先進国と新興市場国を問わず、この10年半の間に、各国政府は特定の企業や産業に対する新たな支援をますます展開してきた。
通称「産業政策」は、生産性の伸びの促進、製造業の雇用の保護、サプライチェーンの強靭性と自立性の向上、経済の多様化に向けた新興産業の発展など、さまざまな目的で使われている。例えばエネルギー部門では、石油・ガス輸入への依存を減らすために産業政策を活用した国もある。
こうした政策は、国内産業の活性化や経済構造の変化に寄与する。しかし、最新の「世界経済見通し(WEO)」の分析章で示しているように、押し上げ効果は保証されておらず、政府予算と経済効率の両面でコストを伴う可能性がある。経済モデルとケーススタディ、実証分析を用いたわれわれの研究によれば、産業政策には、各国が考慮すべきトレードオフがある。
それでは、各国はどのようにして産業政策を設計し、その効果を最大化し、関連するトレードオフを抑えられるだろうか。
対象部門への影響
まず、産業政策の有効性は、事前に判断することが難しい業界固有の特性に左右される。われわれのシミュレーションでは、生産高と共に生産性が上昇する場合、産業政策が国内部門の成長に寄与することを示している。これは、労働者がスキルを身に付けたり、業界の規模が拡大してより効率的になったりすることを反映しているのだろう。
各国は、戦略的産業における国内生産を促進するために、補助金と貿易保護を組み合わせて活用できる。原則として、産業政策による早期の支援は、経験を重ねるにつれて効率性が上がる部門において、ダイナミックな押し上げ効果と長期的な生産性の向上が見られる。こうした部門は、実践で学び、生産量が増えるにつれて生産コストが下がるため、世界的に競争力を有するようになる。
しかしながら、こうした産業政策は大きなトレードオフを伴う。消費者が長期にわたって価格上昇に直面することと、政府が多額の予算コストを負担することである。また、結果は、予測が困難な業界固有の特性に左右されるため、成功が保証されているわけではない。企業があまりにも遅れていたり、習得が遅すぎたり、国内企業が輸出などを通じて大きな市場に容易にアクセスできなかったりすると、技術的に追いつくことができないこともある。
最近の産業政策の効果に関するわれわれの分析は、産業政策が実証的に、とりわけ強固な制度を持つ国において、対象産業の経済的成果の向上と関係していることを示唆している。しかし、利益は小さい。
産業への直接補助金は、資本蓄積と雇用の増加を反映して、導入後3年で付加価値が約0.5%改善し、全要素生産性が0.3%向上する。サンプル産業における平均付加価値の伸び率が年間6.5%、全要素生産性の伸び率が年間約4%であるのに比べると、直接補助金の効果は控えめである。
さらに、以前のIMFの分析では、全体的なビジネス環境を改善し、すべての企業の融資アクセスを向上させるための構造改革を行う方が、より大きな利益が得られうることが再確認されている。
全体の影響
産業政策は、特定の産業を助けることができる一方で、それをより広範な経済的利益に変換することは困難な場合がある。
IMFの多部門・多国間定量モデルは、雇用と生産性、生産量のすべてが、対象産業で改善することを示している。しかし、対象でない部門から資源が奪われるため、そうした対象外部門は縮小して生産性を失うことになり、集計生産性に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、支援対象の優先部門が後押しされ、その強靭性と独立性を高めることができるとしても、資源配分の歪みが生じ、全体的な成果が阻害され、経済が悪化する可能性があることをIMFの分析は示唆している。
政策の調整
われわれの分析は、産業政策を慎重に設計・実施することの重要性を浮き彫りにする。各国政府は、特に債務が高水準にあり財政余地が限られている場合には、無駄な支出のリスクを考慮する必要がある。特定の産業を対象としたり大きな財政コストを伴ったりせずに経済的成果を押し上げることが多い経済全体の改革と、産業政策の機会費用を、比較検討しなければならない。また、トレードオフを、明確に認識・管理する必要がある。本章の焦点ではないが、大規模な産業政策は、国境を越えた波及効果をもたらし、貿易相手国による報復措置を招く可能性もある。
産業政策を追求する国は、強固な制度的・マクロ経済的枠組みに裏打ちされた、政策の評価と再調整を定期的に行うためのメカニズムを採用するべきである。政策当局者は、国内外で競争を促すことで市場の規律を促さなければならない。
そうすれば、財政の持続可能性や経済の効率を損なうことなく、産業政策が目的を果たす可能性が高まるだろう。
同ブログ記事は、2025年10月「世界経済見通し(WEO)」の第3章「産業政策:成長と強靭性の促進に向けたトレードオフの管理」に基づく。本章は、シェカ・アイアー、ヒポリト・バリーマ、メディ・ベナティア・アンダルーシ、トーマス・クローエン、ラファエル・マチャド・パレンテ、キアラ・マッジ、石鈺(シー・ユイ)、セバスチャン・ヴェンデが執筆を担当した。シュリハリ・ラマチャンドラおよび徐雅柔(シュー・ヤジョウ)が調査に協力した。



