2009年に開催された画期的なG20ピッツバーグ・サミット以降、力強く、持続可能で、均衡のとれた包摂的な成長というG20の目標に向けた前進は勢いがない。
G20諸国は複数のショックを乗り越える中で目覚ましい強靭性を示してきたものの、中期的な成長見通しは緩やかに減速し、世界金融危機以降で最も低い2.9%となっている。同時に、多くの国にとってディスインフレへの進展はまだ道半ばであり、また、公的債務は昨年、対GDP比102%という記録的な水準にまで上昇した。さらに、過剰な対外不均衡が 再び拡大している。
それでも、明るい兆候はある。世界の経済生産高の約85%を占めるG20に向けたIMFの最新の年次報告書では、過去1年間で見られた明るい展開が指摘されている。
IMFの国別チームを対象とした調査によると、新興市場国の半数以上を含め、多くのG20諸国がより力強い成長に向けて進捗を遂げた。ドイツなど一部のケースでは、財政規則の改革が追い風となり、成長が勢いづいた。
また、インフレ率の低下と財政再建の取り組みにより、大半の先進国と半分のEU加盟国において、成長の持続可能性が向上している。

しかし良い面ばかりではない。最後のふたつの側面においては、過去1年間の進歩があまりない。
• ひとつの部門や外需へますます依存するなど、内外の不均衡が蓄積するようなことのない、「均衡のとれた成長」は、G20全体で難しくなっている。中国と米国では、経常収支の拡大を理由として、対外不均衡がやや悪化した。
• 経済がすべての人に恩恵をもたらすようにする「包摂的成長」は、わずかな改善にとどまった。G20先進国と、2023年に加盟したアフリカ連合でこの傾向が顕著だった。
短期的な不確実性は依然として高く、数多くの逆風がある中、強固で持続可能で均衡のとれた包摂的な成長を今後数年間で実現するという見通しは厳しい。こうした背景の下、成長のあらゆる側面において、たとえ暫定的であっても、勢いを強化することがこれまで以上に重要になっている。
こうした課題を乗り越える主要な要素は、スマートな財政政策だ。各国政府は、増大する支出ニーズを満たしつつ、債務増加を抑制するために財政バッファーを再構築する必要がある。国内のリバランスを図り、より力強い成長を促進するためには、抜本的な経済改革も必要である。
もちろん、こうした構造改革は国によって異なる。しかし、改革の優先順位付けと順序付けの指針となるように、IMFの国別チームは、経済成長への影響が最も大きいと見込まれる措置を特定した。財政政策やビジネス規制の改善に加え、労働市場制度の改革が、G20諸国とEUの中で一貫して上位に挙げられている。

アフリカ連合加盟国にとって、ガバナンスの基盤の改善と財政改革が、最も大きな利益をもたらし得る。
G20諸国が協調して行動することで得られる利益はかなりのものとなるであろう。シミュレーションによると、特定された最も影響の大きい構造改革を、推奨されるマクロ経済政策と合わせて実施することにより、今後10年間でG20全体の成長率を累積で約7%ポイント押し上げることができる。これは新興市場国に最大の利益をもたらすことになる。
また、財政余地が限られている国では、こうした構造改革と、推奨されている財政調整の影響が合わさって、債務負担が5年以内に対GDP比で8%ポイント以上減少することになる。
こうした協調した改革努力は、経常収支の縮小に資することで国内の不均衡是正も支えることになり、主要な黒字国と赤字国の双方で経常収支が大幅に改善し得る。



