国際金融安定報告書: 要旨
Global Financial Stability Report, October 2017
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- Published: October 2, 2017
概要
- 当面のリスクは低下しているが、脆弱性の蓄積が成長を脅かすおそれがある。
- 異例の政策対応、金融規制強化、景気循環の改善により国際金融システムは強靱さを増している。
- 世界的に経済活動は上向いており、市場センチメントの向上が金融不安定化リスクの低下に寄与している。
金融政策正常化を巡る二側面
- 中央銀行や金融市場の基本シナリオでは、インフレ率は徐々にしか上昇しないと予想され、緩和的な金融政策スタンスの継続が前提。
- 金融政策の正常化は緩やかに進展し、完了には数年を要すると見込まれている。
- 調整過程での急激・タイミングの悪い資金移動は市場と国境を越えて混乱を伝搬させるリスクがある。
- 一方で、主要国が緩和を継続すれば金融部門での行き過ぎたリスク蓄積が助長される恐れがある。
利回り志向の高まりとノンバンクへの脆弱性シフト
- 世界全体の投資適格債券のうち、4%以上の利回が確保できるものはわずか5%(1.8兆ドル)であり、危機前の80%(15.8兆ドル)から減少。
- 利回り資産への投資を求める多額の資金が流入する結果、投資家は高い信用・流動性リスクを許容し、伝統的でない投資対象を物色している。
- ノンバンク部門に脆弱性がシフトしており、市場リスクが高まっている。
債務水準と脆弱性(主要国・G20)
- 主要国での債務残高は上昇を続けている。
- G20諸国全体で見ると非金融部門のレバレッジは金融危機以前に比べ高水準にある。
- 金利水準自体は低下しているにもかかわらず、いくつかの主要国では民間部門の債務返済比率は上昇。
- 債務返済負担と債務水準が既に高水準にある主要国の例として、オーストラリア、カナダ、中国、韓国が挙げられる。
中国のレバレッジ解消を巡る課題
- 銀行部門の資産は2012年末にGDPの240%であったが、今や310%に増加。
- 短期の市場性資金への依存の高まりとシャドー・バンキングの拡張により銀行部門の脆弱性が高まっている。
- 当局は金融面でのタイト化と成長率の低下とのバランスをとることが求められる。
- 与信の増加スピードを抑えない限り、システムの脆弱性への対応は困難である。
国際的な銀行の健全性
- グローバルなシステム上重要な銀行(global systemically important banks = GSIB)の健全性は改善傾向。
- GSIBでは自己資本と流動性バッファの向上、バランスシートの改善が見られる。
- GSIBの約1/3はビジネスモデル転換に困難を抱え、その資産総額は17兆ドルに達する。
- これらの銀行では2019年に至っても持続可能とされる利益水準が確保できない状況が続くと見込まれる。
- 生命保険会社については、伝統的なリスクテイクの削減や高水準の保証利回りを伴う商品の販売削減などの対応が進行中であり、監督当局は市場及び信用リスクへのエクスポ−ジャーに注意すべきである。
想定される悲観的シナリオと影響
- リスクプレミアムが上昇すると信用コストが高騰し、資産価格が下落し、新興国から資金が流出するシナリオを分析。
- この国際的な金融環境のタイト化により、経済の下落は世界金融危機時の約1/3の規模に達し得ると予想。
- 世界GDPはWEOの基本シナリオに対して1.7%低下すると見込まれる。
- この場合、米国の金融政策正常化プロセスは中断され従前の緩和策が復活する可能性がある。
- 新興市場国では、4四半期累計でポートフォリオ投資が約1,000億ドル減少すると予想される。
- 銀行資本の毀損はレバレッジが高い国や住宅及び企業部門へ信用供与が多い国で大きくなる可能性がある。
政策当局への主要勧告(予防的措置)
- 先進国:残存する問題を完全に清算し、銀行及び保険会社のバランスシート強化を求める。
- 国際的に業務を展開する銀行の破綻処理制度を運用可能にすること。
- 銀行に対し持続可能な利益水準の確保を求め、バーゼルIII規制を確定させること。
- 生命保険会社の規制体系は経営状態の透明性を高め、体質強化のインセンティブを充実させる方向で改革。
- 主要中央銀行は保有債券の縮小プランに関し十分なコミュニケーションを図り、政策遂行の枠組み変更に関するガイダンスを与えること。
- マクロプルーデンス政策の活用と充実:過熱業種では債務者側規制の導入・強化、ストレステストでより厳しい資産価格低下を織り込むこと、脆弱な債務者への融資が多い銀行に自己資本の積み増しを要求。
- ノンバンク部門の規制強化:リスクのノンバンク部門への移転抑制、資本市場からの過度な資金調達防止、自己資本に重点を置いた保険会社の統一的な規制導入、レバレッジの高い業種へのミクロプルーデンス規制強化。
- 過剰債務への対応:大口借り手を優先的に対応し、事業上の投資を奨励しつつ借入れを抑制。
- 新興市場国:現下の良好な対外環境を活かし体力を強化(対外ポジション改善、企業部門のレバレッジ引下げ等)、中期的な債務管理戦略の策定など制度的基盤の整備。
- 中国:与信の増加スピード抑制、銀行システムのリスク管理と透明性改善、シャドー・バンキングに伴う期間・流動性ミスマッチ抑制、財務状況の悪い銀行のバランスシート上のリスクへの対応。
- サイバー攻撃への耐性強化のため国際的な協調が必要。
家計債務の増加と経済成長(第2章の要点)
- 家計部門の債務対GDP比は先進国で1980年の35%から2016年に65%へ上昇。
- 新興市場国では1995年の5%から2016年に20%へ上昇。
- 家計債務の上昇は短期的には成長を加速させるが、中期的にはマクロ経済及び金融の不安定化リスクを高める。
- 家計債務の増加は短期での成長と失業率の改善と並行するが、3から5年後には逆転する傾向がある。
- 家計債務の拡大が速いと銀行危機発生の可能性も大きくなる。
- 個別国の制度により悪影響は緩和可能であり、改善策としてマクロプルーデンス政策、金融監督規制の強化、対外借入依存度の低下、弾力的為替相場、所得格差の縮小が有効。
金融市場の状況から将来の成長率を予測する(第3章の要点)
- 金融市場の状況を将来のGDP成長率の確率分布に関連づける新たなマクロ指標を開発し、21の主要国に適用。
- リスクプレミアム拡大、資産価格ボラティリティ上昇、グローバルなリスクアペタイト減少は近い将来の成長低下リスクを高める。
- レバレッジ拡大や与信の伸びは中期的な成長低下リスクのシグナル。
- 現状は資金調達コストと金融市場のボラティリティが低い一方、レバレッジ上昇は将来的リスクを示唆。
- リアルタイムデータによる検証では、金融の状況を含めたモデルの方が経済の縮小の可能性をより的確に予測できた。
結論・総括
- 今後の最大の課題は、世界的な経済回復を金融政策が支え続ける中で金融面での脆弱性の高まりを回避すること。
- 政策当局は現状に安住することなく、残存する負の遺産の解消、ノンバンク部門のリスク抑制、バーゼルIII等の規制完了、マクロプルーデンス政策の充実、構造改革と補完的財政政策による成長強化に取り組むべきである。
国際金融安定報告書: 要旨(2017年10月)
Content in this bundle
- 家計債務の上昇:経済の成長と安定への影響は?
- 景気後退の予測と政策対応
- 金融の安定性は改善しているが、脆弱性が成長を脅かすおそれがある 2017年10月11日