「終了にあたっての声明」のコピーがあるかと思いますので、ここでは要点を絞ってお話いたします。

今年の対日4条協議の主なテーマは人口動態の変化、すなわち急速な高齢化と人口および労働力の減少でした。特に、最大のリスクをどのように見極めるか、また、人口構造の変化が生産性、経済成長、政府の歳入と歳出、金融安定性にもたらす課題への対策に焦点を絞りました。

日本の景気はこのところ堅調に推移しており、経済は底堅さを維持するものとみられています。IMFは、現行の政策下で、2019年の日本の経済成長率は実質ベースで0.8%になると予測しています。2020年は、外需が引き続き軟調で、輸出関連投資を減退させることから、実質GDP成長率は0.5%に低下する見通しです。これまでの指標等を見る限り、10月の消費税引き上げは政府の景気対策により円滑に実施されています。

日本の強靭性は今後、最も直近では世界的な景気の同時減速、中期的には世界経済の不確実性、および自国の人口動向によって試されることになります。IMFは、日本の成長率は潜在成長率の予測値である0.5%前後で推移すると予測しています。消費者物価上昇率は日銀の物価目標である2%に向けて緩やかな上昇傾向が続くものの、依然2%には届かないと予測されています。

こうした見通しには、いくつかの下振れリスクがあります。例えば、世界的な景気減速が予想以上に進み、不確実性が高まるリスクや、内需の短期的な持続力の軟化、長引く金融緩和策を背景とする金融安定性リスクの高まりなどがあります。また、日本は気候変動や自然災害への脆弱性が依然として高いことも挙げられます。

日本はこれらの課題と潜在的リスクをどのように安全に乗り切っていくのか。急激な人口動態の変化に立ち向かいながらも、より高い生産性と持続的かつ包摂的な成長を実現できるのか。関係各局との協議ではこれらが主な話題となり、そこで3つの要素が注目されました。

まず1つ目として、「アベノミクス」7年間の顕著な成果が明らかになっています。経済成長率は3年にわたり潜在成長率を上回っています。また、日本の一人当たりGDP成長率は他の先進諸国と比べて高く、可処分所得の不平等性は抑えられています。デフレリスクは沈静化しており、財政赤字は減少傾向にあります。失業率はきわめて低く、かなり多くの女性が労働市場に参加しています。しかし、この見通しをさらに改善できる余地は確実にあります。インフレ率は依然として日銀の目標を大幅に下回っており、公的債務は持続的な軌道にはまだ乗っておらず、家計所得は停滞した状況が続いています。

人口動態の変化、すなわち急速な高齢化と人口および労働力の減少は今後、これらの課題を悪化させる可能性があります。これらの課題に対処し、それも迅速に対処するためには、財政、金融、構造改革政策の抜本的見直しと協調が必要となってきます。アベノミクスを支える基本的な経済戦略はなお健全ですが、より持続可能で柔軟なものにし、加速させる必要があります。それぞれの政策要素が互いに互いを強化する形で、政策パッケージ全体として実施しなければなりません。

2つ目に、日本のマクロ経済の政策余地を再建することに注力する必要があります。現状では財政政策、金融政策がともに限界に近づいており、危機に対応する余地が狭められています。財政政策は短期的な成長を確保し、インフレの勢いを促すものでなければなりません。より長期的な視点では、長期的な財政の持続可能性に明確に取り組むことが不可欠です。財政の持続可能性をめぐる不確実性に対処することは、ひいては経済成長とインフレを促すことにもなり得るのです。

金融政策面では、日銀の緩和スタンスは引き続きリフレーションと成長を支えていく必要があります。同時に、金融安定性リスクの上昇を抑えるために、金融業界の監視を強化しなければなりません。

最後に、アベノミクスの3番目の矢である構造改革を再び活性化させることが不可欠です。労働市場改革が最優先事項であり、特に労働生産性、そして需要刺激による賃金や物価への波及効果を高めることに優先的に取り組む必要があります。重要な点として、アベノミクスの下で労働市場へ参加する女性が増加したことが挙げられますが、次のステップとして、女性がより活躍するために、より多くの研修やキャリアアップの機会が必要となります。その他の主な要因としては、コーポレートガバナンス改革の広がりと深化、貿易自由化の一層の促進、日本が持つ計り知れない生産性を解き放つ施策などがあります。

今後40年は、人口動態の悪化を背景に、日本の実質GDPは低下するとみられます。IMFの分析では、大胆かつ協調的な改革プログラムを導入すれば、こうしたリスクを大幅に抑え、実質GDPの低下分の最大15%を相殺できることが示されています。

話を終える前に、この場を借りて少し宣伝させてください。日本は人口動態の変化という点で他の先進国を先取りしています。多くの国々が自らの人口動態の課題にどのように対処するのかという点において日本を教訓にしようと注目しています。IMFのスタッフは、日本の人口動態の変化に伴う経済課題の分析に多大な時間と労力を費やしてきました。これらの作業を1冊の本にまとめ、来年刊行する予定です。取り上げるトピックのスニークプレビューについては、先程配布しました概要をご覧ください。

以上をもちまして、前置きのコメントを終了させていただきますが、何かご質問があれば、お答えいたします。

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