明日 公表
2019年4月10日
日本時間 午後 9:30時
2019年4月 国際金融安定性報告書
第1章 信用サイクルの成熟期における脆弱性
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第2章 住宅価格の下落リスク - 要旨
2008年の国際金融危機をはじめとした過去の経験からもみられるように、住宅価格が大幅に低下するとマクロ経済状況や金融安定性に悪影響が及ぶことがある。住宅価格がマクロ経済と金融に影響するのは、住宅が家計、小企業、金融機関にとって、消費財であったり長期投資の対象、資産保有の一形態、融資の担保であったりするなど、様々な役割を持つためである。こうしたことを背景に、近年多くの国でみられる住宅価格の急速な上昇は、住宅価格が反落する可能性とそうした下落がもたらす結果についての懸念を生じさせている。
本章では、住宅価格のリスク量(house price at risk)を計測、分析している。住宅価格のリスク量とは、住宅価格が将来的に下落するリスクであり、32の先進国、新興市場国および主要大都市につき、その計量を試みている。本章の分析を通じ、最大3年先までの下振れリスク増大を捉える先行指標がいくつか確認された。具体的には、住宅価格の騰勢の弱まり、過大な価格評価、過剰な信用拡大、および金融状況のタイト化が先行指標の役割を果たす。考案されたリスク量を使うことにより、住宅価格の不均衡を表す他のより単純な指標を用いた場合に比べ、GDP成長率の低下リスクをより正確に捉え、金融危機の早期警戒モデルをより精緻化することができる。推計によれば、国際金融危機以降、住宅価格のリスク量は一巡し、2007年末時点で相対的に高いリスクを示していた国々でのリスク量は低下しているものの、多くの先進国、新興市場国で住宅価格の下落リスクは依然として存在している。
本章は、住宅価格のリスク量と各種政策の関係についても検討している。金融政策、マクロプルーデンス政策および資本フロー管理政策の遂行に当たって、住宅価格水準自体を直接的な目標とすべきではないが、各種政策と住宅価格下落リスクとの関係を見ることで、そうした政策を住宅市場の脆弱性や金融安定性とどう関連付けるべきかを分析できるようになる。我々の分析によれば、マクロプルーデンス政策の引き締めによって住宅価格の下落リスクを抑えることができる。特に、融資額の対資産価値比や返済額の対所得比に上限を設定するなど、借り手の返済能力を確保する施策はその効果が高い。金融政策も金融環境との関係を通じて住宅価格の下落リスクに影響するが、本章の分析によれば、市場が予想していなかった政策金利の引き下げは住宅価格下振れのリスクを軽減するものの、その効果は先進国に限られ、しかも短期的なものである。こうした結果に鑑みれば、対象を絞ったタイムリーなマクロプルーデンス政策の方が、金融政策よりも住宅価格の下振れリスクの軽減に有効であると言える。資本フロー管理政策との関係にはより不確かな部分が存在するが、いくつかの推計結果は、先進国においては資金フロー管理政策の強化が住宅価格の下落リスクを低下させることを示唆している。
こうした知見を踏まえ、政策当局はいかに振る舞えるだろうか。銀行の資本余力を強化し家計の過剰借り入れを抑止するだけでなく、金融当局は、本章における住宅価格のリスク量を用いることで住宅市場の脆弱性に関する他の指標を補い、資本余力の増強や脆弱性の抑制を目的としたマクロプルーデンス政策を遂行する上での参考とすることができる。また、金融政策当局が成長やインフレに関する下振れリスクを評価する上で、住宅価格の下落リスクは有用な情報を提供できるかもしれない。


