変わりゆく地政学的基盤
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- Authors: Pierre-Olivier Gourinchas
- Published: June 30, 2022
戦争の経済的衝撃
- ロシアによるウクライナ侵攻は国際関係に新たな時代をもたらし、世界経済秩序に重大な影響を与えている。
- 侵攻開始から3日目にして、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国のG7各国はロシアに対して多岐にわたる経済制裁を実施し、まもなく他の国もこれに続いた。
- IMF予測の被害概算:
- ウクライナの2022年の経済成長率:マイナス35%
- ロシアの2022年の経済成長率:マイナス8.5%
- 主要伝播経路(地震波に喩えた影響の広がり):
- 一次産品価格の急騰(石油・天然ガス、金属、穀物など)
- 貿易ルートの寸断と供給網の混乱(特にコーカサス諸国、中央アジア、東欧、バルト三国)
- 難民・避難民危機:侵攻開始から3か月も経たずにおよそ600万人がウクライナから避難
- 多くの国で経済低迷と金融環境のタイト化(先進国の予想より速い金融引き締めも間接要因)
地政学的基盤の変化と通貨体制
- 著者は今回の変化を「地政学的基盤」(地震でいうプレート)の突如の変化と表現し、世界経済が別々のブロックへ分断されるリスクを指摘している。
- 新興市場国(とりわけ中国)による存在感の増大が、世界経済の力学を変えている。過去40年間の国際貿易と経済成長の拡大は世界が分裂しなかったことの結果である。
- 米ドルの地位に関する主要論点:
- 米ドルの優位性は絶対的かつ有機的である一方、最終的に脆弱であると指摘。
- 1971年のドルと金の兌換停止以降もネットワーク効果、絶対的流動性、米国財政の安全性がドル優位を支えてきた。
- 世界経済成長に占める米国の割合が縮小するにつれ、米国が永久に世界唯一の安全資産供給国であり続けることはできない。著者はこれを「新・トリフィンのジレンマ」と呼ぶ。
- 体制移行のシナリオ例(提示された対極的結末):
- 世界が別々のブロックに分断されるケース:世界規模が縮小し、効率性が下がり、トリフィンのジレンマが解消される可能性。
- 世界経済体制が統合を保つケース:複数準備通貨間の相互作用や調整のあり方は不明確。
外貨準備と制裁の影響
- ロシア中央銀行の外貨準備に対する前例のない凍結措置は、新たな国際的局面を生み出している。
- 凍結の狙いと影響:
- 「要塞ロシア」と呼ばれるロシアの金融・経済防御壁は、2014年クリミア侵攻以降に構築された。
- ロシアは莫大な戦費に外貨準備(ロシアGDPの37%に相当)を充てることで制裁に耐えるはずであったが、外貨準備の大半が凍結されたことで継続的なエネルギー輸出に大きく依存するという重大な弱点が露呈した。
- 中央銀行への制裁を契機とする地政学的考察:
- ドル建て準備の有用性に疑問が呈され、将来的に外貨準備の使途に制約が課されるとの予想がドル建て資産離れを引き起こす可能性がある。著者はこれを「地政学的なトリフィンのジレンマ」と表現している。
IMFの役割と政策含意
- 地政学的二極化が進む環境下でのIMFの課題:
- 世界経済の統合を推進する国際機関として、IMFが分断された世界で機能することはますます困難となる。
- 都合の良い場しのぎの対応(加盟国の一部に注力する)では現在の歴史的困難に対応できない可能性がある。
- 著者の提言的立場(政策的含意):
- 世界が分断されると不安定化と脆弱化が進み、安全資産へのアクセスが限定的になり、国際金融セーフティネットの包括性が低下する。
- そのような世界ではIMFの必要性は高まるため、IMFは財政支援と専門知識を必要に応じて提供し、すべての加盟国を支え、責任を負う使命を追求すべきである。
- 地政学的基盤の乖離が始まる時には、それらをつなぎとめる橋をこれまで以上に築いていく必要がある。
出典: ピエール・オリヴィエ・グランシャ, 変わりゆく地政学的基盤, 2022年6月, IMF
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