第 46 回国際通貨金融委員会(IMFC)議長声明
2022年10月14日
IMFCは、3月2日に、国連総会が141カ国の多数で、「憲章第2条4項に違反するロシア連邦によるウクライナへの侵略を最も強い言葉で非難し」、「ロシア連邦が直ちにウクライナに対する武力行使を停止するよう要求する」決議であるES-11/1「ウクライナへの侵略」[i]を採択したことを想起する。35カ国が投票を棄権し、5カ国が決議に反対票を投じ、いくつかの国は立場を表明しなかった。
IMFCは、4月の前回会合以降、ウクライナに対するロシアの戦争が甚大な人道的影響をもたらし、直接的及び間接的な経路を通じて世界経済に有害な影響を及ぼし続けていることを認識する。IMFCは、10月12日に、国連総会が143カ国の多数で、「政治対話、交渉、調停、その他の平和的手段による現在の状況の緩和と紛争の平和的解決」に対する強い支持を表明する決議であるES-1 1/L.5「ウクライナの領土一体性及び国連憲章の原則の擁護」[ii]を採択したことを認識する。
IMFCは、分断を防ぎ、世界経済の統合を守るために、国際協力の拡大と多国間主義の強化の要請を再確認する。
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1. 高い不確実性の中、世界経済の回復は減速している。複数のショックに見舞われ、世界経済は重大な課題に直面しており、見通しは4月時点よりも困難で、下方リスクにさらされている。2年以上にわたるパンデミック及びそれに続くウクライナに対するロシアの戦争は、生活に大きな影響を与え、経済活動への重荷となっている。インフレ率は数十年来の高水準にあり、債務は増加し、食料及びエネルギー安全保障のリスクは増大し、サプライチェーンと貿易の混乱は続き、金融環境は引き締められ、一方で、資本フローと為替レートのボラティリティは増大している。世界経済は一層の分断リスクにさらされている。生活費の急騰は全ての人に影響を与え、最も脆弱な人々が最も大きな打撃を受けている。こうした動きは、不平等、債務脆弱性、及び気候変動のショックが深刻になる中、それに加えて生じている。急速なデジタル化は、機会とリスクの両方をもたらしている。
2.この世界的な文脈において、適切な国内政策と強化された多国間協力は、マクロ経済とグローバルな金融の安定を守り、強靭性を高め、負の波及効果を抑え、現在の食料危機を克服するために不可欠である。我々は、各国固有の状況に合わせ、国内政策のトレードオフを管理し、政策対応の効果を高めながら、国内政策の調整と協調を行う。我々の優先事項は、一方で債務の持続可能性、成長及びマクロ金融の安定を守り、その他の脆弱性を管理しつつ、他方でインフレと闘い、最も脆弱な人々を保護することである。中央銀行は、それぞれのマンデートに沿って、物価の安定を達成し、インフレ予想の安定維持を確保することに強くコミットしている。政策に関する明確なコミュニケーションと中央銀行の独立性の確保は、市場の変動を悪化させることを避け、各国間への負の波及効果を抑制し、政策の信頼性を維持するのに役立つ。財政政策は、財政の持続可能性を確保しつつ、一時的かつ的を絞った支援を通じて、生活費上昇の負担から脆弱な集団を守ることを優先させる。我々は、トレードオフの緩和における構造政策の補完的な役割に十分配慮しつつ、全体的な金融・財政スタンスの一貫性を確保する。金融の脆弱性と金融の安定に対するリスクを引き続き監視する中で、我々のマクロプルーデンス政策は、潜在的な負の景気循環増幅効果(プロシクリカリティ)に留意しつつ、金融環境が引き締められることによるシステミック・リスクの上昇を防ぐ必要がある。我々は、今年多くの通貨がボラティリティの増加を伴って大幅に変化したことを認識しつつ、我々の2021年4月の為替相場のコミットメントを再確認する。我々はまた、供給制約に対処し、女性の労働参加を促進し、潜在成長率を高めるため、構造改革のアジェンダを推進し、それにより成長とインフレのトレードオフを緩和していく。
3. 共通の課題に対処するために、緊急の多国間行動が必要である。我々は、国際機関及び開発パートナーと協調して、食料危機を克服するための取組みを更に強化し、その中で、影響を受けた国々が食料価格ショックの影響から脆弱な人々を保護するための支援及び食料・肥料の輸出制限の解除に焦点を当てる。我々は引き続き、脆弱な国々が緊急の財政ニーズと債務の脆弱性に対処するのに対し、資金支援を行う。我々は、各国固有の要素を考慮しながら、パリ協定やUNFCCCコミットメントに沿った気候に関する行動をさらに加速させるとの強い決意を再確認する。我々は、適応と強靱性に関する行動の強化を含むCOP27へ向けた強い野心を期待する。我々は、適時で、円滑かつ公正なネットゼロへの移行は、エネルギー安全保障及び現在の不安定性と将来のショックに対する世界の強靭性の強化に向けた取組みにとって重要であると認識する。我々は、最も脆弱な集団を保護しながら、温室効果ガスの排出を削減するための効率的な政策措置を含む、財政から市場、規制対応まで、あらゆる効果的な手段に基づくポリシーミックスを利用する。我々は、エネルギー市場に徐々に適応する必要性に留意し、エネルギーミックスの一部としての再生可能エネルギーの役割を促進するとともに、グリーンで持続可能な移行のための社会的な支援を強化する。我々は、データ保護、データ共有、相互運用性、可搬性に留意しつつ、デジタル・トランスフォーメーションの進行が、我々の経済をより強靭で包摂的なものにするために重要な役割を果たすことを確保する。我々はまた、所謂ステーブルコインを含む暗号資産エコシステムのための効果的な法的・規制枠組みを策定・実施するために協働し、クロスボーダー決済の強化に取り組む。我々は、2021年4月の、過度な世界的不均衡、及びガバナンスに対する我々のコミットメント並びにルールに基づく貿易システムについての声明を再確認する。
4. 我々は、専務理事のグローバル政策アジェンダを歓迎する。
5. 我々は、進行中のショックや不確実性に対応し、強靭性を強化する、適時のきめ細やかな政策助言に焦点を当てたIMFのサーベイランスを支持する。我々は、インフレ、財政・金融政策の相互作用、政策の波及効果や、世界的な食料不安・貿易・セーフティーネットに関連するリスクに関するIMFの政策助言と分析を歓迎する。我々は、包摂政策をIMFが重視していることを支持する。我々は、各国固有の状況を考慮しつつ、「機関としての見解」に沿って、加盟国がショックやリスクに対応するために、適切に複数の政策ツールを利用する指針となる、「総合的な政策枠組」の運用に向けたIMFの進捗を歓迎する。我々は、IMFの作業における貿易の役割、及び2018年IMFのガバナンスへの関与強化のためのフレームワークの実行に関する次回の見直しを期待する。
6. 我々は、国際収支上の問題を抱える加盟国に対して、十分なセーフガードを備えつつ、予防的なものも含めて、資金支援を提供するというIMFの重要な役割を再確認する。我々は、持続可能性・強靱性トラスト(RST)の稼働を歓迎し、本年中の第一弾のRST支援プログラムに期待する。我々は、RSTを通じたパンデミックの備えの支援を可能にする、世界保健機関及び世界銀行との協力枠組に向けた進捗を歓迎する。我々はSDRの自発的融通や、プレッジから取極への適時の転換によるものを含めた、RSTへの幅広い自発的な貢献への支持を再確認する。加盟国がRSTから受ける利益を最大化するために、我々は、世界銀行及び他の関連する多国間機関との強化された協働によりRSTが触媒効果を果たし、気候変動やパンデミックの備えに対する公的・民間部門から追加資金を呼び込むことを期待する。我々は、IMFの緊急融資制度の下での一時的な食料ショックウィンドウの新設を歓迎する。これは、世界的な食料ショックに関連する喫緊の国際収支ニーズに直面している加盟国への支援を強化するものである。我々はまた同様に、理事会の関与の下での新たなスタッフ・モニタリング・プログラムを歓迎する。今後IMFは、世界的なショックの文脈において、加盟国に最も貢献できるように、制度と政策を引き続き見直し、必要に応じて適応させなければならない。我々は、貧困削減・成長トラスト(PRGT)の利子補給金と融資原資の残りの資金ギャップを埋めるために、自発的なSDRの融通を含め、必要なあらゆる努力を行う。我々は、財源の必要性が評価される予定の今後の大災害抑制・救済基金の見直しに期待する。我々は、ウクライナに対する二国間金融支援を促進するためのIMFのマルチドナー管理勘定への自発的な貢献を歓迎する。
7. 我々は、現在及び将来の債務の問題に取り組むために、パートナーと協働するIMFの努力を支持する。我々は、ザンビアに対する債務再編に係る最近の進展を歓迎する。このモメンタムに乗じて、我々は、パリクラブでも合意されている、G20によるケースバイケースでの債務措置に係る共通枠組を適時かつ秩序だった方法で連携して実施することを強化し加速することを支援するために、IMFが世界銀行と共に取り組むことを支持する。我々は、チャド及びザンビアに対する債務措置に、適時かつ秩序だった方法で連携して合意し、IMF支援プログラム下でエチオピアについて進展することを奨励する。中所得国の脆弱性の高まりを受け、我々は、「共通枠組」が適用されない債務再編のためのより強固な債権者の協調を促進し、世界中の債務に関する課題へのよりグローバルな総意とそれらに対処する適切な方策を形成するための、更なる補完的な道筋を開拓する方法を、全てのステークホルダーと共に模索する努力を支持する。我々は、担保付貸付の慣行、債務再編を支援する契約条項の強化、債務データの質及び透明性の向上、新たなソブリン・リスクと債務持続可能性に関する枠組みの展開、及び、ソブリンのアリアに係る改訂されたポリシーの実施にかかるIMFの取組みを期待する。
8. 我々は、そのマンデートと整合的に、また、パートナーとの継続した効果的な連携の中で、マクロ金融に関するサーベイランスを深めるとともに、マクロ的に重要と考えられる場合に、加盟国が気候変動に取り組み、デジタル化に関連する機会を享受し、リスクを緩和し、所得やジェンダーの不平等を低減する、IMFによる一層の努力を歓迎する。我々はまた、脆弱国・紛争被害国が、安全保障上・人道上の課題から発生しているマクロ経済上の問題を含む各国独自のニーズに取り組むため、IMFが特に設計された支援を提供する努力を歓迎する。我々は、気候変動がもたらすマクロ経済及び金融上のインプリケーションや効果的な政策対応について、対話を通じたものも含む、ガイダンスを求める加盟国の多様なニーズに応えるIMFの重要な役割を再確認する。我々は、国際金融の安定性や国際通貨システムへのデジタルマネーのインプリケーションや、暗号資産に関する政策の検討、クロスボーダー決済取極の改善に関する、IMFの分析作業に期待する。我々は、ジェンダーのマクロ的に重要な側面をIMFの中核業務に統合し、他のIMFのワークストリームとの相乗効果を模索する直近の戦略を歓迎する。我々は、社会的支出に対する関与の強化に関するIMFの作業を支持する。
9. 我々は、各国の状況に合わせた能力開発とサーベイランスや融資活動との更なる統合と、能力開発のための適切な資金の確保とに向けたIMFの努力を支持する。我々は独立評価機関の提言を踏まえた、能力開発の戦略的枠組みの見直しを期待する。
10. 我々は、グローバル金融セーフティーネットの中心にあり、強固で、クォータを基礎とし、かつ、十分な資金基盤を有するIMFへの我々のコミットメントを再確認する。我々は、クォータの十分性について再検討することに引き続きコミットし、2023年12月15日までに、指針としての新クォータ計算式を含め、第16次クォータ一般見直しの下でIMFのガバナンス改革のプロセスを継続していく。我々は全ての加盟国による建設的な関与を歓迎する。我々はまた、総務会への三回目の進捗報告を歓迎し、次の会合までに進捗を加速させることを期待する。
11. 我々は、既存・新規の優先分野を支援するための優秀な人材を惹き付けるIMFの努力を歓迎し、2020-2021年度多様性・包摂性レポートで特定された個別の課題に対応して、スタッフの多様性と包摂性の向上を強化するよう求める。我々はまた、理事会におけるジェンダーの多様性の拡大の重要性を強調する。我々は、自らのマンデートを果たすにあたり責任あるリスクテイクを確保するために、企業リスク管理を強化するIMFの努力を支持する。我々は、制度的セーフガードレビューの提言の実施を期待する。
12. 次回IMFC会合は、2023年4月14日に開催される予定である。
国際通貨金融委員会 参加者一覧
2022年10月14日(金)・ ワシントンDC
議長
ナディア・カルビーニョ、第1副首相兼経済・デジタル変革大臣、スペイン
専務理事
クリスタリナ・ゲオルギエバ
委員会
ザイナブ・アフメド、財務予算国家計画大臣、ナイジェリア
ムハンマド・アルジャドアーン、財務大臣、サウジアラビア王国
ムハンマド・ビン・ハディ・アル・フッセイニ、財務大臣、アラブ首長国連邦アラブ首長国連邦
秋慶鎬、経済副首相兼企画財政部長官、大韓民国
ロサンナ・コスタ、総裁、チリ中央銀行
アダマ・クリバリ、経済財政大臣、コートジボワール共和国
ミカエル・ダンベリ、財務大臣、スウェーデン
ダニエレ・フランコ、経済・財務大臣、イタリア
クリスティア・フリーランド、副首相兼財務大臣、カナダ
パウロ・ゲデス、経済大臣、ブラジル
パブロ・エルナンデス・デコス、総裁、スペイン銀行
シグリット・カーフ、財務大臣、オランダ
アンドリュー・ベイリー、イングランド銀行総裁(ジェレミー・ハント、財務大臣、英国-代理)
クリスティアン・リントナー、財務大臣、ドイツ連邦共和国
フランソワ・ビルロワドガロー、総裁、フランス銀行(ブリュノ・ルメール、経済・財務・復興大臣、フランス共和国―代理)
ヴァルガ・ミハーイ、財務大臣、ハンガリー(マトルチ・ジェルジ、ハンガリー国立銀行総裁-代理)
ウエリ・マウラー、財務大臣、スイス連邦
アントン・シルアノフ、財務大臣、ロシア連邦*
ニルマラ・シタラマン、財務大臣、インド
鈴木俊一、財務大臣、日本
サラー・エディヌ・タレブ、総裁、アルジェリア中央銀行
ペリー・ワルジヨ、総裁、インドネシア銀行
ジャネット・イエレン、財務長官、アメリカ合衆国
張青松、副総裁、中国人民銀行(易綱、総裁、中国人民銀行-代理)
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* オンライン参加
オブザーバー
アグスティン・カルステンス、総支配人、国際決済銀行(BIS)
クリスティーヌ・ラガルド、総裁、欧州中央銀行(ECB)
ヴァルディス・ドムブロフスキス、執行副委員長、欧州委員会(EC)
クラース・クノット、議長、金融安定理事会 (FSB)兼総裁、オランダ中央銀行
リチャード・サマンズ、調査局長、国際労働機関(ILO)
アントニオ・グテーレス、事務総長、国際連合(UN)
リチャード・コズル・ライト、部長、グローバル化開発戦略部、国連貿易開発会議(UNCTAD)
デビッド・マルパス、総裁、世界銀行グループ (WB)
ンゴジ・オコンジョ・イウェアラ、事務局長、世界貿易機関 (WTO)
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