第二次冷戦か? 地経学的な分断が進む中での経済協力の維持
IMF News, December 11, 2023
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- Published: December 11, 2023
はじめに(導入)
- 発表者は国際経済学協会(IEA)第20回世界大会での総会演説において、世界が「転換期」にあるとの認識を示し、「われわれは第二次冷戦の瀬戸際にあるのか」との問いを投げかける。
- パンデミック、戦争、米国と中国間の緊張により、各国の経済政策は国家安全保障上の懸念に基づいて規定されつつある。
- 本稿の構成:20世紀の国際貿易関係の歴史、冷戦期との比較、貿易・投資データに見られる分断化の兆候、分断拡大時の経済コスト、分断下で経済協力を維持するための「3つの原則」。
歴史的視点(概観)
- 長期の流れ:1789年以降に国際貿易は拡大したが、第一次世界大戦で中断。
- 冷戦期(1940年代後半から1980年代後半):
- 「脱グローバル化」の時期ではなかったが、貿易・投資フローは地政学的に規定され、分断化が進行。
- 対立する陣営間の貿易は、冷戦期に世界貿易全体の約10~15%から5%以下にまで急減。
- 冷戦終結後:10年間で敵対していた陣営間の貿易が世界貿易の約4分の1に拡大。ハイパー・グローバリゼーションの時期。
- 2008年以降:グローバル化のペースは低迷し、「スローバリゼーション」。
分断化の現状と拡がる兆候(ファクト)
- 制約措置の増加:
- 昨年導入された貿易制限措置は約3,000件。これは、2019年に導入された数のほぼ3倍。
- 貿易成長の地域差(ウクライナ戦争以降):
- ブロック内の貿易の伸び:戦争前の2.2%から1.7%へ減速。
- ブロック間の貿易の伸び:戦争前の3%から約-1.9%へ低下。
- 結果として、ブロック内での貿易の方がブロック間の貿易よりも伸び率が3.8%ポイント高い。
- 外国直接投資(FDI)の変化:
- ブロック間のFDI案件はブロック内のものよりも減速幅が大きい。
- 非同盟国に対するFDIは急増。2023年第3四半期に発表されたFDI案件の約40%は、非同盟国におけるもの。
- 米中の直接的つながりの変化:
- 米国の輸入に占める中国のシェアは2018年の22%から2023年上半期には13%に低下(5年間で約10%ポイント低下)。
- 中国は発表されたFDI案件の数でインドやメキシコ、アラブ首長国連邦などに順位を抜かれている。
- サプライチェーンの長期化と「コネクタ」国の台頭:
- メキシコやベトナムは米国輸入シェアの拡大と同時に中国の輸出におけるシェアも拡大している。
- 事例:2023年にメキシコが中国を抜いて米国に対する最大の財の輸出国に。メキシコへの新規事業の5件に1件は中国企業による見込み(メキシコ民間工業団地協会の報告)。
- BISの研究:過去2年間にとりわけ中国のサプライヤーと米国の顧客を含むサプライチェーンが長くなったことを示唆。
分断の経済的コスト(試算と影響)
- 貿易・投資の分断は、特化に伴う効率性向上の抑制、規模の経済の制限、競争圧力の低下、知識伝播の減少をもたらす。
- 資本フローの分断はFDI減少を通じて資本蓄積を制約し、マクロ金融安定性リスクを高める可能性。
- IMFの試算例(シナリオに依存するが示唆される範囲):
- 世界が2022年のウクライナ決議に基づきふたつのブロックに分断され、両ブロック間で貿易が行われなくなれば、世界全体の損失はGDPの約2.5%に上る。
- 国ごとの適応能力次第では、損失はGDPの7%にまで膨らむ可能性。
- FDIが分断されると、世界全体で長期的にGDPの約2%に相当する損失が生じかねない(ふたつのブロックの想定シナリオ)。
- 分断の影響は特に低所得国と新興市場国で大きくなる。
- 非同盟国が引き続き多様なパートナーとの関与を維持する場合は、貿易・投資の転換から恩恵を受ける可能性がある。
- グリーン移行への影響:
- 銅、ニッケル、コバルト、リチウム等重要鉱物の貿易が分断されれば、エネルギー移行のコストが上昇。
- こうした鉱物は地理的に集中しており代替が難しいため、価格変動が投資を抑制するおそれあり。
政策提言:分断化のコストを抑えるための3つの原則
- 原則1:共通利益のある分野では多国間アプローチを追求する。
- 例:「緑の回廊」に関する合意でクリーンエネルギー移行に必要な鉱物の国際移動を保証。
- 食料品や医療用品についても国境を越えた最低限のフローを確保する合意を推進。
- 原則2:デリスキングや多様化が必要な場合、無差別的で複数国間のアプローチを採る。
- 経済的パートナーシップや同盟国の範囲を幅広く定義し、地域貿易協定やWTOと整合的な複数国間協定を活用。
- 事例:CPTPP、AfCFTA、2021年12月に70のWTO加盟国が合意したサービス国内規制に関する複数国間協定。
- 政策当局者は経済安全保障を根拠に介入が正当化される狭い範囲の製品や技術のみをターゲットにすべき。
- リスクが低い地域のサプライヤーの欠如を慎重に検討し、供給混乱の社会的・経済的コストを評価すること。
- 原則3:外部性や市場の歪みに対処する際は産業政策等の一方的措置を制限し、期限を設定する。
- 政策目的を市場の失敗の矯正に限定し、可能な限り市場原理による資源配分を維持。
- 産業政策の有効性と国際的波及効果(コスト)を慎重に評価。
- IMFの試算:もし中国が補助金を導入した場合、EUが12か月以内に貿易制限措置を発動する可能性は90%。
- 政府間対話や協議の枠組みはデータ共有や国境を越えた政策影響の特定に資する。長期的には国際的なルール・規範の策定を助ける可能性あり。
結論(まとめ)
- 現時点で広範な脱グローバル化の兆候は見られない一方で、地経学的分断は現実のものとなりつつある。
- 第二次冷戦が本格化すれば経済的コストは大きく、統合が進んだ今日の世界では対処困難な共通課題(気候変動やAIなど)への対応を阻害する恐れがある。
- 最悪のシナリオを回避するためには、自由貿易の利点をできる限り維持しつつ、安全保障とレジリエンスの目標を達成する実践的な政策アプローチが必要。
- 非同盟国(主に新興市場国と発展途上国)は、世界の統合を維持するために自らの経済的・外交的影響力を行使できる可能性がある。
- 分断が本格化すれば最終的に「全員が敗者」になるリスクがあるため、政策当局者はルールに基づく多角的な貿易体制と支える諸制度を強く擁護すべきである。
出典: 第二次冷戦か? 地経学的な分断が進む中での経済協力の維持 — 筆頭副専務理事による総会演説(2023年12月11日、IMF)