第51回国際通貨金融委員会(IMFC)議長声明(仮訳)
2025年4月25日
4月24日及び25日にワシントン D.C.で行われた第51回IMFC 会合において、IMFC メンバーは、安定を回復し、持続可能な成長を促進するために平和が不可欠であることを認識しつつ、戦争及び紛争を終わらせるための現在進行中の努力を歓迎した。IMFC メンバーは、全ての国が国連憲章の目的及び原則に全体として整合的な方法で行動しなければならないことを再確認した。 IMFC メンバーは、しかし、IMFC が、他のフォーラムで議論されている地政学的及び安全保障問題を解決するフォーラムではないことを認識した。
世界経済は重要な岐路にある。数年にわたる貿易に関する高まる懸念を受け、貿易の緊張は突如として上昇し、不確実性や市場のボラティリティ、成長と金融安定へのリスクを高めている。短期的には成長鈍化が予測されており、深刻化する下方リスクが見通しを支配している。我々は、経済的強靭性を強化し、より繫栄した将来を築くための努力を加速する。我々は、我々がこの困難な環境で舵取りができるよう助ける、信用のおける助言者ならびに強固な政策枠組の推進者としてのIMFの重要な役割を強調する。我々は、サウジアラビア・ディリヤにおいて2025年4月6日-7日の代理級会合でIMFの中期的な方向性について議論した我々の代理に感謝し、本声明に付属するディリヤ宣言に合意する。
- 世界経済は重要な岐路にある。数年にわたる貿易に関する高まる懸念を受け、貿易の緊張は突如として上昇し、不確実性や市場のボラティリティ、成長と金融安定へのリスクを高めている。貿易政策やその他の政策にかかる主要な経済国の重大な転換が貿易や資本フローの流れを組み替えており、それは不確実性の高まりや市場のボラティリティにつながっており、世界経済や金融の安定に対するリスクは大幅に増加している。短期的には成長鈍化が予測されており、インフレ率の鎮静化は続くもののそのペースは低下すると予想されている。すでに低成長かつ高い公的債務の困難な状況下で、増加する下方リスクが見通しを支配している。戦争及び紛争は、甚大な人道的並びに経済的な犠牲をもたらしている。デジタル化や人工知能、人口動態の変化、気候移行といった変革の力は、機会を生む一方、課題をももたらしている。
- 我々は、より繁栄した将来を築くため、経済的強靭性を強化し、変革の力を活用しつつ低成長かつ重債務の道筋から抜け出すための我々の努力を強化する。民間部門主導の成長や生産性、雇用の創出を加速するためには、包括的かつよく調整され、よく順序付けられ、よく意思疎通された改革と政策対応が必要である。我々は、ビジネス環境を改善し、過度な規制を合理化し、腐敗と戦い、技術革新と技術導入を動員するため、健全なマクロ経済政策を追求し、構造改革を進める。我々は、債務持続性を確保し、必要な場合のバッファー再構築のために、成長に配慮した財政調整に向けた転換を深化させる。財政調整は、それぞれの国の状況を踏まえ、公共支出の効率性を強化し、脆弱層を保護し、成長を加速する政府部門並びに民間部門の投資を支援しつつ、分配上の影響に留意し、また信頼に足る中期の財政健全化計画に支えられるべきである。中央銀行は引き続き、それぞれのマンデートと整合的に、物価の安定を維持することに強くコミットしており、データに基づきかつ明確に意思疎通を行う形で、政策を引き続き調整する。我々は引き続き、イノベーションの恩恵を活用しながら、金融の脆弱性と金融の安定に対するリスクを注意深く監視し、必要に応じて対処する。我々は、世界経済の強靭性を向上し、繫栄を構築し、国際通貨システムの安定と効果的な機能を確保するため協働する。我々はまた、過度の世界的な不均衡に対処し、開かれた、公正かつルールに基づく国際経済秩序を支え、サプライチェーンの強靭性を強化するために協働する。我々は、2021 年4 月の為替相場についてのコミットメントを再確認する。
- 我々は、各国が改革を実施し、債務の脆弱性及び債務返済への課題に対処する中、これらの国々への支援を継続する。我々は、最近の政府開発援助の減少により一層複雑化している、脆弱国及び紛争の影響を受けた国(FCS)や、小規模開発途上国(SDS)を含む、低所得国・脆弱国が直面する特定の課題を認識する。我々は、「貧困削減・成長トラスト(PRGT)」の重要性を強調する。我々は、G20 の「共通枠組」(CF)及びそれ以外の下での債務措置の進捗を歓迎する。我々は、予測可能で、適時に、秩序立ち、かつ連携した方法で「共通枠組」の実施を強化することを含め、効果的、包括的かつ体系的に国際的な債務脆弱性に対処するとともに、債務の透明性を向上することに引き続きコミットする。我々は、「公的債務にかかるグローバルラウンドテーブル」における、債務の脆弱性と債務再編の課題に対処する方法についての更なる作業に期待する。我々は、IMF と世銀が、成長を促進させる改革の実施、国内資金の動員、及び民間資本の誘引等への支援を通じて、持続可能な債務を有する国の債務返済圧力に対処するための「3本柱のアプローチ」の実施を前進させることを奨励する。我々は、「低所得国向け債務持続可能性枠組み(LIC-DSF)」の見直しに期待する。
- 我々は、専務理事のグローバル政策アジェンダ(GPA)を歓迎する。
- 我々は、サーベイランスの焦点を、分析の精緻さ、公平さ、状況に応じた政策助言といった観点からさらに磨くことを支援する。我々は、生産性を増加させ、マクロ的に重要なリスクに対処し、過度な不均衡を減少させ、債務持続性を達成し、混乱をもたらす資本フローや為替レートのボラティリティを和らげることで、各国の経済強靭性の強化、マクロ経済・金融の安定、及び持続可能な成長の達成を助けることに、強固に焦点を当てることを歓迎する。我々は、将来のサーベイランスの優先事項や方法を設定する「包括的サーベイランスレビュー」、そして、金融安定性に対するリスクの進展に、金融のサーベイランスの歩調を合わせるための、「金融セクター評価プログラムのレビュー」に期待する。
- 我々は、IMF支援プログラムの効果を更に高めるための、「プログラムデザインとコンディショナリティのレビュー」そして、「短期流動性ラインのレビュー」に期待する。また、地域金融取極(RFAs)の役割や、その世界的な金融の安定を保全する能力を含む、グローバル金融セーフティ・ネットの評価にも期待する。
- 我々は、能力開発(CD)を更に強化し、資金の持続可能性を確保するための努力を支持する。我々は、「共同国内資金動員イニシアティブ」に基づく、世界銀行と共同したIMFの進行中の取組を歓迎する。我々は、2024年の「能力開発戦略レビュー」で示された、政策アドバイスやプログラムデザインとより統合的な、より柔軟で状況に合わせた提供を歓迎する。
- 我々は、グローバル金融セーフティ・ネットの中心にあり、強固で、クォータを基礎とし、かつ、十分な資金基盤を有するIMF への我々のコミットメントを再確認する。我々は、「第 16 次クォータ一般見直し」の下でのクォータ増資への同意に係る国内承認を進めており、このプロセスのできる限り早期の完了に期待する。我々は、クォータシェアの調整は、最も貧しい加盟国の発言権を守りつつ、加盟国の世界経済に占める相対的な地位をより良く反映させることを目的とするべきであると認識する。しかし、我々は、加盟国の中でクォータならびにガバナンス改革について合意形成には、段階的な進展が必要であることを認識する。この観点から、我々は、今後の道筋に関する、付属の「ディリヤ宣言」に合意する。
- 我々は、我々がこの困難な環境で舵取りできるよう助ける、信用のおける助言者ならびに強固な政策枠組みの推進者としてのIMFの重要な役割を強調する。我々は、IMFへのコミットメントを再確認し、IMFがパートナーや他の国際金融機関と協働しつつ、機動的で、焦点の絞られた機関であり続けることを確保するための更なる方法に関する議論に期待する。我々は、スタッフの、加盟国を支援する質の高い取組と献身への感謝を改めて強調するとともに、スタッフの地位における地域的なあるいは女性の代表性、また、理事会や理事会の指導的な地位における女性の代表性を向上するための更なる努力を奨励する。
- 次回IMFC 会合は、2025 年10月に開催される予定である。
付属文書:ディリヤ宣言
「我々は、IMF80 周年における IMF への強固なコミットメントを改めて強調するとともに、IMF が将来の課題に対応するために、そのマンデートに沿って、パートナー及び他の IFIs(国際金融機関)との協力の下、十分な機能を備え続けることを確保するための方法に関する、次回会合における更なる議論に期待する。我々は、我々の代理がこの議論に備えることを求める。」と述べた、2024年10月のIMFC議長総括を想起する。そして、
歴史的な町である、サウジアラビア王国のディリヤにおいて、2025年4月6日-7日に、この議論を準備するために集まった代理が、前進させた取組を踏まえ、
我々は、我々の代理に感謝し、また、IMFCプロセス、IMFのクォータ及びガバナンス改革に係る今後の道筋に関する以下の「ディリヤ宣言」に合意する。
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IMFCプロセスの向上
我々は、IMFCが、IMFのガバナンス構造において重要な役割を果たしており、よく構成され、ハイレベルで、全ての関連する論点に係るコンセンサスに基づく政策ガイダンスを通して、IMF総務会に信頼できる助言を提供し、IMFの取組と政策に係る戦略的な方向性を提供しているという点に合意する。
IMFCのより効果的な関与と複雑な課題に対するコンセンサス形成に向けたフォーラムとしての効果を高めるため、我々は、さらにIMFCプロセスを強化することに合意する。
このため、我々は、IMFC導入セッションの形式に係る直近の改善及び、IMFCの重要なメッセージをより幅広い聴衆に一層効果的に届ける観点からの簡潔かつアクセスしやすいコミュニケの使用を歓迎する。
さらに、我々は、代理級会合が、日常的ではなく、より戦略的な論点に集中することが、IMFC総務の取組を助け得るという点に合意する。
我々は、協働を高め、国際通貨システムの強靭性を強化するための、地域金融取極(RFA)を含む国際金融アーキテクチャをまたぐ関与の価値を評価する。
IMFのガバナンス強化
我々は、現在、世界経済が重大な課題に直面していることに留意し、IMFが国際協力において、厳格な分析に基づく政策議論に係る、長く確立され、信頼された機関として、不可欠な貢献をしていることに合意する。我々は、マクロ経済と金融の安定を促進するというIMFのマンデートは、引き続き妥当であり、分析や政策助言、能力開発、及び、適切な場合には、資金支援を通して、加盟国がマクロ経済上の課題に対処することを助けるという役割が、重要であることを強調する。我々は、この機関が、グローバル金融セーフティ・ネットの中心として、そのマンデートを果たすために、強固で、クォータを基礎とし、十分な資金基盤を有し、かつ、効率的に運営されることを確保する必要性に合意する。
我々は、強固で、包摂的で、代表性のあるガバナンス枠組みは、多様な加盟国の間におけるIMFの信頼性と正統性を維持する上で基礎となることに合意する。IMFのガバナンス強化は、グローバル課題への対処における加盟国間での合意形成を効果的に促進する継続的な能力を支える。これらの努力は、多国間主義と国際協力を促進するためにもまた、不可欠である。
ガバナンス改革の戦略的重要性を踏まえ、我々は、合意に向けての進展は、段階を踏むべきであると認識する。この文脈で、我々は、第一歩として、将来の議論を導き、見解の収斂を促進するための一連の一般的な原則を策定することに合意する。これらの原則にかかる取組は、「第17次クォータ一般見直し」の下によるものも含む、将来的なクォータ一般見直し(GRQs)の効率的な進展を確保することを助けるため、適時に完了されるべきである。
このような指針となる原則の確立は、ガバナンスの変更が、段階的で、広く受け入れられ、全ての加盟国の利益を反映し、IMFの財務健全性を維持するものとなるよう確保することを助ける。
今後の道筋
我々は、「第16次クォータ一般見直し」の完了が優先事項であることに合意する。我々は、クォータシェアの調整は、最も貧しい加盟国のクォータシェアを守りつつ、加盟国の世界経済に占める相対的な地位をより良く反映させることを目的とすべきである旨を認識する。「第17次クォータ一般見直し」を含む、将来的なガバナンス改革に係る合意形成のため、理事会に、2025年4月6日-7日にサウジアラビア王国のディリヤで行われた IMFC代理級会合での討議を踏まえた、IMFのクォータ及びガバナンスに係る将来的な議論を導くための一連の原則を、2026年春会合までに策定することを求める。我々は、次回会合において本取組の進捗状況を議論することを期待する。我々は、我々の代理に、この議論に備えることを求める。
国際通貨金融委員会
参加者一覧
2025年04月25日(金) ワシントンDC
議長
ムハンマド・アルジャドアーン、財務大臣、サウジアラビア王国
専務理事
クリスタリナ・ゲオルギエバ
委員会
アイマン・アルサヤリ、総裁、サウジアラビア中央銀行(ムハンマド・アルジャドアーン、財務大臣、サウジアラビア王国 -代理)
ムハンマド・ビン・ハディ・アル・フッセイニ、財務大臣、アラブ首長国連邦
エドガー・アマドール・サモラ、大蔵公債大臣、メキシコ
スコット・ベッセント、財務長官、アメリカ合衆国
エドワ・ノーマン・ビゲンダコ、総裁、ブルンジ中央銀行
ルイス・カプート、経済大臣、アルゼンチン共和国
ティフ・マックレム、総裁、カナダ銀行(フランソワ=フィリップ・シャンパーニュ、財務大臣、カナダ ―代理)
崔相穆(チェサンモク)、経済副首相兼企画財政大臣、大韓民国
ジャンカルロ・ジョルゲッティ、経済・財務大臣、イタリア
ガブリエル・ガリポロ、総裁、ブラジル中央銀行(フェルナンド・アダジ、財務大臣、ブラジル -代理)
ヤン・ヤンボン、副首相兼国営宝くじ・連邦政府文化機関担当財務・年金大臣、ベルギー
加藤勝信、財務大臣、日本
ダニエラ・シュトッフェル、連邦財務省国際金融庁長官、スイス(カリン・ケラー=ズッター、財務大臣、スイス連邦 -代理)
レセチャ・クガニャゴ、総裁、南アフリカ準備銀行
イェルク・クキース、連邦財務大臣、ドイツ連邦共和国
フランソワ・ビルロワドガロー、総裁、フランス銀行(エリック・ロンバール、経済・財務・産業及びデジタル主権大臣、フランス共和国 ―代理)
アデバヨ・オラワリ・イーデン、財務大臣兼経済担当調整大臣、ナイジェリア連邦共和国
潘功勝、総裁、中国人民銀行
レイチェル・リーブス、財務大臣、英国
パベル・スニソレンコ、財務省国際金融関係局長、ロシア連邦(アントン・シルアノフ、財務大臣、ロシア連邦 -代理)
シャクティカンタ・ダス、総裁、インド準備銀行(ニルマラ・シタラマン、財務大臣、インド -代理)
メフメト・シムシェキ、国庫・財務大臣、トルコ共和国
サラー=エディヌ・タレブ、総裁、アルジェリア中央銀行
ペリー・ワルジヨ、総裁、インドネシア中央銀行
イーダ・ウォルデン・バーチェ、総裁、ノルウェー中央銀行
オブザーバー
アグスティン・カルステンス、総支配人、国際決済銀行(BIS)
エリサベト・スヴァントソン、議長、合同開発委員会、及び財務大臣、スウェーデン
クリスティーヌ・ラガルド、総裁、欧州中央銀行(ECB)
ヴァルディス・ドムブロフスキス、経済・生産性担当委員、欧州委員会(EC)
クラース・クノット、議長、金融安定理事会 (FSB)及び総裁、オランダ中央銀行
セレステ・ドレイク、事務局次長、国際労働機関 (ILO)
マティアス・コーマン、事務総長、経済協力開発機構(OECD)
モハナッド・アルスワイダン、石油研究局経済アナリスト、石油輸出国機構 (OPEC)
アヒム・シュタイナー、国連開発計画(UNDP)総裁、国際連合
レベッカ・グリンスパン、事務局長、国連貿易開発会議 (UNCTAD)
アジェイ・バンガ、総裁、世界銀行グループ(WB)
ンゴジ・オコンジョ・イウェアラ、事務局長、世界貿易機関 (WTO)
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