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中東戦争のショックを和らげる
2026年4月8日
おはようございます。
ひとまず中断された中東での戦争によって、強靭な世界経済が再び試されています。紛争は世界中に大きな苦難をもたらしています。私は、この戦争と、あらゆる戦争によって影響を受けているすべての人に思いを寄せています。
来週、IMFの春季会合に閣僚や中央銀行総裁を迎えますが、そこでは、この直近のショックを乗り越え、経済や人々が受ける苦痛を緩和する最善の方法に焦点を当てることになります。
それには、ショックの性質と、ショックが経済に影響を及ぼす経路、影響の規模、影響を軽減しうる政策について理解することが必要です。
では、私たちを襲ったものは何でしょうか。次のような供給ショックです。
いつものように、負の供給ショックは物価を押し上げています。目安となるブレント原油価格は、開戦直前の1バレル72ドルから、ピーク時には120ドルへと跳ね上がりました。幸い、原油価格は下がっているものの、依然として戦争前を大きく上回っています。そして多くの国が、希少な原油を入手するために、高いプレミアムを払っています。
長いサプライチェーンの末端に位置する太平洋島嶼国のことを考えてみてください。こうした諸国は、このような深刻な混乱を受けて、燃料が今後、自国へ届くか不安に感じています。
供給の中断は、すでに波及効果を及ぼしており、この先もしばらくそれが続くことになります。波及効果には、次のようなものがあります。

ふたつ目の問いは、このショックがどのように広がるのか、という問いです。主に、3つの経路があります。


1970年代や2020年代の初頭にも同じことが見られました。最終的にはショックの大部分が解消し、新たな均衡が訪れることがわかっています。供給が回復し、需要が調整されます。新たな供給能力が稼働し始めます。エネルギー効率が向上します。
その証拠として、1980年代以降、いかに世界のエネルギー集約度が段々と低下してきたかを見てください。それがショックを和らげています。再生可能エネルギーの割合が増えているものの、石油は引き続き燃料の中で最大のシェアを占めています。

世界が対応を図る中で、エネルギー効率とエネルギー多様化に向けた集団的な取り組みを維持することが重要です。エネルギー安全保障への道筋は国によってさまざまですが、すべての国がそれに向けて努力しなければなりません。
3つ目の問いに移りたいと思います。成長への影響の規模はどのくらいか、という問いです。
答えは、停戦が維持されて持続的な平和につながるか、そして、戦争によってどれだけの被害が後に残るかによって変わってきます。
不確実性を考慮して、来週公表されるIMFの「世界経済見通し」では、比較的迅速な正常化から中間のシナリオ、そして原油・ガス価格がより長期にわたって高止まりし、二次的な影響が広がるというシナリオまで、幅広いシナリオを取り上げています。
これらのシナリオはいずれも、好調なAI・テック投資や緩和的な金融環境、その他の要因によって、世界経済に大きな勢いがもたらされていた状況が出発点になっています。
実際、今回のショックがなければ、私たちは世界経済の成長率予測を引き上げていたはずでした。
しかし今では、最も希望が持てるシナリオにおいても、成長率は下方改定されています。なぜかというと、インフラが大きな損傷を受け、供給が混乱し、信頼が失われ、その他の爪痕が残るからです。
カタールのラスラファン複合施設を例にとってみましょう。この施設は、適切に行われた戦略的投資の極めて重要な一例ですが、湾岸諸国におけるLNG生産の93%を占め、約80%をアジア太平洋地域に輸出していました。アジア太平洋地域は現在、深刻な燃料不足に見舞われています。ラスラファンは3月2日以降、実質的に閉鎖されており、3月19日には直接攻撃を受け、完全な能力の回復には3年から5年かかる可能性があります。

最善のケースでも、元の状態に完璧に戻ることはないでしょう。
関連する事例として、紅海のバブ・エル・マンデブ海峡における船舶の通過が、現地で発生した壊滅的な混乱から完全には回復しなかった点が挙げられます。 2023年の水準の約半分にとどまったままです。

ですので、ホルムズ海峡の航行についても、域内の航空交通の回復についても、将来がどうなるか本当のところはわからないというのが現実です。
成長が減速することは確実にわかっています。新たな平和が持続するとしてもです。
そして、世界各地で大きなばらつきがあることもわかっています。最も影響が小さいのは、原油やガスを妨害されずに輸出できる国です。反対に、封鎖に影響された石油・ガス輸出国を含め、戦争によって直接混乱が生じる国と、石油・ガスの輸入に依存する国は、影響を真正面から受けます。
影響の深刻さは、各国が有する政策余地の大きさによって明確に左右されます。ペルシャ湾発のタンカーの運行に5週間の遅れが生じていることを踏まえると、政策余地には石油やガスの備蓄も含まれます。
いくつかの重要なグラフをお見せしながら、差を生む3つの要素について説明したいと思います。


とはいえ、石油はグローバルな一次産品であり、紛争影響地域から遠く離れた場所で交易条件の改善を享受している石油輸出国も、原油価格上昇の影響を実感しています。
最後の問いは、各国は何をすべきか、というものです。
予め、1点注意喚起したいと思います。今回のショックは古典的な負の供給ショックであり、需要の調整が不可避だということです。
政策当局者はいくつもの方法で貢献できます。そしてもちろん、事態を悪化させないよう気を付けなければなりません。ですので、私はここで、すべての国に対して、輸出管理や価格統制といった単独での対応を排除するよう呼びかけます。火に油を注がないでください。
それ以外にも、過去のショックの時と同様に、警戒心と機動性が鍵となります。状況の変化に伴って、世界がある状態から別の状態に移行するかどうか、いつ移行するかを察知することが課題となるでしょう。
実際に何が起こっているのか、簡単に見てみましょう。
金融政策に関しては、市場は主要中央銀行が政策スタンスを引き締めると予想しています。こちらは、市場が予想する4つの主要な政策金利経路ですが、いずれも上方にシフトしています。

エネルギー政策に関しては、多くの国が、一般的なキャンペーンや自動車の使用制限、リモートワークなど、緊急の保全措置を実施しています。こうした対策については、国際エネルギー機関(IEA)のエネルギー政策トラッカーに詳しく記録されており、こちらにその概要を示しています。

ちなみに、こうした情報共有は、IMFがIEAおよび世界銀行と協力して調整グループを立ち上げた理由を浮き彫りにするものです。IMFは、このグループにおいて、マクロ経済学の面で主導的役割を果たします。
最後に、財政政策に話を戻しますと、大半の国が適切に方針を維持し、的が絞られていない減税やエネルギー補助金、価格ベースの措置を回避しているのが見て取れますが、いくつかの国は広範な支援を実施することを選択しています。ここで再び、IEAのまとめを見てみましょう。
価格シグナルを抑制する措置は、必要な需要の反応も鈍らせ、その結果、世界のエネルギー価格が上がることになります。私たちは、各国が財政支援の的を絞り、時限的な措置に実効的なサンセット条項を設ける支援を行っていきます。
その際、私たちは、財政政策と金融政策が反対方向に引っ張り合わいないことが重要である点も強調します。
すでに、世界ではベンチマーク・イールドカーブが上昇しており、債務のコストを押し上げています。現時点でこの状況に赤字で賄われた景気刺激策を追加すれば、金融政策の負担を増大させ、そうしたシフトに拍車をかけることになるでしょう。片方の足でアクセルを踏み、もう一方の足でブレーキを踏むようなものであり、良くありません。

近日公表予定の「財政モニター」で示すとおり、世界は財政余地の問題を抱えています。公的債務は、大半のG20諸国を含め、概して20年前よりも大きく拡大しています。これは、事情が許していた時期に、財政健全化が広い範囲で放置されていたことを反映しています。

その結果、あらゆる所得レベルで、歳入に占める利払い費の割合が上昇しています。それが意味するところは明らかです。すべての国が限られた財政資源を責任ある形で活用し、多くの国が今回のショック後に財政余地の再構築に向けて断固として取り組まなければなりません。この点はいくら強調しても足りません。

次に、金融セクター政策に移りたいと思います。「国際金融安定性報告書」で強調しているとおり、金融規制当局と監督当局が流動的な状況に対して注意を払い、機動的で、機敏に対応することが不可欠です。
金融環境は、テクノロジーに対する楽観主義と、ノンバンクを中心とする新たな金融仲介機関に後押しされて、しばらくの間、非常に緩和的でした。それは成長を押し上げた一方で、反転のリスクも生んでいます。例えば、AIの膨大なエネルギーニーズを考慮して、投資家がエネルギー不安によるAIの成長の抑制を懸念し始めれば、私たちは厄介な事態に陥りかねません。
ミクロとマクロのプルーデンス政策は、金融安定性リスクを抑制し、強靭なシステムを確保するために機能する必要があります。
その上で、私は最も重要な教訓について強調したいと思います。優れた政策が違いを生む、ということです。各国には制御が不可能な要因がありますが、自国の政策や制度に対しては権限を有しています。
注意してください。皆さんの国のファンダメンタルズの力強さと機動性が、ショックが到来した際に最良の防御となります。そして、ショックは実際にやって来るでしょう。
さらに、現在のショックの後遺症に対処する際には、テクノロジーや人口動態、地政学、貿易、気候に関する世界の大変革において、より良い未来を築くように舵を取ることを忘れないでください。各国の構造政策と規制政策の選択が、生産性と長期的な成長の土台になります。そして、潜在成長力は安定にとって極めて重要です。
IMFにとって、皆さんが強力な政策や制度を構築するのを支援することが使命です。そして、私たちは火消し役として、危機の際には皆さんを支える用意があります。
もう一度、投機的格付けの脆弱な石油輸入国に目を向けてみましょう(図14a)。IMF支援プログラムの対象国をすべて青色で色付けしてみます。必要に応じて、こうしたプログラムを拡大できます。今後、プログラムが増えることは確かです。

中東戦争の波及効果を踏まえて、私たちは、IMFの国際収支支援に対する短期的な需要が、200億ドルから500億ドル増加すると予想しています。停戦が維持されれば、額は下限に近くなるでしょう。
ここでは、ふたつの点に注目すべきです。ひとつは、一部の主要国を含め、多くの新興市場国における過去数十年にわたる健全な政策決定がなければ、この額の範囲はもっと高かっただろうということです。もうひとつは、私たちには今回のショックに対応するための十分な資金があるということです。
ですので、IMFの191の加盟国は、資金が必要になった場合には、私たちの支援を頼りにすることができます。そして、加盟国をまとめて、不確実性の霧を抜け前に進む道筋を見出す上でも、私たちを頼りにすることができます。来週は、まさにそのことがテーマになります。
ご清聴ありがとうございました。中東とあらゆる場所に永続的な平和が訪れるよう祈りましょう。戦争は、私たちが取り組むすべてのことを奪い去るからです。