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公的債務の増加と金利の上昇により財政がひっ迫し、各国政府は困難な決断を迫られる
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記事やその他書物の見解は著者のものであり、必ずしもIMFの方針を反映しているとは限りません。
財政政策には常にトレードオフが伴っている。誰の優先事項に資金を充てるか。誰の負担を先延ばしできるか。また、どのような条件でそうするか。最近まで、政府は好条件で借り入れることによって、こうした決断を先送りすることができていた。しかし現在では、前例のない債務水準と借り入れコストの上昇により、リスクが高まっている。同時に、財源が不足する中でも公的資金の需要は高まっている。社会が競合する優先事項の調和を図ることができるのは、見過ごされがちで現在不足しているもの、つまり公共の信頼、がある場合に限られる。
新型コロナウイルスのパンデミックの前から、公的債務は着実に積み上がっていた。多くの民主主義国家の政策は、構造改革を先送りしつつ歳出と財政赤字の拡大を支持していた (Cao, Dabla-Norris, and Di Grigorio 2024) 。控えめな経済成長、高齢者に充てる支出の増大、増税への消極的な姿勢が、事態を悪化させるばかりだった。困難な選択が先送りされ、債務が積み上がったが、過去 20 年間の異常に低い金利によって、こうした状態が維持された。
そして 2020 年、各国政府は大恐慌以来最悪の経済崩壊に直面し、大規模に借り入れ始めた。先進国の債務は対 GDP 比で数十 % ポイント急増した。一部の国では、その割合が 120% を上回った ( 図 1 参照 ) 。新興市場国と低所得国も、先進国ほどではないものの、かなり借り入れた。こうした対応によって、より深刻な大惨事が回避され、また、その後、債務水準が安定してきた事例が多いものの、各国は現在、安く借り入れることができない世界に直面している。
現在、政策当局者は、コロナの後遺症の財政版とも言える課題、つまり高金利と債務コストの上昇に直面している。世界の公的債務は 2025 年に対 GDP 比 93.9% まで膨れ上がった。 2028 年には平時には見られなかった水準である 100% を突破する見込みであり、経済政策と政治にとって転換点を迎えている。一方で、新たな地政学的緊張を背景に防衛・産業政策への支出圧力がある中でも、高齢化や気候変動、公共サービスの需要増大、そして低所得国においては開発援助金の減少と借り入れコストの高止まりといった、長期的な構造的要因が、引き続き予算を圧迫している。

超低金利の時代は終わったが、経済成長の傾向は大きく変わっていない。借り入れコストは短期間で 2 倍、 3 倍になった。現在、利払い費が予算に占める割合が増え、他の優先事項に充てる分が縮小している。例えば米国では、純利払い費がパンデミック前の対 GDP 比約 2% から 2025 年には国防費を上回る 4.2% にまで増加しており、この比率は今後さらに上昇する見込みだ。低所得国では、利払いが平均で税収の 21% を占める。
高債務は、ショックに対応する余地が減ることを指す。また、資本コストの上昇を通じてより広範な経済に影響するほか、金融政策決定を複雑にし、同時に金融抑圧を誘発する。また、特に新興市場国において、投資家が政府の債務返済能力を疑い始め、利回りが上昇すれば、金融安定性が脅かされかねない。金融環境がタイト化するにつれて、より急激かつ急な調整を迫られることもある。 20 世紀ドイツの経済学者ルディガー ドーンブッシュによる「危機は長時間かけて訪れるが、展開は急激で速い 」という洞察を思い起こす。そして、高債務によって歳入は債権者に渡ることになり、他のニーズを犠牲にする。
低債務、低金利の世界では、政府は困難な選択を回避することができる。借り入れを増やし、経済成長によって、債務を返済し最終的に完済するのに十分な追加税収が生み出されることを期待するのだ。しかし、楽な選択の時代は終わった。政府が歳入に見合わない借り入れを 1 ドル増やすごとに、その新たな債務にかかる利息を払うためだけでも、将来的に増税か歳出削減が必要になる。ある時点を超えると、さらなる借り入れは、難しい決断を先送りできなくする。緊縮財政やインフレ、金融抑圧、デフォルトにさえ至ることもある。そして、この質問が避けられなくなる。財政余地が限られる中で、どのようなトレードオフがあり、誰がそのコストを負担するのか。

永続的なトレードオフのひとつは、政府の規模である。生活水準の向上に伴い、国民は信頼できる社会的セーフティネットや、手頃な教育・医療、公共投資の充実、そして異常気象やパンデミックなど増大するリスクからの保護を期待するようになった。先進国は第二次世界大戦後、社会保障制度を大幅に拡大した。多くの国が 2008 年の世界金融危機後、そして新型コロナのパンデミックの際はその対策として、同じような対応をとった。セーフティネットがより小規模な新興市場国は、国民が公平な形の経済成長を求める中、セーフティネット強化に向けた強い圧力に直面している。問題は、社会保障給付への要望が通常、歳入を動員する社会の意欲を上回っている点だ。また、減税を決断した後に、必ずしも歳出抑制があるわけでもない。政府は、北欧レベルの課税なしには北欧レベルの社会保障を提供できず、そのような税金を課したとしても、高齢化などの圧力によって、採算が合わなくなる。
信頼性と柔軟性のバランスを取ることも、別のジレンマだ。各国政府はショックに対応する余地を確保する必要がある一方で、市場や国民に対して債務が適切に管理され続けることを示し、安心感を与えなければならない。過度に拘束力のある債務上限などの厳格な財政規則や、急すぎる歳出削減や増税は、景気後退を深刻化させる恐れがある。一方で、欧州債務危機の際に起こったように、赤字を放置すると市場が動揺する可能性がある。課題は、過度に政策を制約することのない、持続可能な財政への確固たるコミットメントだ。そのため、まれなショックに対する免責条項を備えた信頼性のある中期的な財政アンカーのほか、脆弱層を保護しながら投資を優先する透明性のある計画、深刻な景気後退に対応する政府の能力を損なうことなく信頼を構築する制度的枠組みが求められる。このバランスを正しくとることは、かつてないほど重要であり、困難でもある。
第 3 の難問は、今すぐ投資するか、後で資金を使うために節約するかである。国家安全保障や、ショックに対する強靭性、クライメートトランジション、社会的包摂、開発といった喫緊のニーズには、リソースが必要だ。しかし、今日使う 1 ドルにつき、次の危機に対する余裕が減る。ショックが頻繁に発生する世界においては、そのトレードオフは厳しい。好況時に借り入れ限度枠を使い果たした国は、次の景気後退や災害に見舞われた際に、危険なリスクにさらされることになる。重要なのは、最善のシナリオを中心に計画するのではなく、予期せぬ事態が発生した際にも有効な財政戦略を設計することだ。次の危機が間近に迫っている可能性がある今日、何かを差し控えることで損はしない。
現在、各予算の決定には勝者、敗者、タイミングが明確にあり、こうした決定の政治経済的状況はより複雑になっている。誰が、または何が優先されるのか。どの税収を充てるのか、どのプログラムを諦めるのか。これらの質問は、もはや新たな債務でごまかすことはできない。こうした質問に明確に答えなければならず、それは手ごわい挑戦であることが露になっている。
高水準の公的債務はマクロ経済的な懸念事項以上のものだ。世代間の公平性の問題でもある。 18 世紀の政治家エドマンド・バークの言葉を借り れば、「社会は今生きている人、過去の人、そして生まれてくる人の間のパートナーシップだ」。債務によって、成長を促進するプロジェクトの資金を調達し、ショックを緩和し、長期的なコストを均等に分散することができる。しかし、持続的な赤字は、今後の労働者と納税者が返済しなければならない債務で賄われているのだ。多額の債務を抱える中で金利が上昇すると、公的資金は公共財よりも債権者に流れる。この資金の流れは債務が残っている限り続き、借り入れが続けばさらに大きくなる。
人口動態はふたつの経路で課題を深刻化させる。社会の高齢化に伴い、年金や医療のコストが税収よりも急速に増加し始める。そして、出生率が急低下するところでは、労働力の減少がコストとなる。先進国では、定年退職者 1 人あたりの労働者数が約 3 人と、 2000 年の約 4 人から減少しており、その数は 2050 年までに 2 人に向かうと見られている (OECD 2025) 。しかも、年金や医療に関する今後の負担の多くが政府のバランスシートから外されたままであり、高齢化が進むにつれてこうした陰の債務が予算に表れ、財政を不安定にする可能性が大いにある。そこで難しい選択を迫られる。増税か、社会保障給付の引き下げか、あるいは借り入れ続け、決断を単に先送りするかだ。
債権者や財政の現実が行動を強いるときが来る。難しい決断が延期されればされるほど、調整が急激で重いものになる。さらに、それを負担する人の数が減ることになる。一方で、給付などの現在の支出や、債務返済によって、教育や技術、インフラへ充てる投資資金が減り、次世代の繁栄が損なわれかねない。政治的環境によって課題が難しくなる。現在の有権者は、獲得した社会保障や約束された社会保障の削減に反対する。そして高齢の有権者は特に強力な有権者層となり得る。
政治家は、定年の引き上げ、社会給付の削減、課税ベースの拡大といった不人気な措置を避けたいがために、債務に頼る。今を重視するこの態勢は、公平性に関する重大な問題を提起する。若い世代は、政府の債務状況を見て、定年退職したときに、増税と脆弱な公共サービスというコストを負担することを疑う。信頼が失われ、世代間の社会契約がほころびる。金融市場もこうした状況を材料視する。投資家は、財政再建が永遠と延期されていると認識すると、リスクプレミアムの上昇を求めたり、投資を控えたりする。
しかし、政府が借り入れることは若者にとって本質的に悪いことではない。債務は、成長を促進したり、深刻な景気後退を回避できたりすれば、より良い未来を築く手段となり得る。債務で資金を調達してインフラや教育、気候変動への耐性を高める投資をすれば、今後の世代に恩恵をもたらす可能性がある。懸念されるのは、最近の債務があまりにも、厳しい選択の回避や現在の支出に使われ、事実上、現在の納税者よりも将来の納税者に多くの負担を受け渡していることだ。重要なのは、私たちがより良い、より豊かな世界を次世代に残すのか、それとも単に彼らに負担を受け渡すのかということだ。
財政政策が、時間や社会集団間でのコストを分配するものであるならば、信頼が、この分配を政治的に実行可能にする通貨である。信頼がなければ、最も賢明で適切に設計された改革でさえ、国民がその動機と成果を疑うため、失敗する可能性がある。信頼があれば、社会は困難なトレードオフを受け入れ、長期にわたってトレードオフを維持する。
信頼とは、何かが安全で信頼できる、または、ある人が善良で正直であるということを指す。この信頼の要素は、財政にも当てはまる。仕組みが理解されており、公平で透明性があり、かつ的確に実施されていなければならない。そうでなければ信頼は得られない。
多くの社会が信頼の欠如に悩まされている ( 図 2) 。 2024 年に 13 か国の 2 万 7,000 人を対象に行われた調査に基づく最近の研究では、この信頼の欠如の要因となる認識のギャップを明らかにしている (Bianchi, Dabla-Norris, and Khalid 2025) 。先進国も新興市場国も、多くの人々が基本的な財政問題を理解していない。例えば、アンケート回答者のうち、増税や歳出削減が財政赤字を削減できると理解している人はわずか 42% 程度だった。同様に、特に高債務国では、 60% 以上が自国の債務対 GDP 比の水準を過小評価している。もし人々が債務がそれほど高くも有害でもないと信じるなら、当然、財政改革が掲げられた際、大げさな対応、あるいは政治的な動機によるものと見なすだろう。このような誤解は、切迫感を鈍らせ、時宜を得た是正措置への支持を構築することを難しくする。
信頼がなければ、政府の政策に対する悲観論が高まる。政府への信頼が高いと回答した者は、政府の政策が公的債務の安定化や削減に役立つと考えている可能性が 20% 高い。回答者は全体として、現行の債務削減政策によって自分たちが豊かになることを疑う傾向があるが、政府への信頼が高い回答者は、自国の福祉にプラスの効果を期待する可能性が 17% 高い。
調査はまた、所得層と世代を超えた懸念を明らかにした。多くの人は、生活がかかっている年金や必要不可欠なサービスを失うことを恐れている。そして、財政問題を解決するための負担が公平に分担されるかどうかについて懐疑心を抱いている。こうした不安が、国民の投票や抗議を形作る。財政改革によって打撃を受けると思う者は、経済的に理にかなっているかどうかにかかわらず、改革を支持する可能性がはるかに低い。例えば、中産階級労働者が、赤字縮小は退職年齢の引き上げや年金額の縮小を意味すると想定すれば、反対するだろう。裕福な納税者が、改革が富裕層を対象とした富裕税を意味すると疑えば、富裕層も反発するだろう。そして、国民が新しい税金が汚職や誤った使い方で浪費されると考えるなら、納税する理由を見出せないだろう。
経験も信頼を形作る。緊縮財政を繰り返し耐えてきて、成果がほぼない国では、国民は新しい財政計画を小ばかにするだろう。厳しい財政削減が債務削減に繋がらなかった場合、国民は当然のことながら 、「なぜこの次の歳出削減や増税が問題を解決するのか ? 」と疑問に思う。同様に、腐敗や景気刺激策の不正使用は、政府の能力に対する国民の信頼を損なう。このような環境では、小規模な改革提案でさえ、国民は、政府の下心や良くない結末を想定しているため、憤慨する可能性がある。年金改革に言及すれば、苦労して稼いだ年金がなくなるのではないかとの懸念から、抗議活動が勃発する。税制改革の話をすれば、多くの者は真っ先に、苦労して稼いだ収入が悪用されるのではないかと疑う。燃料補助金改革の経験が物語っている。つまり、財政コストや、対象の不十分な絞り込み、経済の歪みについてはよく理解されているが、実施は政治的・社会的に複雑であることが繰り返し証明されてきた。
不信感は悪循環を助長する。政治家は、反発を恐れて、厳しい措置を延期する。そして債務問題が悪化し、信頼がさらに損なわれる。しかし、国民が、負担が公平に分配され、より良い未来につながると信じる場合には、年金制度の調整といった痛みを伴う改革でさえも進んで受け入れることが判明した (IMF 2024, 2025) 。有権者が納得し、長期的な安定のために短期的な犠牲を受け入れる要素は信頼だけだ。

今日の高水準の公的債務は、政府と社会を未曾有の試練にさらしており、行動を取ることが明らかに急務である。先延ばしが 1 年続くたびに、各国はますます、金利ショックや市場の信頼感の変化にさらされる。しかし、財政を立て直すことは、でたらめな緊縮政策ではない。それは、将来への投資を継続しながら、債務を持続可能な軌道に乗せるために、段階的で適切に調整された措置を講じることだ。これには、トレードオフを正直に明かすことと、妥協する意欲が必要となる。政策当局者は、困難な選択について国民に正直に打ち明けなければならず、国民は、大切なプログラムには追加のリソースや改革が必要であることを認識しなければならない。
信頼はこの方程式の中核を成す。人々は、負担が正当に分かち合われ、改革が具体的な利益につながると信じる必要がある。国民は、財政政策が効果的で、透明で、公正であると認識している場合、難しい措置を支持する可能性が高い。しかし、信頼は一夜にして築けない。信頼は獲得され、維持されるものだ。
信頼を築くための青写真はひとつではないが、参考となる制度や慣行はある。予算の透明性と適切に組織化された財政管理が信頼の基礎だ。オランダで見られるような、明確なマンデートと真の自律性、優れた専門知識を備えた独立した財政評議会が、公平な評価を行い、各国政府に財政計画に関する説明責任を負わせる。政府や独立機関が作成する歳出評価や租税支出報告書、効果の評価は、政策立案者と国民の双方が資金の行き先やその成果を理解するのに役立つ。公務員賃金の慎重な管理と、効率的な公共調達は、無駄遣いの認識を減らすことができる。特別税制や年金優遇措置を削減することは、公平性を高める。また、国有企業の強力な監督は、政府の責任感と能力を示す。こうした措置は万能薬ではないが、技術的に可能な措置と政治的に可能な措置との間のギャップを埋めるのに役立つ。財政政策の信頼性を高め、政府が本気でバリュー・フォー・マネーを提供することを示すことで、改革の余地を生み出す。
制約に関する現実と、変化への野心のバランスをとることが不可欠だ。債務の問題を賢く管理すれば、長期的な繁栄のための安定した基盤を確保し、世代間の社会契約を維持することができる。怠ったり、先延ばしし過ぎたりすれば、経済が混乱し、制度への信頼がさらに失われる恐れがある。私たちが今日選ぶ財政の道筋が、今後の繁栄と公平性を左右することになる。
Bianchi, Francesco, Era Dabla-Norris, and Salma Khalid. 2025. “Perceptions of Public Debt and Policy Expectations: Evidence from Cross-Country Surveys.” NBER Working Paper 34382, National Bureau of Economic Research, Cambridge, MA.
Cao, Yongquan, Era Dabla-Norris, and Enrico Di Grigorio. 2024. “Fiscal Discourse and Fiscal Policy.” IMF Working Paper 24/194, International Monetary Fund, Washington, DC.
International Monetary Fund (IMF). 2024. World Economic Outlook: Policy Pivot, Rising Threats. Washington, DC, October.
International Monetary Fund (IMF). 2025. Fiscal Monitor: Fiscal Policy under Uncertainty. Washington, DC, April.
Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD). 2025. Pensions at a Glance 2025. Paris.