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写真:Gopixa/iStock by Getty Images

IMF サーベイ・マガジン : 金融安定性確保のために当局が 解決しなければならない三つの課題

2015年10月7日

  • 金融安定性は確実とはいえず、状況により世界GDPに3%もの差が
  • 新興国のリスクは高止まりしており、世界的な影響も
  • 目標は金融政策と金融環境の正常化を成功裏に実現させること

MFの最新の国際金融安定報告書によれば、金融安定性は先進国では向上したが、リスクは高止まりする中、今や世界経済での重要性が高まっている新興国へのシフトが進んでいる。

ブラジル、サンパウロ証券取引所の場立ちトレーダー:国際的な金融安定性のリスクは新興国に移行しつつある。 (写真: Sebastiao Moreira/epa/Corbis)

ブラジル、サンパウロ証券取引所の場立ちトレーダー:国際的な金融安定性のリスクは新興国に移行しつつある。 (写真: Sebastiao Moreira/epa/Corbis)

国際金融安定報告書

 米連銀は金利引き上げの態勢に入っており、欧州中央銀行の政策の効果もありユーロ圏の景況感は改善し、与信環境も改善している。多くの新興国では政策の枠組みを強化し外的なショックへの耐性を高めてきたが、国内不均衡、低成長及び一次産品価格の低下に苦しむ国も出ている。国際金融危機以降、新興国では信用膨張が続き、その結果、先進国で金利上昇が予想通り起こった場合や経済が失速した場合に悪影響を被る可能性が強まっており、これがさらに銀行部門の問題を悪化させる恐れがある。

 「新興国の世界経済に占めるシェアは大きく、国際金融市場を通じショックが他の新興国や先進国に伝播するため、新興国が脆弱性を抱えていることは大きな意味を持つ。最近の金融市場の動揺はこうしたリスクが顕現化した場合の影響を示している。」( José ViñalsIMF金融顧問兼金融資本市場局長)

 IMF、国際金融安定性の確保のためには、当局は三つの課題を解決する必要があるはと主張している。

三つの課題

新興国の脆弱性:新興国の銀行・企業ではバランスシートの無理な拡大の結果、約3.3超ドルの過剰借り入れを抱えていると推計される。特に一次産品産出国を中心に民間債務は急拡張しており、同時に外貨建て債務も拡大している。

先進国の危機からの負の遺産: ユーロ圏では多額の不良債権を処理するとともに銀行同盟を完成させることが、金融安定性を確実にし、成長への制約を取り除く上で不可欠である。米国での九年ぶりの金利引き上げの実施は国際金融市場の転換を画する重要なイベントとなる。この引き上げに関しては、かねてから当局は発信を続けてきたが、前例のないものであることには違いない。

歪みのたまった国際金融市場:最近の市場の混乱からも見てとれるように、市場流動性の不足はショックを増幅させ市場変動の拡大とショックの伝搬につながる。長期にわたる低金利と量的緩和継続の結果、様々な資産市場でのリスクプレミアムが圧縮されている。リスクプレミアムの再評価がおきると、市場流動性の低さなどの構造的問題を抱えているため市場が混乱し、資産の投げ売りや急激な償還圧力の発生と国際金融市場のボラティリティーの一層の拡大などをもたらす恐れがある。投資ファンドにおけるレバレッジの高さがショックの拡大につながるリスクもある。国際金融安定報告書によれば、投資ファンドはデリバティブの利用などにより、約1.5兆ドルにも及ぶレバレッジを抱えていると推計される。

 こうした様々な面での課題を抱えていることから、持続的な景気回復を実現する中で金融環境と金融政策の正常化を成功させることが必要で、このしたよりよいシナリオを実現するためには政策面での迅速な対応が必要である。他方で、政策の失敗やマイナスのショックが起きた場合の悲観的なシナリオのもとでは、市場の混乱が長期にわたり、それが回復の腰折れにつながる恐れがある。

「両シナリオの差は極めて大きく、2017年の世界GDPに3%近い差に生むこととなる。」(José Viñals局長)

総力をあげた努力を

 良いシナリオを実現するには先進国、新興国の当局がこの三つの課題に正面から向き合い、景況感の回復と強靱性の構築のため、政策の改善を図る必要があるとIMFは提言している。

 第一に、主要先進国の金融政策は緩和基調を継続すべきである。ユーロ圏でも日本でも、引き続きデフレ圧力に抗する必要がある。世界経済の不確実性が高まっている中、米国では労働市場の底堅い推移を確認しつつ、インフレの持続的な上昇の兆候がさらに蓄積するのを待った上で、政策金利の引き上げに動くべきである。また、二段階目以降の金利引き上げも徐々に実施し、十分にコミュニケーションを取った上で行うべきである。

ユーロ圏当局は欧州中央銀行だけに依存するのではなく。金融安定性の基盤を固めるために銀行同盟を完成させる努力を行う必要がある。不良債権を抜本的に処理し民間企業の過剰債務を解消することでユーロ圏の銀行を一層強化することは金融政策の有効性を高め、市場の信頼感を増し、見通しを改善させることにつながる。ユーロ圏の銀行が不良債権を一掃すれば、新たに6,000億ユーロの貸し出し余力が生じうるが、この額はユーロ圏融資残高の3%近くに相当する。

 第二に、新興国をより強靱化し、新興国への信認を維持することが不可欠である。先進国の金利上昇と新興国の成長低下が同時におきる可能性があるため、銀行・企業の健全性を維持するための監督上の配慮が必要である。ソブリン格付けを投資適格レベルに維持することは特に重要である。金融混乱が伝搬してきた場合には、可能な政策措置を迅速かつ適切に発動する必要がある。

 最も重要な新興市場国である中国については、リバランスとレバレッジの解消に極めて慎重に取り組む必要がある。新たな成長モデルとより市場重視の金融システムへの転換という、中国当局が直面する課題は前例のないものであるが、実現可能なものである。改革へのコミットメントが政策の信認と有効性を確保する上での鍵となる。企業のレバレッジを引き下げ市場規律を高める過程で、企業倒産や不採算企業の退出と不良債権の償却が伴うことは不可避であり、銀行をさらに強化させる必要が生じる。しかし、規模の拡大を通じた問題の解消を図るよりは、早期に断固たる対応をとる方が、最終的には負担はより小さいものとなる。

 さらに、当局は市場流動性喪失の可能性にも備えておく必要がある。資産運用業における流動性の監視を充実させることで資産の投げ売りのリスクを回避するとともに、投資ファンドにおけるデリバティブ由来のレバレッジに関して世界的な共通報告基準を導入すべきであり、これは監督当局と投資家がこうしたリスクをよりよく理解、評価できることにつながる。

 世界的に不確実性の高まった中、世界が総力をあげて政策の質を高めることがこうした課題の解決につながる。こうした努力が金融システムの安定と持続的でバランスのとれた成長につながる。結果次第で世界GDPの3%もの違いが生じうることを銘記すべきである。