Credit IMF Photo/Johis Alarcón

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世界経済、関税ショックにひるまず テクノロジーがけん引する投資ブームで

しかし、テクノロジー銘柄の集中投資や、徐々に蓄積し得る貿易の混乱の影響など、リスクが高まっている。

世界経済の成長率は、米国が発端となった貿易関連の大きな混乱や、不確実性の高まりに直面しながらも、引き続き底堅い。最新の予測によると、今年の世界経済の成長率は3.3%と、安定的に推移すると見られており、10月の予測から0.2%ポイント上方改定された。改定要因の大部分は米国と中国だった。世界経済が、関税ショックの直近の影響を受けずに推移する中、IMFの最新の経済予測は前年と概ね変わっていない。

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 この予想外の力強さは、貿易摩擦の緩和、予想以上の規模の財政刺激策、緩和的な金融環境、貿易の混乱を緩和した民間部門の機動性、新興市場国を中心とする政策枠組みの改善、といった要因が重なったことを反映している。
 このレジリエンスのもうひとつの主要因は、人工知能を中心とする情報技術部門への投資が引き続き急増していることである。製造業の活動が依然として低迷する中、米国の経済生産高に占めるIT投資の割合は2001年以来の最高水準に達しており、全体的な企業投資と経済活動を大きく押し上げている。このIT投資の急増は米国に集中しているが、世界的にもプラスの波及効果を生み出しており、特にアジアのテクノロジー輸出の追い風となっている。

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金融環境が景気拡大を促進
IT投資ブームは、自動化とAIにおける最近の技術革新がもたらし得る変革が、生産性を大幅に向上させ利益を押し上げるという、企業と市場の楽観的な見方を反映している。初めて広く使用された生成AIツールが導入された2022年後半以降、株価が急上昇したことから見て取れる。 
 良好な金融環境と堅調な利益が株価上昇を下支えし、新たな設備投資に必要な資金調達に役立った。しかし、景気拡大が加速するにつれて、デットファイナンスがより普及し、レバレッジが上昇している。こうした変化は、注目すべきリスクをもたらす。リターンが回復しない場合や、広範な金融環境が引き締まった場合に、レバレッジの上昇によってショックが増幅され、企業に悪影響を及ぼし、金融システム全体への波及に関する懸念が高まる可能性がある。
 さらに、企業の収益性は、高度なプロセッサの減価償却スケジュールに関する仮定に左右されやすくなる可能性がある。機器を頻繁にアップグレードしなくてはならなくなると、利幅を圧迫し、利益を抑制し、多額の追加的デットファイナンスを要する。こうした要因は、レバレッジの蓄積を監視することの重要性と、それが脆弱性を増幅させる可能性を浮き彫りにしている。


ドットコム時代からの教訓 
1995年から2000年のドットコムブームとの比較は役に立つ。国内総生産に占めるIT投資の割合は当時の水準とほぼ同じだが、今回の増加はより緩やかで、著しく加速したのは昨年になってからだ。さらに、経済生産高に対する市場評価はどちらのブームでも同様のペースで拡大しているが、今回は、より堅調な収益を考慮すると、株価収益率の上昇が前回より控えめだ。 
 IMFの分析によると、全体として、米国における広範な株価指数の潜在的な過大評価の規模は、ドットコムと比べ約半分に過ぎない。とはいえ、テクノロジー株の価格調整に対する世界的なマクロ経済成長の脆弱性がかなり大きい可能性があり、それには3つの理由がある。 

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 第1に、過去数年間の株価上昇は、主にテクノロジー部門、特にAI関連株によってけん引されており、この特定のグループが主要な推進力となっている。第2に、多くの重要なAI関連企業は現在、株式市場に上場していない。こうした企業の債務借入は、ドットコム時代には見られなかった結果をもたらす可能性がある。第3に、時価総額は現在、生産高に対してはるかに高く、米国では2001年の132%から現在は226%となっている。そのため、より控えめな調整でも、全体の消費にかなりの影響を与える可能性がある。

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見通しへのリスク
現在のテクノロジーブームは、世界経済にとって重要な上振れリスクと下振れリスクとなる。上振れリスクとしては、AIが生産性の期待に応え始め、米国と世界の今年の経済活動をベースラインと比較して0.3%押し上げる可能性がある。 
 下振れリスクとしては、AI企業が高水準のバリュエーションに見合った収益を達成できず、投資家心理が悪化する可能性がある。参考までに、2025年10月の「世界経済見通し」のあるシナリオでは、金融環境のタイト化に伴いAI株価の小幅な調整が見られることを想定したが、同シナリオの下、世界経済の成長率がベースラインと比較して0.4%低下するとの見方を示した。テクノロジー部門の実質投資が想定以上に急激に落ち込み、コストのかかる資本と労働力の再配分が起きた場合、広範囲に及ぶ影響をもたらす可能性がある。同時に、全要素生産性の上昇率が予想を下回り、株式市場の調整幅がさらに大きかった場合、米国やアジアなどテクノロジー部門が大きい地域を中心に、世界のGDP損失がさらに増える恐れがある。 
 米国株の外国人所有が10年にわたって増加してきたことを考えると、この急激な調整は、米国外でも大幅な資産損失を引き起こし、消費の重しとなり、米国以外を含むより広範な景気後退をもたらす可能性もある。多くの高債務の低所得国を含め、テクノロジーへのエクスポージャーが乏しい国でさえも、外需の負の波及効果と、対外借入コストの上昇に悩まされるだろう。
 こうした下振れリスクは、地政学的な不確実性が高まり、重要な投入財に対する輸出規制が増加し、貿易関連の制約が強化され、多くの国で財政余地がひっ迫する中で生じる。これは、AI関連による生産性の伸びに関する再評価や、リスク資産評価の調整と相互作用し、互いの規模を増幅し得る。 


安定性、規律、包摂性に関する政策
資産評価に過熱感があり、デットファイナンスが増加し、不確実性が高まっている中、金融安定性を確保するためには強力なプルデンシャル監督が不可欠である。監督と規制においては、特にテクノロジー部門にエクスポージャーがある銀行とノンバンクの確固たる引受基準を確立しなければならない。銀行の資本と流動性に関する、国際的に合意された基準を遵守する必要がある。政策当局者は、多様なリスクに対する緊急時対応策を展開する準備を整えておかなければならない。 
 金融政策当局者は微妙な舵取りを迫られている。テクノロジーブームが続けば、ドットコム時代のように、実質中立金利が上昇し、金融政策の引き締めが必要になる可能性がある。そうなれば、特にAIによる成長の押し上げ効果がない国では、財政余地が縮小するだろう。
 一方、下振れシナリオが現実のものとなった場合、総需要の急激な減少に伴い、政策金利の迅速な引き下げが必要となる。
 物価の安定を実現するための金融政策の適切な診断と調整には、中央銀行がそのマンデートを遂行できなければならない。中央銀行の独立性は、物価・金融システムの安定と経済成長にとって引き続き最も重要であり、金融政策の信頼性を守り、インフレ期待を安定させる。
 財政面では、各国政府は、公的債務を削減し、必要な場合には財政余地を回復することに、改めて取り組まなければならない。 
 AIが労働者に与える影響が均一でないことも考慮しなければならない。イノベーションは成長を促進するものの、雇用を奪い、一部の労働層の賃金を抑制するリスクがある。政策においては、AI導入の障壁を引き下げること、労働者の適切なスキルの習得を支援すること、的を絞ったプログラムを通じて労働の移動を支援すること、競争市場を維持して企業参入を促進しイノベーションの恩恵が広く共有されるようにすること、に焦点を当てる必要がある。


バランスを取る
世界経済は貿易の混乱の中で目覚ましい底堅さを示してきたが、これはテクノロジー部門への投資の集中に伴う根本的な脆弱性を覆い隠している。そして、貿易の混乱がもたらす成長へのマイナス影響は、徐々に蓄積していく可能性が高い。 
 AIがけん引する投資の勢いは、変革の可能性をもたらす一方で、金融面・構造面でのリスクも生じ、警戒を要する。政策当局者と投資家の両方にとっての課題は、楽観主義と慎重さのバランスを取り、今日のテクノロジー投資の急増が、ドットコムのような過熱とその後の急後退のサイクルを繰り返すのではなく、持続可能で包括的な成長につながるようにすることだ。これは、地政学的緊張が高まり、制度的枠組みがますます危うくなる環境、つまり良い政策の実施がより困難な環境において、特に重要だ。