新時代の課題に立ち向かう
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- Authors: Dani Rodrik
- Published: March 8, 2024
概要
- 著者: ダニ・ロドリック(ハーバード大学ジョン・F・ケネディ・スクール国際政治経済学フォード財団教授、元国際経済学協会(IEA)会長)
- 公開: 2024年3月
- 主張の要旨:
- 主流派経済学と新自由主義的政策パラダイムがもたらした成果と限界を検討。
- 「時と場合による(context matters)」という立場から、各国の政治・経済的文脈に応じた実用的で創造的な政策設計を提唱。
新自由主義の評価と教訓
- 発見・観察:
- 新自由主義は市場範囲の拡大と政府の役割制限を志向し、多くの重要分野で失敗と見なされている(格差拡大、クライメート・トランジションの停滞、供給網や公衆衛生の脆弱性など)。
- 一方で、多くの発展途上国で記録的な経済成長と極度の貧困の大幅な減少という成果も見られた。
- 中国など成長を遂げた国々は、新自由主義の典型的ルールに従わず、産業政策、国営企業、資本規制、二重価格制、郷鎮企業、経済特区など非在来型政策を用いた。
- 分析的示唆:
- 経済学は抽象的な思考法であり、限界的思考や私的インセンティブと社会的費用・便益の調和などの原則は、具体的な政策解とは自動的に結びつかない。
- 新自由主義の「原罪」は普遍的かつ単純な経験則を押し付けたことにあり、文脈依存性を無視した点が問題。
新たな課題とそのモデル
- 気候変動(最重要課題):
- 経済学上の理想的アプローチの三本柱:
- 炭素価格の十分な引き上げ(またはそれに相当する排出量取引制度)
- グリーンに関わる技術革新の補助金
- 発展途上国への十分な資金流入
- 現実の制約:
- 主権国家中心の国際秩序下で、ファーストベスト策が実行される可能性は極めて低い。
- 中国の産業政策による太陽光発電・風力発電促進や、米国のインフレ抑制法(IRA)とEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、国内政治の説得を前提としつつ世界的にグリーン化を加速させる可能性が高いが、他国へのコスト転嫁を伴う。
- 政策的示唆:
- 経済学者はファーストベスト偏重や単なる費用対効果分析から脱却し、政治的およびセカンドベストの制約に対処できる想像力ある解決策を設計すべき。
- 社会的環境と中産階級の浸食:
- 観察:
- 幅広い中産階級の維持が社会・政治の健全性に不可欠。
- 近年のハイパーグローバリゼーション、自動化、スキル偏重型の技術革新、緊縮政策等が労働市場の二極化を生み、良質な雇用を減少させた。
- 対応策の方向性:
- 従来の福祉国家型枠を超え、労働市場の需要側(企業やテクノロジー)と供給側(技能や訓練)の双方に焦点を当てる政策が必要。
- 生産性向上は、教育水準の低い労働者が良質な雇用を得るために不可欠であり、最低賃金や労働規制の補完となる。
- 雇用吸収力の高いサービス業に向けた産業政策的アプローチや斬新な政策実験が求められる。
- 発展途上国の早すぎる脱工業化:
- 問題の所在:
- 技術進歩により世界市場で成功するための技能集約・資本集約化が進み、製造業における正規雇用のピークがより低い所得水準で到来する結果、早期に雇用の空洞化が始まる。
- これにより過去の輸出志向型工業化戦略の再現が困難になる。
- 政策的示唆:
- 発展途上国も先進国同様、生産性の高いサービス業での雇用を増やす必要がある。
- 非貿易サービス(零細企業多数を含む)に対しては、まだ真価が問われていない革新的政策が必要。
グローバリゼーションの未来
- 観察:
- ハイパーグローバリゼーションは分配問題、レジリエンス重視の潮流、米中地政学的競争の激化により減速。
- 世界経済と国内の経済・社会・政治的責務の均衡を再構築する過程にある。
- ポイント:
- ブレトン・ウッズ体制下でも各国はルールや市場制約が少ない中で長期投資や国際貿易を伸ばして成功を収めた事例がある(例: アジア四小龍)。
- ゼロサム的視点に囚われず地政学を優先視しないことが重要。
- 経済学の貢献領域:
- 各国が国内の経済・社会・環境課題に取り組みやすくする政策ルールを策定することへの助言。
- 世界規模での協力が必要な領域と各国行動を優先すべき領域の明確化を支援。
- 貿易の利益と国の制度的多様性の利益とのトレードオフを議論し、端点解ではない合理的妥協点を探ること。
結論と政策的含意
- 経済学者の役割:
- 気候トランジションの加速、包摂的経済の創造、貧困国における経済発展の促進といった中心課題に対して、具体的かつ文脈に即した解決策を提示すること。
- 入門クラスで教える型にはまった解決策ではなく、経験則を超えた創造的な思考が求められる。
- 経済学は集団的想像力を制限するのではなく、拡大・発展させることで意味を持つ。
出典: ファイナンス&ディベロップメント — ダニ・ロドリック、2024年3月