IMF理事会、2025年の対日4条協議を終了
2025年4月2日
ワシントン DC: 国際通貨基金(IMF)理事会は対日4条協議[1]を終了した。
日本のインフレ率は、ほぼゼロだった期間が30年間続いた後、日本銀行の総合インフレ率目標である2%で維持され、成長率は、潜在成長率の0.5%で維持される新たな均衡に達することができる兆しが高まっている。一時的な供給側の混乱により2024年は成長が著しく減速したが、成長の主な原動力として民間需要が政府消費に取って代わる中、2025年は成長率が1.2%に持ち直す見込みである。2025年はインフレ率を上回る賃金の伸びが勢いを増す見込みで、家計の可処分所得と消費を押し上げることとなる。民間投資も、高水準の企業利益と緩和的な金融環境に支えられて、力強さを維持すると見られる。インフレ率は、原油と食料価格の上昇が和らぐ中で、日銀の目標である2%を上回っている状態から、2025年末には落ち着くと予想される。2024年の経常収支は対GDP比4.8%へ拡大し、対外ポジションは、速報ベースで、中期的なファンダメンタルズおよび望ましい政策が示唆する水準とおおむね一致していると評価された。金融情勢は依然として緩和的であるが、実質金利の上昇とマクロ経済的不確実性の高まりを背景に徐々にタイト化している。
成長リスクは下方に傾いており、インフレリスクはおおむね均衡している。公的債務が高水準にある中、世界経済の減速や国内消費の低迷、金融環境のタイト化は、成長の下振れリスクとなる一方、賃金上昇の加速と地域統合の進展が上振れリスクとなる。インフレの下振れリスクは、インフレ期待がインフレ目標を下回る可能性である。インフレの上振れリスクは、食料・エネルギー価格の上昇と、予想を上回る賃金の伸びである。
2024年の財政赤字と一般政府債務の推計は、景気回復を支えるための歳出が一部廃止され、歳入が予想を超えたため、2024年4条協議時点での予想を下回っている。それでもなお、財政赤字は2023年の対GDP比2.3%から2024年には2.5%へとやや悪化したと推計されており、現行の政策下では中期的に拡大し続けると見込まれる。日銀は、2024年3月に非伝統的金融政策を無事終了した後、日本国債の買い入れを縮小し始め、政策金利を0.5%まで徐々に引き上げた。
理事会による評価[2]
理事らは、日本の堅実なマクロ経済政策を称賛し、実質賃金の上昇に支えられて2025年には成長が加速すると見込まれていること、また、成長志向モデルへの移行が進み、総合インフレ率が日銀の目標に向かっていることを歓迎した。理事らは、貿易摩擦の高まりなど、リスクが下振れしていることに留意した上で、引き続き財政バッファーを再構築し、インフレ期待を再アンカーし、人口高齢化の文脈において潜在成長率を支えるべく包括的な構造改革を進める必要性を強調した。
理事らは、財政健全化に対する当局のコミットメントを歓迎した。公的債務の利払い費の増加や、医療および介護に伴う歳出圧力を完全に相殺するための明確な計画の必要性を強調した。さらに、債務の持続可能性を確保し、自然災害を含む経済ショックに対応するための財政余地を拡大するためにも、健全化が必要である。質の高い公共投資を維持しつつ、歳入を増やし社会支出の質を向上させ、補助金を合理化する措置が望ましい。理事らは補正予算の管理における規律の重要性を強調したほか、中期的な財政枠組みを強化し強固な債務管理戦略を持つことを推奨した。
理事らは、日銀の現在の緩和的金融政策スタンスと同じ見解を示し、IMF職員のベースライン予測が実現した場合には、金融緩和の段階的な解除が適切であると指摘した。中立的な政策金利に関連する不確実性や、金融政策の波及の有効性、インフレ期待の再アンカーの度合を鑑みて、理事らは日銀に対してデータに基づいた柔軟なアプローチを維持するよう促した。この文脈において、理事らは、日銀がバランスシート縮小計画について十分にコミュニケーションを取り、円滑に実施したことを称賛した。これは、国債市場の機能と価格発見の改善にもつながるであろう。理事らはまた、柔軟な為替相場制度への日本の長年のコミットメントを歓迎し、為替介入を例外的な状況に限定することの重要性を強調した。
理事らは、金融システムがおおむね強靭性を維持しているとの見解で一致した。マクロ経済の不確実性の高まり、予想を上回るペースの金利上昇、中小企業の破綻から生じるリスクに細心の注意を払うことを当局に奨励した。システミックリスクの監視と金融セクター監督をさらに強化するため、2024年の金融セクター評価プログラム(FSAP)から得られた主要な勧告事項を引き続き実施することを奨励した。
理事らは、さらなる地域統合に向けた取り組みやルールに基づく貿易体制への支援を含め、多国間経済協力に対する日本のコミットメントをおおむね歓迎した。また、IMF能力開発に対する日本の支援を賞賛した。そのほか、産業政策を、外部性のある分野に集中させ、費用便益分析を要件とすることを推奨した。
理事らは、高齢化が進む中で効率性と生産性を向上させるための構造政策の必要性を強調した。こうした取り組みには、高齢者や女性などの労働市場への参加と柔軟性の向上、労働力不足に対処するための労働移動の促進、AI導入のメリットの活用が含まれる。それは、保育施設の拡充、ITやAIのスキル開発のための研修プログラムの強化、外国人労働者の誘致によって実現可能となる。理事らは、グリーントランスフォーメーションに対する日本のコミットメントを歓迎し、さらなる進展を促した。
|
日本:主な経済指標( 2021-30) |
||||||||||
|
名目GDP: 4兆2,130億米ドル(2023年) 1人当たりのGDP: 3万3,845米ドル(2023)年) |
||||||||||
|
人口:1億2,400万人(2023年) クォータ:308億SDR(2023年) |
||||||||||
|
|
2021 |
2022 |
2023 |
2024 |
2025 |
2026 |
2027 |
2028 |
2029 |
2030 |
|
|
|
|
|
推計 |
予測 |
|||||
|
|
(%変化) |
|||||||||
|
成長率・伸び率 |
||||||||||
|
実質GDP |
2.7 |
0.9 |
1.5 |
0.1 |
1.2 |
0.8 |
0.6 |
0.6 |
0.5 |
0.5 |
|
国内需要 |
1.7 |
1.5 |
0.5 |
0.2 |
1.1 |
0.9 |
0.6 |
0.5 |
0.5 |
0.5 |
|
民間消費 |
0.7 |
2.1 |
0.8 |
-0.1 |
0.9 |
0.7 |
0.6 |
0.4 |
0.3 |
0.3 |
|
民間設備投資総額 |
1.3 |
1.6 |
1.5 |
0.6 |
1.3 |
1.0 |
0.5 |
0.3 |
0.3 |
0.3 |
|
企業投資 |
1.7 |
2.6 |
1.5 |
1.2 |
1.3 |
1.1 |
0.6 |
0.4 |
0.3 |
0.3 |
|
住宅投資 |
-0.3 |
-2.7 |
1.5 |
-2.3 |
0.8 |
0.5 |
0.1 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
|
政府支出 |
3.4 |
1.4 |
-0.3 |
0.9 |
1.3 |
1.2 |
1.0 |
1.1 |
1.3 |
1.4 |
|
公共投資 |
-2.6 |
-8.3 |
1.5 |
-0.9 |
0.3 |
0.0 |
0.2 |
-0.3 |
-0.4 |
-0.4 |
|
在庫積増 |
0.5 |
0.2 |
-0.3 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
|
純輸出 |
1.0 |
-0.5 |
1.0 |
-0.1 |
0.1 |
-0.1 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
|
財・サービスの輸出 |
11.9 |
5.5 |
3.0 |
1.0 |
2.0 |
1.0 |
1.7 |
1.6 |
1.5 |
1.4 |
|
財・サービスの輸入 |
5.2 |
8.3 |
-1.5 |
1.3 |
1.4 |
1.6 |
1.7 |
1.4 |
1.3 |
1.3 |
|
需給ギャップ |
-1.6 |
-0.9 |
0.2 |
0.1 |
0.2 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
|
|
(%変化、年平均) |
|||||||||
|
物価上昇率 |
||||||||||
|
消費者物価指数(CPI)総合指数 |
-0.2 |
2.5 |
3.2 |
2.7 |
2.4 |
2.0 |
2.0 |
2.0 |
2.0 |
2.0 |
|
GDPデフレーター |
-0.2 |
0.4 |
4.1 |
2.9 |
2.0 |
2.0 |
2.1 |
2.0 |
2.0 |
2.0 |
|
|
(対GDP比) |
|||||||||
|
政府 |
||||||||||
|
歳入 |
36.3 |
37.5 |
36.8 |
36.9 |
36.8 |
36.8 |
36.8 |
36.9 |
36.9 |
36.9 |
|
歳出 |
42.5 |
41.8 |
39.1 |
39.4 |
39.5 |
39.8 |
40.1 |
40.8 |
41.4 |
42.0 |
|
財政収支 |
-6.1 |
-4.2 |
-2.3 |
-2.5 |
-2.7 |
-3.0 |
-3.3 |
-3.9 |
-4.5 |
-5.2 |
|
基礎的財政収支 |
-5.5 |
-3.8 |
-2.0 |
-2.1 |
-2.3 |
-2.3 |
-2.2 |
-2.4 |
-2.7 |
-3.1 |
|
構造的基礎的財政収支 |
-4.9 |
-3.8 |
-2.1 |
-2.1 |
-2.4 |
-2.3 |
-2.2 |
-2.4 |
-2.7 |
-3.2 |
|
公的債務(グロス) |
253.7 |
248.3 |
240.0 |
236.7 |
233.1 |
230.7 |
228.8 |
227.8 |
227.6 |
228.0 |
|
|
(%変化、期末) |
|||||||||
|
マクロ金融 |
||||||||||
|
マネタリーベース |
8.5 |
-5.6 |
6.4 |
-1.0 |
2.2 |
2.2 |
2.2 |
2.1 |
2.1 |
2.1 |
|
ブロードマネー |
2.9 |
2.3 |
2.2 |
1.2 |
1.8 |
2.0 |
2.2 |
2.1 |
2.0 |
2.0 |
|
民間部門への信用供与 |
2.3 |
3.6 |
4.2 |
3.1 |
1.6 |
1.4 |
1.4 |
1.4 |
1.3 |
1.3 |
|
非金融機関債務(対GDP比) |
157.1 |
161.2 |
156.7 |
159.5 |
160.9 |
162.1 |
163.3 |
165.3 |
166.0 |
168.3 |
|
|
(%) |
|||||||||
|
金利 |
||||||||||
|
無担保コールレート翌日物 (期末) |
0.0 |
0.0 |
0.0 |
0.2 |
… |
… |
… |
… |
… |
… |
|
10年物国債利回り(期末) |
0.1 |
0.4 |
0.6 |
1.1 |
… |
… |
… |
… |
… |
… |
|
|
(10億米ドル) |
|||||||||
|
国際収支 |
||||||||||
|
経常収支 |
196.2 |
89.9 |
158.5 |
193.0 |
177.9 |
167.7 |
170.1 |
175.2 |
175.5 |
169.3 |
|
対GDP比% |
3.9 |
2.1 |
3.8 |
4.8 |
4.4 |
4.0 |
3.9 |
3.9 |
3.8 |
3.5 |
|
貿易収支 |
16.4 |
-115.8 |
-48.2 |
-26.1 |
-11.3 |
-15.6 |
-14.4 |
-11.4 |
-8.9 |
-7.2 |
|
対GDP比% |
0.3 |
-2.7 |
-1.1 |
-0.6 |
-0.3 |
-0.4 |
-0.3 |
-0.3 |
-0.2 |
-0.1 |
|
財輸出(FOB) |
749.2 |
752.5 |
713.7 |
692.3 |
700.2 |
706.6 |
722.7 |
736.9 |
755.4 |
771.4 |
|
財輸入(FOB) |
732.7 |
868.3 |
761.9 |
718.5 |
711.5 |
722.1 |
737.1 |
748.4 |
764.3 |
778.6 |
|
エネルギー輸入 |
127.8 |
195.5 |
152.9 |
138.3 |
124.6 |
108.2 |
98.0 |
90.0 |
83.0 |
76.7 |
|
|
(対GDP比) |
|||||||||
|
対内直接投資(純額) |
3.5 |
3.0 |
4.1 |
4.8 |
4.2 |
4.1 |
4.0 |
4.2 |
4.3 |
4.2 |
|
証券投資 |
-3.9 |
-3.3 |
4.7 |
2.4 |
-0.5 |
-0.4 |
-0.4 |
-0.4 |
-0.4 |
-0.4 |
|
|
(10億米ドル) |
|||||||||
|
外貨準備高の変化 |
62.8 |
-47.4 |
29.8 |
-64.4 |
11.5 |
11.5 |
11.5 |
11.5 |
11.5 |
11.5 |
|
外貨準備高(金を除く)(10億米ドル) |
1356.2 |
1178.3 |
1238.5 |
1159.7 |
… |
… |
… |
… |
… |
… |
|
|
(年平均) |
|||||||||
|
為替相場 |
||||||||||
|
円・ドル |
109.8 |
131.5 |
140.5 |
151.4 |
… |
… |
… |
… |
… |
… |
|
円・ユーロ |
129.9 |
138.6 |
152.0 |
163.8 |
… |
… |
… |
… |
… |
… |
|
実質実効為替相場(2010年を100とするULCベース) |
73.5 |
62.0 |
56.3 |
51.7 |
… |
… |
… |
… |
… |
… |
|
実質実効為替相場(2010年を100とするCPIベース) |
70.7 |
61.0 |
58.1 |
55.0 |
… |
… |
… |
… |
… |
… |
|
|
(%) |
|||||||||
|
その他の情報 |
||||||||||
|
1人あたり実質GDPの伸び |
3.0 |
1.3 |
2.0 |
0.5 |
1.7 |
1.3 |
1.2 |
1.1 |
1.1 |
1.1 |
|
人口増加率 |
-0.3 |
-0.3 |
-0.5 |
-0.5 |
-0.5 |
-0.5 |
-0.5 |
-0.6 |
-0.6 |
-0.6 |
|
老年人口指数 |
48.7 |
48.8 |
48.9 |
49.2 |
49.7 |
50.1 |
50.5 |
50.9 |
51.4 |
52.0 |
|
出所:Haver Analytics、経済開発協力機構(OECD)、日本政府当局、IMF職員の試算と予測。 |
||||||||||
[1] 国際通貨基金協定第4条の規定に基づき、IMFは加盟国との二者間協議を通常は毎年行う。IMF職員の代表団が協議相手国を訪問し、経済や金融の情報を収集するとともに、その国の経済状況や経済政策について政府当局と協議する。本部に戻った後、代表団のメンバーは理事会での議論の土台となる報告書を作成する。
[2] IMF理事会の議長である専務理事は、議論終了時に結論を理事会の見解として要約し、その要約が当該国の政府当局に提出される。専務理事による総括で使用される修飾語句の定義については以下リンクを参照。
http://www.IMF.org/external/np/sec/misc/qualifiers.htm.
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