IMF理事会、2023年の対日4条協議を終了

2023年3月30日

ワシントンDC – 2023年3月22日:国際通貨基金(IMF)理事会は対日4条協議[1]を終了した。

日本経済は、世界経済の減速が外需の重しとなっているものの、国内需要に牽引されて回復を続けている。実質GDPは2022年に1.1%増加したが、引き続き2019年の水準(年間ベース)を下回っている。民間消費が回復を主導したほか、民間投資も持ち直している。工業生産は、ロックダウンに伴うサプライチェーンの制約が緩和したことに応じて、夏に力強く回復した。物価の総合指数の上昇率は、遅れて現れた一次産品価格高騰の影響や円安を含む外的要因により、4月以降は前年同月比で2%を上回っている。2022年の経常収支黒字は、一次産品輸入額の急増によって対GDP比2.1%に縮小した。2022年の対外ポジションは、中期的なファンダメンタルズと望ましい政策に概ね合致する水準にあると評価される。銀行部門は、自己資本比率と流動性比率が規制要件を上回っており、強靭性を維持しているが、金利リスクと信用リスクが高まっている。

ペントアップ需要とサプライチェーンの改善、国境再開、政策支援を受けて、短期的には経済回復が続く見通しである。経済成長率は、民間消費と企業設備投資に牽引され、2023年には1.3%に加速すると見込まれる。需給ギャップは2023年の早い時期に解消する見込みである。輸出は、供給制約の緩和と訪日観光客の回帰に伴い、増加するだろう。物価上昇率は、遅れて現れた円安の影響や国境再開を理由に、2023年の早い時期において一段と上昇し、その後再び鈍化すると見込まれる。基礎的財政赤字は、2022年10月の財政政策パッケージの導入を受け、2023年においても引き続き高水準だろう。経常収支黒字は、一次産品価格の下落と訪日観光客の増加により、2023年には平均で対GDP比2.9%に回復すると予測される。高齢化と人口減少は、引き続きマクロ経済の中長期的な主要課題となるだろう。

国内のリスクは均衡が取れているものの、外的要素は下振れリスクが大きい。成長の下振れリスクとしては、1) 地経学的分断と地政学的緊張の高まり、2) 世界経済の急減速、3) 一次産品価格の乱高下、4) 自然災害、5) サイバー攻撃の脅威などがある。さらに、現在の金融政策枠組みの何らかの突然の変更に伴い生じ得るリスクもある。成長の上振れリスクは、サービスを中心に消費がこれまで以上に力強く持ち直すことや、訪日観光客が予想以上に回復することなどである。物価上昇率に関しては双方向のリスクがあるが、短期的には上振れリスクの方が大きい。

理事会による評価[2]

理事らは、ペントアップ需要とサプライチェーンの改善、国境再開、政策支援に支えられ、回復が短期的に続くと見られることを歓迎した。理事らは、成長見通しが外的要因による大きな下振れリスクと長期的な構造的課題に左右される点に留意しつつ、短期的な政策においては2%の物価目標の持続的な達成と金融安定の維持に重点を置く必要があることに同意した。同時に理事らは、中期的な政策においては、財政の脆弱性を低減させ、より動的でデジタル化されたグリーンで包摂的な経済に移行することに重点を置く必要がある点を強調した。

理事らは、財政バッファーを再構築し債務の持続可能性を確保するためには成長に配慮した財政健全化が必要であること、また、それは基礎的財政赤字を減らし公的債務対GDP比を明確な下降軌道に乗せるための信頼性のある中期財政枠組みによって裏打ちされるべきであることを強調した。この文脈において、理事らは、パンデミック関連の財政支援策を適時に縮小すべきであること、また、財政健全化の取り組みには、脆弱な世帯へのより的を絞った財政支援など、歳入と歳出双方の措置を含むべきであることを強調した。

理事らは、2%の物価目標を持続的に達成するために緩和的な金融政策スタンスを維持することが引き続き適切である点で概ね一致した。理事の多くは、物価上昇率に関する双方向のリスクに留意しつつ、当局に対して、そうしたリスクをより良く管理し、長期化する金融緩和の副作用への対処の一助とするために、イールドカーブ・コントロール(YCC)の枠組みにさらなる柔軟性を持たせるための選択肢を検討することを奨励した。しかしながら、理事の多くは、金融緩和の時期尚早な解除を避ける必要性を強調し、現行の金融政策枠組みの維持が適切であるという点について当局と一致した。より一般的には、理事らは、金融政策の設定のいかなる変更についても、移行の円滑化を促進し金融安定を保護するために十分なコミュニケーションが必要になる点を強調した。また理事らは、為替介入は無秩序な市場環境を含めた特殊な状況下に限定され、為替レートがショックを吸収する主要なものとして引き続き機能すべきである点を強調した。

理事らは、金融部門が今年見られたいくつかの世界的逆風に対して強固であったものの、金利リスクと信用リスクが高まっており、これらを注意深く監視する必要があることに留意した。理事らは、金融脆弱性が顕在化した場合には、これらを抑制するために、マクロプルーデンス政策の適切な実施を検討することを推奨した。

理事らは、構造政策が所得の伸びを押し上げ、スタートアップを支援し、デジタル化を進め、気候目標を達成することに資するとの点に同意した。理事らは、労働市場政策が、より多くの女性と高齢者の労働力参加を促し、労働市場の二重構造を解消し、移動性を高めるものでなければならないという点に同意した。理事らは、デジタル庁に対して、引き続き公共部門のデジタル化に向けた政策を調整・実施することを奨励した。理事らは、炭素価格の引き上げが日本の成長に配慮した形での気候関連目標の達成に資する可能性がある点、またその際には最も脆弱な人々を保護するための措置や高排出産業から低排出産業への秩序ある移行を可能にするための措置を伴うべきである点を強調した。

1 日本主な経済指標(20192024)

2019

2020

2021

2022

2023

2024

推計

予測

(%変化)

成長率・伸び率

実質GDP

-0.4

-4.3

2.1

1.1

1.3

1.0

国内需要

0.0

-3.4

1.1

1.7

1.5

1.0

民間消費   

-0.6

-4.7

0.4

2.1

1.7

1.0

民間設備投資総額

0.2

-5.4

0.4

0.8

2.5

2.0

企業投資 

-0.7

-4.9

0.8

1.9

3.1

2.4

住宅投資  

4.1

-7.9

-1.1

-4.7

-0.8

0.0

政府支出 

1.9

2.4

3.5

1.5

0.1

0.5

公共投資 

1.9

3.4

-1.9

-7.1

1.4

0.4

在庫積増

-0.1

-0.5

0.2

0.5

-0.1

0.0

純輸出 

-0.4

-0.8

1.0

-0.6

-0.1

0.0

財・サービスの輸出

-1.5

-11.6

11.7

4.9

4.0

1.9

財・サービスの輸入

1.0

-6.8

5.0

7.9

4.3

1.7

GDPギャップ

0.7

-2.9

-1.6

-0.9

-0.1

0.2

(%変化、年平均)

物価上昇率

消費者物価指数(CPI)総合指数

0.5

0.0

-0.2

2.5

2.7

2.2

 GDPデフレーター

0.6

0.9

-0.2

0.3

3.8

2.6

(対GDP比)

政府

歳入

34.2

35.5

36.6

36.2

35.7

35.4

歳出 

37.3

44.6

42.8

44.0

42.1

39.4

財政収支 

-3.0

-9.1

-6.2

-7.8

-6.4

-4.0

基礎的財政収支

-2.4

-8.4

-5.6

-7.5

-6.2

-3.8

構造的基礎的財政収支

-2.6

-7.5

-5.6

-7.4

-6.2

-3.9

公的債務総額

236.4

258.7

255.4

261.3

258.2

256.3

(%変化、期末)

マクロ金融

ベースマネー

2.8

19.2

8.5

-5.6

2.3

3.8

ブロードマネー

2.1

7.4

2.9

2.7

5.5

4.0

民間部門への信用供与

3.2

6.1

1.8

4.6

2.4

2.0

非金融機関債務(対GDP比)

139.3

152.1

155.7

154.9

151.3

147.7

(%)

金利

無担保コールレート翌日物 (期末)

-0.1

0.0

0.0

0.0

10年物国債利回り(期末)

0.0

0.0

0.1

0.4

(10億米ドル)

国際収支 

経常収支

176.3

147.9

197.3

90.0

131.8

180.3

(対GDP比、%)

3.4

2.9

3.9

2.1

3.0

4.0

貿易収支

1.4

26.6

15.6

-117.8

-83.0

-25.6

(対GDP比、%)

0.0

0.5

0.3

-2.8

-1.9

-0.6

財輸出(FOB)

695.0

630.6

748.6

751.2

779.3

814.6

財輸入(FOB)

693.6

604.0

732.9

869.1

862.3

840.2

エネルギー輸入

131.9

89.1

127.8

194.0

162.3

152.1

(対GDP比)

対内直接投資(純額)

4.3

1.7

3.6

3.2

3.1

3.2

証券投資

1.7

0.8

-4.0

-3.4

-0.7

-0.8

(10億米ドル)

外貨準備高の変化

25.5

10.9

62.8

-47.4

11.5

11.5

外貨準備高(金を除く)(10億米ドル)

1286.3

1348.2

1356.2

1178.3

(年平均)

為替相場

円・ドル 

109.0

106.8

109.8

131.5

円・ユーロ 

122.0

121.9

129.9

138.6

実質実効為替相場(2010年を100とするULCベース)

75.2

75.3

73.0

62.0

実質実効為替相場(2010年を100とするCPIベース)

76.6

77.3

70.7

60.9

(%)

人口動態指標

人口増加率 

-0.2

-0.3

-0.3

-0.3

-0.4

-0.5

老年人口指数 

47.6

48.3

48.7

48.9

49.3

49.8

出所:Haver Analytics、経済開発協力機構(OECD)、日本政府当局、IMF職員の試算と予測。

 


[1] 国際通貨基金協定第4条の規定に基づき、IMFは加盟国との二者間協議を通常は毎年行う。IMF職員の代表団が協議相手国を訪問し、経済や金融の情報を収集するとともに、その国の経済状況や経済政策について政府当局と協議する。本部に戻った後、代表団のメンバーは理事会での議論の土台となる報告書を作成する。

[2] IMF理事会の議長である専務理事は、議論終了時に結論を理事会の見解として要約し、その要約が当該国の政府当局に提出される。専務理事による総括で使用される修飾語句の定義については次のリンクを参照:http://www.IMF.org/external/np/sec/misc/qualifiers.htm.

IMFコミュニケーション局
メディア・リレーションズ

プレスオフィサー:

電話:+1 202 623-7100Eメール: MEDIA@IMF.org