IMFの短期流動性枠(SLL)
2020年4月22日
流動性に対する必要性が高まり、世界の不確実性が増している中、IMFは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の一環として短期流動性枠(SLL)を新設した。短期流動性枠はショックがより深刻な危機へと発展し、他の国々への波及効果が生じるリスクを最小化することを目的としている。
短期流動性枠(SLL)は、政策枠組みやファンダメンタルズが非常に強固である加盟国を対象に、国際収支面での困難をもたらす外的なショックの結果、大規模ではない流動性を短期的に必要としうる場合に利用できる流動性の面での安全策として設計されている。この流動性の安全策は、国際通貨基金(IMF)融資制度や国際金融のセーフティネットの他要素を補完するものである。
流動性の安全策
短期流動性枠は一般資金勘定(GRA)の中に特別な制度として設けられている。流動性を供給するために設計されており、リボルビング型の融資提供など革新的な特徴がある。
- 国内で発生するショックではなく、対外的な動向にともなって頻繁に生じる資本収支圧力に関連して大規模ではない国際収支ニーズが短期的に発生しうる場合を想定して短期流動性枠は制度設計されている。通常の年間利用額の上限として、クォータ(出資割当額)の145%が設定されている。
- 短期流動性枠による個別の融資取極は、対象期間を12か月として承認されることになる。また、加盟国が適格条件を満たし、国際収支の面で特別なニーズを抱えている限り、後継の取極も承認されうる。
- 短期流動性枠はリボルビング式で利用できる制度で、この制度に基づく個々の融資取極の中で、また複数の融資取極をまたいで、全額もしくは一部の買い入れと買い戻しを繰り返すことができる。買い戻しを行うことで、加盟国には承認された利用上限額まで再び買い入れを行う権利が復活することになる。
低コスト(特に予防的に活用された場合)
- 短期流動性枠には特別な料金体系が設定されており、払戻不可のコミットメントフィー(8ベーシスポイント)とサービス料(21ベーシスポイント)が課される。
- 短期流動性枠は、利用枠の規模が同水準だと、純粋に予防的に活用された場合、フレキシブル・クレジットライン(FCL)よりも料金が安価である。
- 加盟国が短期流動性枠からの引き出しを行うと、通常手数料、また、借入額に応じた追加手数料が課される。短期流動性枠は、対処の対象となるショックの性質を踏まえ、繰り返して活用されることが想定されて設計されているが、加盟国が2回引き出しを行った場合、融資枠の水準が同様の場合だと、フレキシブル・クレジットラインと同程度の利用料金で活用できる。
- 準備金と比較しても費用を節約でき、政策の力強さについて望ましいシグナルを発信できるため、政府債務の利回りが低下することからも恩恵を受けられる可能性が高い。
国々のニーズにあった革新的な特徴
- 短期流動性枠はフレキシブル・クレジットライン同様に事後のコンディショナリティや審査が存在しない。
- IMF理事会は融資枠の提供を「提案する」ことを承認する。この融資枠の設定は、政府当局が2週間以内に文書に署名して通知する「受諾」次第である。
- 一定の要件が満たされる場合、文書による連絡上、中央銀行だけが署名者となることも可能となる。国際収支上のニーズの規模が限定的であり、政策の微修正のみが必要であると見込まれるため、関連する政策ツール(為替調整、為替介入、金利変更)はすべて政府関係機関の中でも中央銀行の管理下に置かれていることが典型的だ。
非常に強固な政策とファンダメンタルズを備えた加盟国を対象
- 短期流動性枠は強固なファンダメンタルズと政策枠組みを備えた加盟国を対象にするが、フレキシブル・クレジットラインと同じ適格条件が課される。適格条件評価の中心は(a)対象加盟国の経済的なファンダメンタルズと制度的な政策枠組みが非常に強固か(b)現在、非常に強力な政策を実行しており、かつ過去にも長期的に同様の実績があるか(c)こうした強力な政策を将来的に維持することを固く誓っているかである。詳細については、フレキシブル・クレジットラインの運用指針ノート(英語版)を参照ください。
フレキシブル・クレジットラインと同じ適格条件が適用されることで、国際収支上の特別なニーズの要件が満たされた場合、フレキシブル・クレジットラインから短期流動性枠への移行が促進されることになる。また、必要かつ妥当だとみなされた場合には逆もありえる。表1には短期流動性枠とフレキシブル・クレジットラインの比較が記載されている。また、短期流動性枠の主な特徴については「国際金融のセーフティネットは十分か フレキシブル・クレジットライン、予防的流動性枠の検討と融資制度改革の提案」(英語版)と「IMFによる新型コロナウイルス対策 国際金融のセーフティネットを強化するために短期的な流動性枠を新設」も参考になる。
短期流動性枠(SLL)とフレキシブル・クレジットライン(FCL)の主な特徴の比較 | ||
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短期流動性枠(SLL) |
フレキシブル・クレジットライン(FCL) |
制度 |
特別ファシリティ |
クレジット・トランシュ |
目的 |
通貨スワップのような流動性支援を国際収支上の特別なニーズを持つ非常に安定した加盟国を対象に提供する |
非常に安定した加盟国を対象に、当該加盟国が国際収支上のどのようなニーズにも対応できるように支援する |
国際収支上のニーズ |
国際収支面で大規模ではない問題が短期的に発生するリスクがあり、これが資本収支への圧力にも、国際資本市場でボラティリティが生じることで加盟国の準備金への圧力にも反映されている |
種別を問わず |
条件 |
次の評価に基づく
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買い戻し期間 |
12か月 |
3年3か月から5年 |
利用枠 |
クォータの最大145% リボルビング式で利用可能 |
上限なし |
融資取極の期間 |
12か月 |
1年から2年 |
料金 |
特別な料金体系が適用される
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クレジット・トランシュに基づき適用される通常の手数料。
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発効 |
IMF理事会が「融資枠の提供を提案」することを承認し、加盟国から署名がなされた文書での連絡をIMFが受領したことを確認した時点で取極が発効する。この文書での連絡には「融資枠の提供」を受諾する旨、また政策面での約束が記載されている必要がある。理事会の非公式会合が事前に行われる必要はない。 |
IMF理事会が取極の要請を承認した時点。理事会の非公式会合が事前に行われる必要がある。 |
署名 |
想定される調整が、それが必要な場合でも、その程度がより限定的であることを踏まえ、文書での連絡には中央銀行の署名だけで済む場合もある。 |
フレキシブル・クレジットラインの下で対応できる国際収支上のニーズの幅広さを踏まえて、中央銀行と政府の両方が文書での連絡に署名するのが一般的である。 |
事後のコンディショナリティ |
なし |
なし |
審査 |
なし |
2年間の取極について適格かを審査後継となる取極 |
後継となる取極 |
適格性が持続している、また、国際収支上の特別なニーズが潜在的に存在するとIMF理事会が評価した場合に制限なし。 |
2世界的なリスクが低下するのに応じて、取極の終了が想定されている。 |